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アテルマ国の真実

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 と言われていたが、水面下で行っていることなので、国連も内政干渉になるので、迂闊に介入できなかった。
 しかし、アテルマ国は早い段階で開国した。しかも、開国を迫る声はあったが、圧力があったわけではない。まさかそこに六角国がアテルマ国を見捨てるというシナリオができあがっていたなど、どこの国も想像していない。なぜならアテルマ国の独立は、壮大な六角国が制定している、
「長期国家体制計画」
 と呼ばれるものの一環であったからだ。
 長期というのが、どれほどの長さによるものか、他の国には分からない。ただ、そういう考え方が、
「国民大会」
 と呼ばれる国会のようなところで話し合われていることだけは分かっていた。
「ここでいう長期というのは、たぶん、五十年ではないだろうか?」
 というのが国連常任理事国の大半の国が考えていることだった。
 六角国によるアテルマ国の開国から独立までは、シナリオに書かれたとおりに進んでいて、その計画に寸分の狂いはなかった。電光石火の早業に、少しでも狂いが生じていれば、こんなにアテルマ国からの撤退はうまく行かなかっただろう。アテルマ国からの抵抗もあっただろうし、国連の常任理事国から、反対の意見、つまりはアテルマ国の独立が承認されるまでには、かなりの高いハードルを飛び越えなければいけなかっただろう。
 そうなれば、六角国がアテルマ国から撤退するということ自体、考え直さなければいけない。あくまでも経過通りでなければうまく行かないことは分かっていた。そう思うと、すべてを水面下で最初に下準備をしておいて、本番の一発勝負を勝負を完全なものにしたのだった。
 アテルマ国の現在の首脳は、その時の首脳と勝るとも劣らない頭脳明晰の連中ばかりだった。
 それが、アテルマ国の運命を、存亡の危機から救ったと言っても過言ではない。アテルマ国は、六角国のわがままとも言える身勝手な支配から解放されたのは、自由になったわけではなく、見放されたのだということをすぐに見抜き、
「自分たちで何とかしなければいけない」
 ということを悟ったことが、国家存続を可能にしたのだった。
 しかし、国家存亡がゴールではない。やっとスタートラインに立っただけだ。
――自分たちでこの国を運営していかなければいけない――
 今までの傀儡国家では、アテルマ国の人間は、まったく参加させてくれなかった。何しろ情報操作をしているのだから、参加できるはずもない。しかし、独立してしまうと、政治参加したことのない、
「政治未経験者」
 による国家運営が任されることになる。
 形は自ら独立したことになっているので、国連から、臨時政府の手助けが行われたとしても、それはあくまで最小限度のことである。実際の国家運営のために障害となっていることは、あくまでもアテルマ国の問題として、国連から派遣された臨時政府の人には、まったく関りのないこととして、手も出さない状態だった。
 臨時政府の期限は二年。実に短いものだ。これでは法律制定はおろか、治安回復だけでもすべてうまく行くか難しいくらいだった。実際に、治安回復の道半ばで、国連も撤退していく。アテルマ国に介入してくる者からは、結果的に、中途半端な状態で放り出してしまうことになるのだった。
 そのため、自国の法律作成が急務となった。特に憲法制定をどのようにするかが、アテルマ国の運命を握っていると言っても過言ではなかった。
 憲法制定には、国連から選定された人がやってきた、
「アテルマ国憲法制定委員会」
 という名目で五名が選出された。そのうち三人は元々アテルマ国の人間で、つまりはカメリス民族の血を引いている人たちだった。
 とはいえ、アテルマ国は大戦での敗戦国ではない。あくまでも独立国としての憲法制定となるので、主導はアテルマ国代表に委ねられる。憲法制定委員会は、ある意味、
「立会人」
 という色彩が強く、アテルマ国が困っていれば手を差し伸べるという程度のものだったのだ。
 そのせいもあってか、アテルマ国の憲法は順調に作成されていった。草案ができるまでにはそれほど時間が掛からずに、できた草案までは国連でその内容について審議もされたが、別に問題になるところもなく、無事に通過できた。
 憲法制定は、草案ができて審議するまでは国連が介入するが、そこから修正案ができたりした場合は、国連が介入することはない。なぜなら、ここから先が本当の内政干渉に繋がるからだった。
 アテルマ国は、草案ができてから、いよいよ政府高官が介入してくる。それまでの憲法制定委員会が担っていた役割を引き継ぐ形になるのだ。
 政府高官の意見は、斬新なものだった。
「どうしても、これだけは譲れません」
 一人の高官が、意見書を纏めてきた。その内容は結構な厚さの資料だったが、さすがにそれを最初から最後まで読破した人はいなかった。
 憲法発布まで決めなければいけないことはたくさんあるので、いちいちそんな意見書を隅から隅まで読破するなど、できるはずもなかったのだ。
 それでも、彼の意見は強硬だった。
「どうして、そんなにこだわるんですか?」
 と聞かれると、
「我が国は、ずっと六角国の属国だったという経緯があります。その間に鎖国もし、開国もあった。しかし、そのすべてが我が国主導ではなく、六角国によって行われたこと。この国が完全に独立するまでは、一応国としての体裁はありましたが、独立国ではなかった。六角国の傀儡政府があって、すべて彼らが本国から指示を受けて、この国を運営してきたんですよ」
「それでも何とかやってこれたではないですか。私はこの国の憲法を民主国家の普通の憲法にしたいと思っているのに、あなたの提案を入れると、どこか独裁国家の様相を呈してくるようで、それが心配です」
「独裁国家は六角国ではないですか。大戦が終わるまでの帝国主義は崩壊したけど、独裁主義はまだ残っている。そんな六角国からの影響を消すには今しかないと思っています。ここに書いてある報告書をまとめるまでに、国立大学の遺伝子研究の第一人者である博士を中心とした研究メンバーに、私はずっと研究をやらせていました。これは、アテルマ国建国の前からのことです。私は、今こうなることをその頃から危惧していました。だからこそ、今、こうやって憲法制定に携わっていると思っています」
 彼の熱弁に、他の人たちは沈黙していた。彼はさらに最後にこう付け加えた。
「国家の存亡。私が考えているのはそれだけです」
 その言葉には重みがあった。
 他の高官の中には、
「そんなにいきり立つこともないだろう。憲法で雁字搦めに国民を縛ってしまうと、反乱が起こったり、民主政治を行う上で、政府の体制が危うくなってしまうことを考えると、彼の提案は承認できない」
 と思っている人もいた。
 しかし、それでも彼のいう、
「国家の存亡」
 という言葉は、まわりが考えているよりもさらに先を見据え、そして、今しておかなければいけないことを提案しているのだ。
 抗うことは簡単だが、あまり簡単に考えてしまうことが危険であることは、自分たちが今まで六角国の支配の下、国家について何も考えてこなかったのではないかということを考えさせられたのだった。
作品名:アテルマ国の真実 作家名:森本晃次