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アテルマ国の真実

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 国家体制が整っていくことに、国連の視線が行っていたことで、憲法については、盲点となっていた。世界的に草案まである程度整っていれば、憲法はその後、その国の自治に任されるという慣習があるため、アテルマ国の憲法発布までは問題なく進んだ。
 ただ一点、一人の高官が示した条文が盛り込まれていなければであった。
 そこに盛り込まれていた内容は、
「国民に、他の国の異性と結婚することを禁じる」
 というものだった。
 他の人権はほとんど認められていたが、結婚の自由だけは制限されていた。
 ただ、同じアテルマ国の人間であれば、結婚はどんな身分であろうとも禁じることはない。そして、結婚する相手が混血である場合も、その限りにあらずであった。もし、この法律に背いた場合は、行政法や刑法で定められていて、
「国外退去もありうる」
 と書かれていた。
 もちろん、罪を犯せば裁判にかけられる。裁判に掛かると弁護士も受けられる権利があり、他の罪と同じ経緯で刑が決まってくるのだ。
 ただ、今までにこんな法律は前代未聞だった。他の国でも類を見ないものであり、しかも、私法にだけ書かれているわけではなく、憲法で禁止されている。
 しかし、すでに憲法は発布されてしまった。公布までには時間の問題だった。それを抗うことはもはやできない。国民はそれに従うしかなかったのだ。
 どうして、こんな理不尽な法律ができたのかというと、この国の歴史に関係がある。
 元々、カメリス民族によってこの地域が占領されたことが、この国の歴史の始まりだと言ってもいいだろう。それが、憲法制定の二百年ほど前だった。
 それ以前といえば、ほとんど書物が残っているわけではない。地元民族がひっそりと暮らしていた地域だった。それまでは、この地域には資源はないと言われていて、原住民が自給自足を行って過ごしてきた平和な地域だったのだ。
 全世界は、まだ植民地支配までは行われておらず、この地域にまで入ってくる先進国はなかった。まだまだ未開の地と呼ばれる地域も世界にはたくさんあり、アジア地区でも、このあたりが一番侵略を逃れられた地域だった。
 隣国の大国である六角国は、まだ前の王朝の時で、帝国主義ではなかった。他の国を侵略するようなことはなく、国土が大きいせいもあってか、内乱の危機を絶えず気にしていなければならなかった。
 しかし、内乱さえなければ、自国の領土だけで十分な資源は眠っていた。敢えて、隣国に攻め込む必要もなかったのだ。
 しかも、六角国からアテルマ国の国土に入り込むには、高い山脈を超えてこなければいけなかった。まだ航空戦力などなかった時代、陸軍だけで攻め込むにはリスクが大きすぎる。隣国だという意識はあったが、必要とする国ではなかったのだ。
 だが、時代が植民地支配の時代になり、六角国も革命が起こり、今の政府になってからは、自分たちが植民地にできる地区を探していた。
 アテルマ国に資源が眠っていることを六角国の学者が発見したこともあり、アテルマ国の存在は六角国にとって、大きなものになった。
 直接支配はするが、なるべく世界を刺激しないようにするには、傀儡国家を樹立し、あまり直接支配を表に出さないようにしなければいけなかった。そのために六角国の動きは素早く、あっという間に裏での属国支配がはじまった。
 ただ、その頃にはすでに六角国はカメリス人によって支配されていた。もちろん、アテルマ国内のカメリス人は、六角国の侵略を本国に報告したが、本国からの返事は、冷たいものだった。
「わがカメリス国は、弊国の内政には干渉しない」
 というものだった。
 カメリス国にとっても、すでに植民地支配は飽和状態になっていたのだ。六角国と衝突を避けるために見捨てられたのだが、本当は水面下でカメリス国による六角国侵攻作戦が進んでいて、アテルマ地区を見捨てなければ、六角国に悟られると考えたのだ。
 その後、アテルマ国が六角国から見放された時、アテルマ国の住民が冷静だったのは、そんな過去があったからだ。
「自分たちの国家は自分たちで守らなければいけない。属国になるというわけではなく、他の国とは対等外交ができるようになることを目指していく」
 というのが、元カメリス民族のアテルマ政府高官の考え方だった。
 その時の高官は、元々のカメリス民族の中でも、占領軍の長官だった人の孫に当たる。父親は図らずも六角国の傀儡国家で働いていた。それでも傀儡国家ではナンバーツーとして表に出ていたことを考えると、この高官はエリート一家と言えるだろう。
 彼の名前は、岩見高官という。独立した時点から、
「初代大統領には岩見氏が最有力」
 と目されていた人で、彼の研究成果と論点には見るものがあった。他の誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出しているのも彼独特のもので、その分、参謀である真田参謀のスポークスマンとしての才能も高く評価されている。
「あの二人がいれば、アテルマ国は大丈夫だ」
 と言われていた。それだけ二人は国家運営には長けた力を持っていたのだ。
 そんな岩見高官が示した、
「国民に、他の国の異性と結婚することを禁じる」
 という法律は、奇抜であり、乱暴ではあったが、示した人が他ならぬ岩見高官であれば話は別だ。アテルマ国首脳部も、ほとんど満場一致の形で採用され、憲法に盛り込まれることになった。
 国民の多くは、
「確かに憲法で禁じてはいるけど、本当に国外退去になったりなんかしないさ。情状酌量だってあるんだ」
 殺人や強盗などのように、他人を殺めたり傷つけることではないので、それほどひどい罰はないだろうと思っていたが、実際にはそうではなかった。憲法制定後の数年経ってから、一人の男性が、外国の女性と結婚した。子供が生まれる前だったのだが、
「彼らは、国家反逆罪にも値する」
 という裁判官の判決で、子供ができなかったことを酌量の余地として、国外退去を言い渡された。
「もし、子供が生まれていれば、子供は死罪。夫婦ともに極刑もありえた」
 と言われた。
 何しろ国家反逆罪なのだから、国外退去程度で済んでよかったというべきであろうか。
 国外退去になった二人は、アメリス国に亡命した。小国であり、敗戦国としてまだまだ復興がままならない国であったが、男性の方としては、第二の故郷だった。逆に女性の側の国は、二人の受け入れを拒否した。理由は、
「アテルマ国と問題を起こしたくない」
 というものだったのだが、その考えはある意味賢明だったかも知れない。
 それから十年も経たないうちに、アテルマ国は十年前まで、六角国の属国だったなんて思えないほど、急成長を遂げていた。
 元々、社会主義体制の国としてではなく、民主体制であれば伸びる国だったのだろう。それでも他の民族との血の交わりには目を光らせていて、憲法ができた当時よりも、さらに厳しく取り締まられるようになっていたのだ。
「単一民族だから、急激な発展が達成できたのだ」
 というのが、初代大統領になった岩見高官の言葉だった。
「かつての民族主義と違って、最初から我が国は純血民族なのだ」
 という岩見大統領の言葉通り、六角国の属国だった時代も、六角国の血が混じることはなかった。
作品名:アテルマ国の真実 作家名:森本晃次