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なんとなく歪んだ未来

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 確かに祖父母に甘えながら生活はしているが、祖父母が孫をかわいいと思うのは当たり前のこと、他の人から気にされるのとでは雲泥の差であった。
「つかさって呼んでいいかい?」
「ええ、嬉しいわ」
 二人きりでどこかに出かけたのも、そして、岡崎が「つかさ」と呼び捨てにしたのも、結構早い段階からだった。
 岡崎はそんなに積極的な男ではなく、つかさも自分からアプローチするわけでもないのに、二人が仲良くなってからは、トントン拍子だった。
「俺はつかさのことなら何でも分かる気がするんだ」
「私も」
 そういう会話をした時、二人にファーストキスは訪れた。
 どちらからともなく重ねる唇。つかさは目を閉じて、相手を迎える。
 お互いに初めてだとは思えないほどの自然な成り行きは、お互いにずっと前から知っていた相手のように思えたからだ。
「つかさって不思議だよな。意識はしていたんだけど、話もしていないのに、何を考えているのか分かる気がしたんだ。それが合っているのかどうか分からないけど、俺にはそれなりに自信めいたものがあったんだ」
 と、言われたつかさは、
「嬉しいわ。でも私も岡崎君ほどの思いはないんだけど、でも、ずっと前から知り合いだったような気がして仕方がないの。笑われるかも知れないけど、まるで生まれる前からしっていたような気がするのよ」
 その言葉を聞いた岡崎は、複雑な表情をした。
 本当は嬉しいと思っているくせに、それよりも、残念そうに感じたのはどうしてなんだろう?
「そうだったんだね。生まれる前から……」
 自分に言い聞かせるように復唱した岡崎は、つかさの話を聞きながら、何となく上の空だった。
 後から思えば、岡崎はその頃から、自分たちが同じ母親から生まれたのではないかということに気づいていたのかも知れない。
 いや、逆につかさの言葉が何となく燻っていた思いに火をつけて、確認することを怖がっていた自分に勇気を与えることになったのかも知れない。もしそうだとすればつかさの岡崎を想っていった言葉が裏目に出て、余計なことを考えさせたともいえるだろう。
 だが、その時に岡崎が気づいたのは、偶然ではなかったのではないか。遅かれ早かれ、岡崎が気づかないと、母親を、そして自分を、そして父親を救うことはできないだろう。 そして、それをできるのはつかさ、自分だけではないかと思わせたのも、その時の一連の感覚だったのだろう。
 つかさが感じたことを証明してくれたのが父親だった。
 父親も、
――この状況を何とかできるのは娘のつかさだけだ――
 と分かっていた。
 そして、そのために今までまわりに秘密にしてきた事実を娘に明かして、皆を救ってもらうよう話をする時が近づいてきていることに気が付いた。父親が研究している大学には国家機密に近いものがあった。母親が実験研究に使われたのも仕方のないことだが、自分が何と言われようとも自分の意思を通そうとする父親にとって、避けて通ることのできないことであった。
「岡崎君、私が未来から来た人間だと言えば、信じてくれる?」
「どういうことだい?」
「信じてくれないのならそれでもいいんだけど、もし、私がこの時代の人間ではないとしても愛してくれるのかって思ってね」
 というと、岡崎は少し真顔になった。
「何を言っているんだい? つかさとはぞっと一緒に育ったじゃないか。未来から来たとすればいつの未来から、いつの過去に来たというんだい?」
 岡崎は、混乱した頭でいろいろ考えているようだ。
「私がこの時代にやってきたのは、本当はつい最近なの。でも、岡崎君にとって私の記憶はかなり昔からあるものなんでしょう? きっとそれは私が岡崎君に与えた、私が作り出した記憶なのよ」
「そんなバカな。じゃあ、君のことをずっと意識していたという記憶は、違っていたということなのかい?」
「いいえ、あなたは確かに意識している女性がいたわ。その女性は私と一緒に未来からやってきた人なの。でも、あなたの記憶の中にある彼女は、元々この時代にいたその人なのよ」
「えっ? 言っている意味がまったく分からないんだけど?」
「岡崎君は、杉原修さんという人をご存知かしら?」
「ええ、知ってますよ。僕のお父さんに当たる人ですよね。ただ、実際には僕が子供の頃に別れてから、会っていないんですよ。どうして、お父さんと別れることになったのか、僕には分からないんだ。何しろ子供の頃と言っても、本当に小さな頃だったからね」
「その杉原さんというのは、私のお母さんと知り合ってお付き合いをしていたの。でも、お母さんが大学の頃に不治の病に罹ってしまって、死の宣告を受けたのね。その時、杉原さんは、お母さんを何とか助けたいと思い、その思いがちょうど未来にいた私の元に届いたの」
「君と杉原さんの関係というのは?」
「私のお父さんなの……」
「えっ? ということは、僕とつかさは異母兄弟ということになるのかい?」
「そういうことになるわ」
 それを聞いた岡崎は大きなショックを受けていた。そのショックの意味は、自分が好きになり、キスまでした相手が自分と兄弟であるということへのショックだった。
 しかし、岡崎はふと気が付いた。
「えっ? でも、僕と君とが兄弟だということは、君は未来から来たといったよね。一体君は本当はいくつなんだい?」
「私は、こちらの時代の時間でいけば、四十歳になるのよ。でも、私は生まれてからお父さんの仕事の関係で、いろいろな時代にタイムスリップしていたの。だから、年を取っていないのよ」
「と、いうのは?」
「アインシュタインの相対性理論をご存知かしら?」
「ええ、知ってますよ」
「光速をはるかに超えるような旅行をすると、普通の時代を生きている人に比べて、時間が経つのが遅いの。そういえば、お父さんがよく言っていたわ『肉体が滅んでも、魂は生き残る』ってね。だから、光速を超えることができるのは、魂だけなのかも知れないわね」
「その話は聞いたことがある。浦島太郎の話をすぐに僕は思い出すけどね」
「お父さんも、よく浦島太郎の話をしていたわ。お父さんは私の身体を、時間旅行に耐えられるようにしてくれたの。そのおかげで、私は実年齢のわりに年を取らないのよ」
「この時代の人間には、理解できないことばかりだね。でも、近未来にそんな時代が来るなんて、少しビックリだな」
「そんなことはないわ。現に私がこの時代に来ているということは、他の人もこの時代に来れるということなのよ。時間の矛盾さえ問題なければ、未来から来た人の伝授によって、今の世界でも、タイムマシンを作ることは可能なのよ。ただ、それができないのは、タイムマシンを作ってしまうと、未来が変わってしまい、そのせいで、元の時代に戻れないどことか、時間の歪に落ち込んでしまい、抜けられない人が出てくるの。それは下手をすればブラックホールを作ってしまい、すべてが吸い込まれるという仮説が本当に起きてしまうかも知れないのよ」
「でも、どうして君はその話を僕にしてくれたんだい?」
作品名:なんとなく歪んだ未来 作家名:森本晃次