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短編集9(過去作品)

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 最初に話しかけてくれた友達は、第一印象として結構遊び慣れたような雰囲気を持ったやつだった。しかし話をしてみると、結構繊細で人に気を遣うところもあり、それでいて寂しがり屋なところを持っていた。
――何だ、僕と一緒じゃないか――
 と、感じることでそこから広がる友達の輪を期待しながらの学生生活であった。
 それは、高校時代までの友達とはまったく違ったものだった。高校時代の友達は友達で話すこともあるが、どうしても会話が続かない。話題性に乏しいというべきか、自分が成長したのだと思ったものだった。
 それは間違いではなかったと思う。絶えず進歩して行きたいと思う気持ちは無意識であっても誰もが持ってるもので、私も時々そのことを感じる。前に感じた時よりも、必ず成長しているという気持ちが強いのは、自分を贔屓目に見ているからだけではないと思う。
 しかし、そんな中でも自分を見失うようなことはなかった。その他大勢での行動も、一歩下がって冷静に見ていたこともあって、集団意識を持つようなことはない。それだけ冷めた目で見ていたのかも知れない。
 大学一年の冬ごろだったであろうか、私に彼女と呼べる女性ができた。彼女は高校卒業後に就職したOL一年生で、バスで隣り合った時に話をしたのが縁で知り合ったのだが、話をするたび、私と同じような集団意識を嫌うタイプの女性であった。
 すぐに意気投合し、しばらくは仲が良かった。
 会社で「告白」されたこともあったと言っていたが、それでも彼女は私を選んでくれたのだ。それがとても嬉しく、有頂天になっていた。
 もちろん、大学での友達には一切が内緒だった。しかし、どうやら表に出る私の性格が災いしてか、言葉に出さないまでも友達のほとんどは分かっていたようだった。
 それでも友人に隠れて彼女と会うということに、お忍びとしての快感を覚えていた。
――人に秘密を持つことがこれほどの快感だとは思わなかったー―
 私は自分であれこれ想像して楽しむのが好きな方だった。
 時間を気にすることもなく、通勤途中や仕事での移動中などの退屈な時間を、いつもそうやって過ごしていた。
 彼女がいない時はできた時のことを、できた時は一緒にいる時のことを想像し、一人ほくそえんでいた。無意識ではあるが、少しくらいの笑みは零れていたであろう。それでも構わない。そんな時はまわりが気にもならないからある。
 無意識に自分の感情が表に出るという自分の性格を、一時期嫌いになったことがある。絶えず皆から笑われているような気がして、特に女性からの視線に痛みのようなものを感じていた。
 その気持ちは高校時代が一番強く、自分のことが嫌いになっていた。まわりから露骨に嫌な目で見られているような気がし、親からも偏見の目で見られているような気がしていたからだ。
「これが僕の性格だから、仕方ないじゃないか」
 何度、夢の中で叫んだことだろう。
 その頃の夢を今でもよく見る。
 私の性格に、「物事をクール」に見るという一面があるのを知ったのは、その頃だったであろうか?
――何でも叶うのが、夢の中だー―
 といつも言い聞かせていたつもりである。
 それだけに、辛い時など夢の中に逃げ込みたくなってしまう時もあり、そんな時の一番の楽しみは「寝ること」、そして嫌な時は「起きる時」と位置づけていた。
 しかし、冷静に考えているせいか、たとえ夢の中であろうとも、不可能なことは不可能という潜在意識が働いていたのである。
 例えば、空を飛ぶ夢……
 空を飛びたいと常々思っていて、夢の中でくらい飛べるのでは? と考えることがあったが、どうしても潜在意識の中の「人は空を飛ぶことができない」というものが邪魔をして、たとえ夢であっても実現には程遠いものだった。それでも何とか意識の葛藤があるのか、浮くことだけはできるのだった。
 みゆきとのデートが実現したのは、それから五日後の週末のことだった。
 ちょうど彼女の方も予定があいているということで、お互いの思惑が一致したのだ。
 白いシャツに赤のスカートと、ラフな恰好の彼女は、まるで学生のようで新鮮だった。会社で見る制服姿とは違い、ラフな服装ほど目立って感じるのは私だけではないのかも知れない。
「お待たせしたかしら?」
「いや、今来たところだよ」
 実は二十分前から待っていたのだが、あまり待つことに時間を感じなかった。待ち合わせ場所を駅にしたことも、電車の到着による人の流れで時間を感じずに済んだ理由であった。
 妙にウキウキした彼女は、自分が描いていたみゆきのイメージと少し違っていた。会社で同僚や上司に対しての人当たりがとてもよく、とても社交的に見えるみゆきだったが、実はとても繊細で、その実、自分を持っていて冷静にまわりを見ているタイプである。最初、私もさすがにみゆきが分からなかった。社交的という以外のイメージが頭にはなく、そのため時折見せる冷静な態度が、ひどく冷たげに思えていた。
――ちょっと、印象変わったなー―
 そう思っているのは私だけかも知れない。彼女のことで耳に入ってくるのはよく言えば「社交的」で、悪く言えば「八方美人」という範囲での噂であった。どう転んでも冷静沈着のイメージとは程遠いものだ。
 しかし、その日のみゆきは私の知っているみゆきとはまったく違っていた。
――無理しているのでは?
 と思えるほどで、それもみゆきをいつも観察している私にしか分からないことだろう。
 私がみゆきをいつも見ていたことを、たぶんみゆき本人は気付いているはずである。私の視線がある時、彼女は決して私の方を向こうとしない。そんなところからもみゆきの性格に「繊細で冷静沈着」というイメージを持ったのだ。
 では、みゆきにとって私はどんな存在なのだろう?
 最初はただの同僚。仕事をしていてもあまり話すことはないが、私の中で彼女が大きな存在になっていったように、彼女の中でも私の存在が大きくなっていったような気になってきた。
 私の腕にしがみついてきた彼女が、何となく震えているように感じたのは、勘違いではない。
 さすがに楽しもうとしている彼女になかなかそのことを聞くこともできず、昼間は私が計画していた通りのデートスケジュールを無難にこなしていった。計画したとおりに彼女も動いてくれ、予定通りにディナーの時間を迎えた。
 無理をしない程度に私としてはギリギリのところで組んだ計画は、思ったよりディナーにお金をかけることができた。
 いや、最初からディナーをメインディッシュにと考えていたのであって、昔から頭に描いてきたデートコースの締めくくりとしては最高の場所を選びたかった。
 海が見えてそれでいて夜景の綺麗な展望レストラン、これが私の計画だった。少し半島になったこのあたりは、水平線に夕日が沈み、水面を綺麗に焦がすような光景が見られることで有名だった。さすがに設計当時そのことを計画していたらしく、春夏秋冬それぞれの時期でのベストな日の入りを見ることができるのだ。
作品名:短編集9(過去作品) 作家名:森本晃次