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短編集11(過去作品)

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 身長も百五十センチと少しほどであろうか。百八十センチ近くある私と並ぶと、さぞや小さく見えることだろう。しかも痩せ型のため、私よりも二まわりくらい小さく感じる。しかし顔はポッチャリ系で、そこに魅力を感じたのだ。
 元々美人タイプというよりかわいいタイプが好きな私の前に、タイミングよく現れたという気持ちが強い。
 さおりと付き合うようになってから初めて見た彼女の笑顔に、ドキッとしたものを感じた。まるで前から知っていたような錯覚を覚えたのはその時からで、その思いは薄れるどころか、どんどん私の中で膨れ上がっていくのが分かった。
――夢に見たのだろうか?
 以前から知っていたのでは? と思うようになってから、彼女が自分の理想の女性であるという認識を深めた。
 私にとって、まったく違和感のない出会いなのだ。
 以前から知っていたような気がすると思えば思うほど、さおりとの「自然な出会い」が心地よく感じる。決して運命的な出会いというわけではないのだが、それだけに新鮮さを感じるのだ。
――肩に力の入らない付き合い――
 ということなのだろう。
 いつも一緒にいてさおりの顔を眺めているだけでいいくらいだった。さおりも深くは求めないし、付き合っているにもかかわらず、まったく相手に気を遣わなくて済むことが、私にとって一番嬉しかった。
 そんな付き合いというのは、得てして自分から大袈裟に喜びを表現するものである。
――まるで子供のようにはしゃいで――
 と、後で考えれば自分で恥ずかしくなる時もあるが、それもさおりの自然な笑顔見たさのことだと自分に言い聞かせているので、違和感はまったくない。
 だが、それだけに付き合い方は「合理的」だったかも知れない。
 お互い学生で、アルバイトをしているからといってそれほど高額をもらえるわけではない。一応講義にも真面目に出席し、普通の大学生活を送っていた。まわりの友達のデートがどんなものかなど、あまり気にしないからどうしても自分本位のデートコースになるのかも知れない。
「おまえと付き合っていける女性は、本当に素晴らしい女性なんだろうな」
 以前、言われた言葉を再度反芻してみる。
 いまだにその意味がはっきりとは分からないが、少なくともわがままな私について来れる女性を意味していることは分かっていた。
 何と言っても分かりやすい行動パターンをしていると言われる私である。かなり他の人と違った個性があるのでは、と感じるのも仕方のないことだろう。
 さおりは、あまり他人と話をする方ではない。
 一見しておとなしそうな彼女は、実際にも人見知りが激しく、ほとんど私が話していることが多い。二人でいる時はいつも自分から話しかけるさおりだったが、他の人は、そんなさおりの一面を知る由もないはずである。
 人によっては私自身のことより、さおりのことであまり快く思っていない人もいるだろう。もちろん、私の友人に限ってのことだが。
 さおりは、友達が少ない方だ。
 自分から友達を作る方ではなく、もしできたとしても、会話がこれほど途絶えるのであれば、すぐに離れていってしまうであろう。
「おまえと付き合っていける女性は、本当に素晴らしい女性なんだろうな」
 と言っていた友達のセリフ、女性という文字を男性に変えて、そのままさおりに進呈したいくらいである。そういう意味では私も相当な変わり者なのかも知れない。
 そういう意味もあってであろうか。大学入学当時にあれだけ増やした友達の中で、彼女と付き合いだしてから話をしなくなった連中が次第に増えてきた。確かに友達を増やしすぎるとそういうことも多くなるのだろうが、自然と彼女が毛嫌いするようなグループは、私の方から敬遠するようになるのも仕方のないことかも知れない。
 普通のサラリーマンの家庭に生まれた私は、どちらかというと社交的に育てられた。
 友達を作ったら、分け隔てなく付き合うものだと教えられてきた。
 確かに自然と友達のことも分かってきて、その中にいる自分の立場も分かってくると取捨選択は当たり前のことである。しかし、最初から自分に合うはずということで作った友達なので分け隔てのあろうことが不思議だと思っていた。
 たぶん私一人なら分け隔てなどなかったであろう。そこにさおりという一番大切な人が増えただけで、自分の世界が変わってしまうなど、今までからは考えられないことであった。
 さおりがどのような家庭環境であったかを私は知らない。
 私は彼女に自分のことをすべて知ってもらいたいと思う性格なので、自分の育ちや家庭環境のことは一通り話した。もちろん話して問題のないことだけしか話していないが、それでも十分私の育った環境を判断できるだけの材料だったはずである。
 しかし彼女は私に一切家庭環境を話さない。
「話したくなければ話さなくてもいいよ」
 と、だけさおりには伝えている。
 話したくない人の口を無理やりこじ開けるような真似はしたくないし、私がそこまでできない性格であることは、しっかりさおりが分かっているはずだ。
 確かにさおりの育ってきた家庭環境を想像するのは、少し私には難しい。きっとまったく違う育てられ方をしているような気がするし、環境自体もかなり違っている気がして仕方がない。
――何となく、職人気質なところがある――
 私は職人気質というのは嫌いではない。個性が強く、自分をしっかり持っていると思っているからだ。しかしどうしても埋められない距離があるのも分かっているつもりで、決して交わることのない「平行線上」にいるに違いないのだ。
 特に、形式ばったことは嫌いな女性だった。
 私も形式ばったことは嫌いだったので、問題なかった。
 付き合っている時は、それが当たり前だった。誕生日は別にして、クリスマス、バレンタインデーといった、世間一般のイベントにプレゼントを贈るなどということは無駄なことだというような考えだったのである。二人とも同じような考えだから、それで当たり前、騒いでいる人は「勝手にやってくれ」状態だったのも頷ける。
 わざわざお金を使ってプレゼント交換など、それこそお金の無駄である。
 これが「合理的」と思う由縁なのかも知れない。
 ある意味現実的な考え方ではあるが、そんな考え方をするからといって、万事が万事現実的とは限らない。さおりにしてもメルヘンチックなところがあり、趣味で童話やポエムを書いていたりする。実力のほどは、コンテストに何回も入選するくらいなので、かなりなものであることは、世間が認めている。
 私も何度かさおりの書くポエムを読んだことがあるが、文才がない上に、いつも現実的なさおりを見ているため、どうしても理解できないところがある。
「それはそうかもね。私がポエムや童話を書く時は、あなたに見せたことのない私が書いているの。きっとそんな私の姿を想像することは、あなたにはできないわ」
 と、ここまで言い切られたことすらある。
「そんなものかな? どっちが本当の君なんだろう?」
「どっちも本当の私よ。あなたは私がいつも冷静な女性だと思ってない?」
「そんなことはないよ」
 と言いながら、頭の中では頷いていた。
作品名:短編集11(過去作品) 作家名:森本晃次