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短編集9(過去作品)

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「洋二さんって物知りなのね」
 その一言に至福の悦びを感じることをいつも頭に描いているのかも知れない。
 彼と付き合っている数いる女性の中でも、彼のそんな性格を見抜いている人もいる。プレイボーイとしての魅力が、隠そうとしても滲み出てくる芸術家としての彼の一面を感じることができる女性である。洋二に負けず劣らず「したたか」で、割り切って付き合っているつもりでも、感性が同じで気持ちが分かるだけに、情が移ってしまう女性である。
 本来なら有難い存在なのだろうが、洋二にとってはどうなのだろう? プレイボーイを続けていくには負担になる女性でもある。しかし幸か不幸か、彼女から結婚を迫ってくるようなことはなかった。さすがに彼女もそれほど安っぽい女性ではない。
 しかし、そんな中で洋二にとって本当に都合のいい女性もいる。
 都合のいいという表現はあまり適切ではないが、他に適切な言葉が見つからない上に、相手もさほど気にならないからだ。
 名前を吉野玲子というが、彼女は洋二に対して必要以上のことを求めない。
 なぜなら彼女自身もボーイフレンドをたくさん持っていて、洋二はその中の一人であった。もちろん、ただの友達ではあるが。だが、だからといって、会話がないというわけではない。趣味趣向や考え方には、お互い一目置いていて、尊敬しあっているところも多々あるのだ。感性が合うというのか、そこがお互いを干渉し合わず、うまく距離を持って付き合える秘訣なのかも知れない。
 こんな存在ほどありがたいものはない。洋二も心の中でそう感じ、玲子としても願ったり叶ったりなのだろう。お互いを成長し合える仲なのである。
 お互いが物事を冷静に考えるタイプで、ただ軽いというわけではない。二人ともそのあたりが共通しているところなのだが、常に人間的な成長を求めている。たくさんの相手と身体だけの関係で結ばれているわけではない。その証拠にさまざまな人たちと付き合っている。洋二にしても普通のOLから看護婦、秘書、スチュワーデスまで、教養のある人が多いのも頷ける。
 そんな中で玲子は社長秘書をやっている。職業柄、会社社長クラスの男性との仕事上の付き合いがどうしても多くなるため、それなりの教養は身につけている玲子の身体から即座にオーラを感じ取った洋二もさすがである。
 絶えず女性に対してアンテナを張り巡らせて、彼女たちの心に入り込むのに長けていることも洋二の才能といえる。
 普通であれば、しがないサラリーマンで、しかも目立たないように振舞う彼が、玲子のような女性と付き合っているなど会社の人間の想像の許容範囲をはるかに超えている、それこそが彼の優越感に火をつけ、至福の悦びとともに、自分がナルシストであることを悟る瞬間であった。
 彼は自分がナルシストであることにある意味誇りを持っている。
 他の人であればナルシストと聞いただけで嫌な顔をするだろうが、それは自分に自信を持つことに対して偏見を持っている人間であろう。自分に自信があって、それをオーラとして発散させることのどこが悪いと思っている洋二に、ナルシストを軽蔑する人たちの気が知れない。「その他大勢」で無難にこの世を渡っていく人にはいいかも知れないが、せっかくこの世に生まれてきたのだから、自分というものを磨きたいと思っている人間は少なからずナルシストであっていいはずなのだ。
 玲子もそんな洋二の考え方には賛成で、自分も同じだと感じている。
 女性の方がナルシズムは強くて当然だと思っているのが玲子である。
 化粧をするのも人に見られたいからで、決して身だしなみだけのためにするものではないと思っている。
 普段はジーンズのようなラフな服装がよく似会い、肌の白さがマッチして紅い口紅が目立つ顔立ちである。
 自分を美しく見せる。
 それが彼女にとってのナルシズムで、自分に寄ってくる男はその「副産物」くらいにしか考えていなかった。
 しかしそんな中でも洋二は特別な存在だった。
 玲子を惑わすというわけではないのだが、何となく気になる相手、軽いわけではなく、自分から長所をアピールするわけでもない。
 一緒にいて感じるオーラは、自分が発散しているであろうオーラと同じ種類のものに感じられる。黙っていても相手の考え方が分かるというのは、玲子自信が自分の目でしっかり観察することで見えるものだと考えていた。しかし洋二と出会って、その考え方が少し変わりつつある。
 ただ相手を見ているだけで、考えていることが分かってくる。
 相手の喜怒哀楽が手に取るように分かるのだが、それは相手の考えが浅いからではない。
 今まで言い寄ってきた男たちは、考えが浅いくせに自分の下心を表に出さないようにという考えが却ってぎこちなく、ちょっと探りを入れるだけで、一気に化けの皮が禿げていった。
 しかし洋二は違うのだ。別に玲子が探りを入れることなどなくとも見ているだけで気持ちが伝わってくる。無意識のうちに洋二のことが気になっているから、自然に集中して相手が見れるのかも知れない。
 洋二にしてもそうだ。別に女に対して自分を隠そうとはしない。
 確かに計算高いところや、したたかなところはあるが、それだけに気持ちはオープンである。身体目的の低俗な考え方ではなく、下心があるわけでもないので、何も隠すところはないのだ。他の女たちがどれだけ洋二を理解しているか分からないが、漠然とではあっても洋二のオープンなところに本能的に惹かれるのだろう。
 瞳の奥を見つめることが玲子の癖になっている。
 普通の男たちのように少しでも下心があれば、濁って何も見えない。玲子が男を見るのは、瞳の奥に写った光景を見たいからかも知れない。
 風が強い中で、ススキの穂が一方向に靡いている。サラサラという音が聞こえてきそうな向こう側の、真っ青な空に浮かんだ雲が足早に流れていく。
 玲子が洋二の瞳の奥に見た光景である。
 季節は秋。本来なら寂しい季節で、見ている光景も寂しいのだろうが、洋二に関してそれは感じない。どちらかというと、広大さを感じると言った方が的確だ。
 洋二にとって玲子はどんな存在なのだろう。
 玲子は分かっているつもりである。今のところ、大勢の中のひとりであることを。要するに「都合のいい女性」の一人なのだ。
 女性と付き合う時の洋二の特徴は、冷静沈着なことである。感情に流されず、相手を冷静に観察し、もちろん嫌がることをするわけではないが、かといって甘い言葉で相手を有頂天にさせることもない。
 ただ、付き合っているすべての女性に、
「一緒にいるだけで『安らぎ』を感じる男」という思いを全員にさせているようだ。
 もちろん、玲子にもそれは感じる。他の女性であれば、もし他にオンナがいるのを知っていたとしても、それだけで自分が一番愛されているという錯覚を覚えるだろう。
 だが玲子は違う。
 ただ一緒にいる時間、それだけが真実なのだ。
 洋二が他の女性と過ごす時間を持ったとしても、それはすべて自分には関係なく、自分といる時間だけが本当の時間だと思っている。
 実に当たり前で、潔い考え方だ。「こだわり」を持った考え方と言っていいだろう。
作品名:短編集9(過去作品) 作家名:森本晃次