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タイム・トラップ

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 しかし、頭で分かっていても、どうにもならないことはあるもので、自分で納得できるようになるまで、かなりの時間を要することになるのは分かっていた。
「下手をすれば、ずっと分からないかも知れないな。そんな時、僕は一体どうすればいいんだろう?」
 という疑念をずっと抱いていた。
 しかし、疑念というのはずっと抱いていると、いつの間にか、疑念を抱いていたことすら忘れてしまうほどスムーズにその世界に入り込むことができていたりする。
「考えすぎていると、いつの間にか感覚がマヒしてきて、考えの中に同化するのかも知れないな」
 考えていることを取り込むのではなく、同化してしまうという考えも自分ならではの斬新な考えだと、江崎は思っていた。
 江崎は桜井から、自分の作ったタイムマシンに乗って二十代に行くように言われた。その理由は桜井側の事情が大きなものであり、江崎自身が二十代に戻る理由が見つからなかった。
「何で僕が君のために二十代に戻らなければいけないんだ?」
 さすがにムカッときたので、捨て台詞のつもりで桜井にはそう言い、彼の思いをくじくことで、自分が過去に戻るなどという、何の意味もないことを諦めさせようと思っていたのだ。
 しかし、それを聞いても桜井は悪びれたり、臆した態度に出るところか、顔には不敵な笑みを浮かべ、余裕しか感じられなかった。そんな表情を見せつけられて、江崎はさらにむかついたのだ。
 しかし、ここまで余裕があるということは、揺るぐことのない自信が、自分の中にあるということだろう。
――ここで何を言っても、桜井は動じることはないだろう――
 と感じたが、まさしくその通りだった。
「見つめられると、何も言えなくなるじゃないか」
 本音をいうと、さらに桜井の表情に不敵な笑みが浮かんだ。いわゆる「どや顔」に近いものである。
 桜井は依頼してから一言も喋られない。
――僕が納得するまで喋らないつもりなのか? これだったら、完全に根競べをしているようなものではないか――
 と感じていた。
 ここで桜井と根競べをするつもりもなかった。そんなことをするくらいなら、
――最初から彼の言う通りにすればいい――
 と感じた。
 そんな思いまでもが、桜井の中には分かってしまっているような余裕だと思うと、江崎は癪に障ったが、それでも、ここまでの潔さは認めざるおえないような気がして、納得してタイムマシンに乗っている自分の姿を想像できるほどだった。
 桜井は、
「すまない」
 という言葉を一言も言わなかった。言ってしまうと、完全に桜井のためだけの行為になってしまうからだろう。敢えて言わなかったのは、
「これは君のためでもあるんだよ」
 ということを、口に出さないだけで、暗にほのめかしているということだろう。
 そこまで自分が見込まれていると思うと、江崎も悪い気はしなかった。何もかもお見通しの相手に、余計な会話は必要ないということを、江崎も分かったのであろう。
 ただ、一言言っていたのは、
「自分たちが戻る時代は、きっと自分たちにとって一番良かったと思える時代であることに違いはないと思っているんだ。その時代をやり直すかどうかは、本人でしか分からない。もし、『人生をやり直したい』と思っている人がいるとすれば、俺は『一番自分にとってよかったと思える時代』じゃないかなって思うんだ。だからそれ以上のことは、俺の口からいうことはできないんだよ」
 という話だった。
 その話を聞いた時は、すぐにはピンと来なかったが、時代を遡るうちに分かってくるようになった。
 時代を遡って、その時代についた時には分かっていたような気がするので、分かったとすれば、タイムマシンでの移動中ということになる。
 しかし、悲しいことに肝心のタイムマシンでの時間移動の間の記憶は残っていない。まるで夢を見ていて、目が覚めると忘れてしまう時の感覚に似ている。そういう意味では、タイムマシンでの移動は江崎にとって、
「潜在意識では、最初から自分の中で感じていたことだということになるのではないだろうか?」
 と感じさせるものだったのだ。
 江崎が二十代に到着した時、自分のどの時代に到達したのかという意識は正直あった。
――そうだ。今までに誰かに覗かれているという意識を持ったことは何度かあったが、そのほとんどは、「気のせいだ」として無視できてきたことだったが、どこかの時代で、無視できない感覚に陥ったことがあった。あの時に感じたのは、覗いている人がどうしても信じられない相手だと思ったからだった。もちろん、未来の自分だとは分からなかっただろうが、何か物理的にどうしても不可能な相手だということが分かっていたんじゃなかっただろうか?
 そんな思いを感じていたのを、思い出していた。
――そして、タイムマシンを抜けると、すぐにそのことを感じている二十代の自分を見ることになる――
 昔、疑問に感じながら、どうしても解消することができなかった思いを、忘れていたわけではないが、いまさら思い知らされることになるなど、想像もしていなかった。しかも、それを思い出させてくれた人がいるのだ。その人から頼まれたのであれば、簡単に断ることはできない。彼のいう通り、二十代に戻るということは、江崎にとって重要であるとともに、運命のようなものを感じさせられることになるのだった。
 江崎は、桜井と一緒にタイムマシンで、二十代にやってきた。いや、やってきたはずだった。二十代についた時、一緒にいると思っていた桜井はいなかった。
「一緒に行ってくれたはずなのに、どうしたのだろう?」
 そう思いながら、コートのポケットをまさぐると、そこに手紙が入っていた。
「ここから先は、俺が介入できない世界になるんだ。下手に介入することは、いわゆるタイムパラドックスに反するからだ。申し訳ないが、君は二十代の自分と何とか向き合ってくれ、俺は三十代で待っている」
 と書かれていた。
 まるでだまし討ちのような仕業に、少しムカッともしたが、ムカッとだけはしていられない。こうなったのは、なまじ桜井だけのせいではない。江崎が自分で臨んだことでもあるのだ。
「しょうがないか」
 と思い、江崎は懐かしい時代を見守っていた。
 そして感じたのが、タイムマシンを作ることの難しさを実感していた。
――過去に戻るということだけが問題じゃないんだ。『いかにどの時代に戻るのか』というのが一番の問題じゃないだろうか――
 江崎が考えているのは、「パラレルワールド」の問題である。
 同じ時代でも、無数の可能性が含まれているのに、次元という違う軸に当てはめると、無限がさらに無限を呼ぶことになる。その中から正確に今の元になっている時代に本当に戻れるのかというのが一番の問題。テストを重ねるわけにはいかない。もし、戻った過去が違っていたからと言って、元の時代に戻ろうとして、本当に戻れるという保証はないのだ。怖いから、その時代を生きていくとしても、未来に何が待っているか分からない。そういう意味でも一発勝負で、さらに最高級のリスクの危険が伴っていること理解しなければいけないだろう。
作品名:タイム・トラップ 作家名:森本晃次