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アテルマ国の真実

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 物心ついた頃から親がいないことは分かっていたが、それからしばらくの記憶が欠落している。記憶があるのは、ある程度自分で判断できる年齢になってからのものなので、親がいないことを自分なりに納得していた。
 なぜ親がいないのかという理由は分からない。欠落している記憶の間に、自分で納得したのか、記憶が残っている間、親を意識したという思いはなかった。
――親なんかいなくてもいいと思っていたんだ――
 と更科は思っていた。実際に親がいなくても、別に寂しくも悲しくもなかった。
――欠落した記憶は、親がいないことが原因ではないか?
 と思った時期もあったが、それは記憶の欠落が自分だけだと思っていた時であり、逆に自分以外にも記憶が欠落している人がたくさんいるということを知ったことで、
――記憶が欠落するほど、親のいないことをショックになど思っていないんだ――
 と感じた。
 更科は施設出身者だったが、才能を見出してくれたのは、中学時代の恩師だった。ちょうどその頃、アテルマ国は才能のある少年の発掘に躍起になっていた。それぞれの中学校に、才能のありそうな子供を数人ピックアップさせ、リストを作成していた。
 才能と言っても、多岐にわたるもので、更科はその中で数学的なことに対して、他の人にはない特別な考え方を持っていた。数学の成績がいいというわけではなかったが、アテルマ国にとって必要な数学的な発想を持った少年であったことに間違いはなかった。
 アテルマ国の施設は、小学生まで引き受けていた。中学に進学すると、誰もが横一線に見える。しかし、施設出身者は優遇されていた。表向きには平等だったが、施設では情操教育が施されていたのだ。子供もそこまで知る由もないので、意識していないが、知っているのは、ごく一部の人たちだけだった。
 また、その一部の人たちのほとんどは、子供の頃の施設出身者だ。施設出身者の方が、親がいない分、何かと柔軟に教育ができる。そういう意味では施設出身者は、
――国家のための人間――
 として教育されていたのだ。
 見覚えのある光景であるにも関わらず、そこがアテルマ国ではないと感じたのは、どういうことだろうか? こんな時、更科は奇怪な発想をする。それも彼の一種の才能の一つだと言えるであろう。
――誰かの記憶と錯綜しているんだろうか?
 自分以外にも記憶の欠落した人はたくさんいる。そこに作為を感じることができると、記憶が錯綜しているという考えも案外奇抜ではないかも知れない。
 思い出した記憶の中に出てくる施設を見守っていた。なぜそこがアテルマ国ではないと分かったのかというと、先生と思しき人たちがシスターだったからだ。シスターは、キリスト教を信じる教会にいる。しかし、アテルマ国は信仰の自由は完全には認められていない。特にキリスト教は、禁止宗教として挙げられていた。
 それなのに、見た瞬間に違和感がありそうなものなのに、どうしてすぐに違和感を感じなかったのか不思議だった。
 シスターの一人に見覚えがあった。それも、シスターの姿をしているその人に見覚えがあるのだ。つまりは、更科はアテルマ国以外の国にいたことはないはずなのに、見覚えがあるということは、誰かの記憶と交錯していると考えると、奇抜ではあるが、納得のいく発想になる。
 今から思えば、親に対しての記憶も、後から作られたものではないかという疑いを持ったこともあった。
――一体、どこまでが信じられるんだ――
 考えれば考えるほど、余計なことにしか思えない。
 ここまで作為的な臭いがしてくると、自分が人体実験されているのではないかと思えてきた。
 更科は、自分の研究に人体実験は絶対に行わない。人道的にありえないという発想があるからだが、その発想の原点は、両親にあるのではないかと思い始めた。
 親がいないとずっと思ってきたが、途中から、母親が失踪したということを知らされた。本来であれば、子供にそんなことは教えないはずなのに、自分に対して敢えてそのことを教えたのは、その話を聞いた更科がそれほどショックを受けないだろうという思いと、更科がそのことを知ることで、何か大きな変化が生まれると思った人がいたからなのかも知れない。
 実際に、更科はその話を聞いて、ショックは受けなかった。
――いまさら――
 という思いもあったし、どこか他人事にしか思えなかった。
――死んだと聞かされている父親も実は生きていて、他の国で二人は人知れずに暮らしているのかも知れない――
 と感じるほどだった。
 更科は、この国にある施設が、養護施設というよりも、国家の何か秘密になる施設であったという思いが強くなった。
 しかも、その時代のアテルマ国は、六角国の属国になる少し前だった。
 六角国のような国は、一つの国を属国にする場合、表に出る前に「下準備」を怠りなく行っているはずだった。その行動は電光石火のごとくで、属国にすると公表した時点では、すでに体制は決まっている状態だったであろう。
 そこまで考えてくると、自分もその時は、
――六角国の掌の上で踊らされていたのではないだろうか?
 と思えてきた。
 そして、彼らなら、
――人体実験くらい、いくらでもしそうだ――
 と、考えた。
 自分が人体実験は絶対にしないと思っているのは、自分の潜在意識の中で、人体実験をされたという意識が残っているからなのかも知れない。記憶の欠落は、六角国による証拠隠滅ではないだろうか。
 それにしても、そこまでの科学力がありながら、実際に表に出てきている六角国は、先進国の仲間入りをしているとはいえ、まだまだ中央に出るだけの器ではない。
――裏でいろいろ画策するには、あまり表舞台で目立たない方がいい――
 と思っているのかも知れない。
 アテルマ国は、そんな六角国の思惑に翻弄された「犠牲者」とも言える国なのではないだろうか。
 ただ、更科は自分の記憶がないことに、六角国が関わっているということには疑いはないが、どうもそれだけではないような気がする。それほど自分の記憶の欠落が単純なものではないと思えるのは、
――僕も混血だったのかも知れないな――
 と思ったからだった。
 まだアテルマ国が純血主義を表に出すかなり前のことなので、一緒に考えることはできなかったが、両親のどちらかが、アテルマ民族ではないということであれば、母親の失踪というのも、理解できなくもない。すでに二人はそんな前から、アテルマ国の純血主義を見抜いていたのだろう。自分たちが失踪することで、自分の子供が混血ではないというイメージを植え付けることができる。当時は、まだ照射することで混血かどうか、分からなかったからだ。
 アテルマ国の首脳も、父親がいないと息子の「本来」を知ることができない。アテルマ国では、アテルマ民族の母親に、他民族の父親の血が混じると、父親そっくりになってしまうという研究結果が出ている。そのため、最初はアテルマ国の女性と六角民族の男性の結婚を禁じていたが、男性側を一国に限定することは、国連憲章で唱っている、
「憲法に固定国攻撃を入れてはいけない」
作品名:アテルマ国の真実 作家名:森本晃次