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なんとなく歪んだ未来

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 そう思えてくると、目の前に迫ってきている孤独感に耐えられそうな気がしてきた。そうなると、あれほど怖がっていた別れも、辛いとは思わない自分がいるのに気づいたのだ。
 一度狂ってしまった歯車だったが、無意識に見た夢のおかげで、また噛み合うようになっていた。しかも、直美との間の関係が修復できたわけではないのに、歯車が噛み合ってきたのである。
 歯車が噛み合っていない間に考えていた選択肢には、直美を忘れるという感情はなかった。忘れてしまうことなどできないし、ましてや、いい思い出として残しておくという考えもありえなかった。
「直美のことが忘れられないのであれば、いい思い出にしてしまえばいいんだ」
 と、自分に言い聞かせたことで、歯車が噛み合ってきた。
 元々噛み合っていない歯車なので、ダメで元々、最初からない選択肢を思い浮かべてみるのも、立ち直るためには必要だということを思い知らされた。
 直美のことをなるべく考えないようにしても、辛くはなくなった。ただ、直美のことを考えなくなってしまうと、直美の後ろに見ていた誰かを感じることができなくなった。
――それは寂しいことだ――
 どうせ、直美との間は修復不可能なんだったら、少々辛くても、彼女の後ろに見ていた相手が誰なのか、考えてみるのも立ち直るための一つの手段だっただろう。だが、無意識の中で見た夢が、自分の運命を決めてくれたのだから、他人事ではない。自分の中にある潜在意識が働いてのことなので、神妙に受け入れるのが一番に違いない。甘んじて、孤独を受け入れるという選択肢をどうして選んでしまったのか、修はしばらく頭の中で瞑想を繰り返すことだろうと思っていた。
 しかし、考えてみれば、直美と付き合ったと感じているのは、修だけなのかも知れない。直美の側から見ても、他の人から見ても、修と直美は付き合っていたわけではない。付き合おうという意識が修の側にあって、直美にもあったのかどうか、修には分からない状況だった。修の方から見れば、直美にもその気があったと思うのは、自分が悩んでしまったことで勝手に思い込んでしまったからではないだろうか。
――苦しんでいるのは、僕の方だけ――
 最初から苦しいはずもない直美も苦しんでいるのだと感じたのは、直美のことを上から目線で眺めていたからではないだろうか。
 考えてみれば、直美を意識し始めたのも、直美が自分のそばにいつもいることで、自分を頼ってくれているのではないかと勝手に思い込んだからだった。
 そのくせ、自分から話しかけることもできず、どうすることもできなかった。修はそのことを思い出していた。
 すると、直美を諦めるきっかけになった夢について思い出してきた。
 その夢は、今までの消極的な自分とは違い、少し意地悪な男の子になっている夢だった。自分も直美も小学生の頃に戻っている。自分は高校生になってだいぶ変わったと思っているが、直美はほとんど小学生の頃のままだった。そう思えば、小学生の頃のことを思い出すのは、それほど難しいことではない。
――そういえば、あの頃結構、小学生の頃の夢を見ていたような気がするな――
 夢の中に直美が出てきたという意識はなかった。直美を諦めるきっかけになった夢の時だけ、直美が出てきたのだ。
 そう思うと、それまでに見た小学生の頃の夢の中で、もっと早く直美が出てきてくれていれば、ここまで悩むことはなかったのではないかと思った。
 だが、逆に、早すぎると本当に直美のことを忘れられたかどうか、疑問でもあった。
――早すぎても遅すぎてもうまくいかない――
 そう思うのは、噛み合っていなかった歯車が噛み合った瞬間を感じたと思ったからだった。
 一日だけ見た夢だったのに、夢の中では何日も続いているようだった。
「夢の中では時間の概念がない」
 という話を聞いたことがあったが、まさしくその通りだった。
 夢に出てきた修は、いつになく自信に溢れているような気がした。自分の信じることであれば、何をしても許される。そして、成功することができるという思いが強くあったのだ。
 夢に出てきた直美は、いつものように修のそばにくっついていて、離れようとしない。修もそんな直美を遠ざけようなどとする気もなかった。優しく抱き寄せている光景を想像していた。
 しかし、修は直美と二人きりになろうという意識はなかった。直美にも二人きりになりたいという思いはなかったようだ。修のそばにピッタリと寄り添っているくせに、身体はいつも震えていた。まるで雨に濡れた捨て犬のようだ。
 修が直美を見ていない時は、直美の視線を感じる。しかし、その視線を感じて直美を見つめると、直美は視線を逸らす。
 それは実に自然な行動で、お互いに目と目が合わないようにしているということを意識させないほどだった。
 そんな直美がある時、
「修君」
 と言って、目を合わせてくる。
 初めて声を掛けられて修も反射的に顔を直美に向ける。二人は視線を重ね、お互いの顔をまじまじと見つめた。
 修の感想としては、
――かわいい――
 と感じた。
 小学生で、異性に興味などない修が感じたその思いは、きっと妹を見ているような気持ちだったのだろう。兄弟のいない一人っ子の修には、妹かお姉さんがほしかったという思いがあるので、直美を妹のように感じたのだろう。
 一度妹のようだと思ってしまうと、それ以上の感情が湧いてこなかった。思春期を迎えた跡であれば、心境の変化も考えられるが、その時の修には一度感じてしまった妹のイメージから、それ以上を思い浮かべることはできなかったのだ。
 その時の修の感情は、妹というのは、守ってあげたいという存在であると同時に、自分の欲望を満たしてくれる相手のように思っていた。
「私、お兄ちゃんのためなら何でもできる」
 という言葉を、耳元で囁いてくれるのを想像したことが小学生の頃にあったのを思い出していた。
――妹さえいれば、僕は寂しくなんかないんだ――
 小学生の頃、それほど妹がほしかった。
 妹がいるだけで、彼女ができなくてもいいとまで考えていた。以西に興味を持つようになったのが、他の人よりもかなり遅かったのが、どうしてなのかずっと分からないでいたが、その理由がやっと分かった気がした。
――妹のような幼く思える女の子にしか興味がない――
 と感じたからだ。
 高校生になってから見る幼さの残る女の子、それがちょうど中学生くらいの女の子だった。思春期の頃の男女の違いは、思春期に入った頃というのは、女の子の方が発意気が早い。同い年だと、女の子の方が大人に感じられるだろう。だから、高校生になった頃に見る中学生が、修にはちょうど自分の好きになれそうな年齢だと思ったのだった。
「ずっと、年を取らなければいいのにな」
 自分が高校生から大学生、そして社会人になっても、好きになった女の子は幼いまま自分のことを、
「お兄ちゃん」
 と言って、慕ってくれる姿を思い浮かべるだけで、ゾクゾクとした思いを感じてしまうだろう。
作品名:なんとなく歪んだ未来 作家名:森本晃次