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セカンダリー・プレイス

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 後悔はしていないつもりでいるが、反省する必要はあると思う。しかし、何をどう反省すればいいのか、もし、もう一度同じ立場に立った時、同じ過ちを犯さないと言いきれるだろうか?
――決して言いきれるわけはない――
 なぜなら、いかに自分が反省したとしても、同じ立場に立てば、自分の意識は昔のその瞬間に戻ってしまうという思いが確信めいているからだ。過去に戻った意識は、いくらそれ以降で反省し、教訓を得たとしても、そのことを意識させることはないだろう。時系列と戻ってしまった意識とは、どこまで自分の気持ちに反映できているのか、自分でもよく分かっていないのが現実だった。
「なつみさんは、願いが叶う神社を探しているんですか?」
「ええ、最初は言えなかったんですが、ずっと意識はしました。最初は是が非でも見つけたいと思っていましたが、今では見つからなくてもいいような気がしています」
「どうしてですか?」
「何が自分の望みなのかが分からなくなってきたんですよ。最初は漠然とはしていましたが、何か願いがあるという意識はあったんですが、今では漠然ともしなくなったんです。そんな状態で、探しても意味があるのかなって思うんですよ」
「でも、探しているんでしょう? それは、今は分からなくても、その神社を見つけることで、以前に漠然としていた思いを思い出せるのではないかという思いがあるからなのかも知れませんね。何事もそうなんでしょうが、何かを探し求める時というのは、順風満帆とはいかないものです。時には引いてみたり、押し通してみたり、いろいろ試行錯誤が必要なのかも知れませんね」
「そんなものでしょうか?」
「ええ、私はそう思います。そういう意味では、なつみさんに、願いが叶う神社を見つけてほしいと思っているんですよ」
「でも、以前には、二番目が重要だっておっしゃってませんでした?」
「ええ、確かに二番目が重要なんです。三社参りという意味でも、奇数で終わらなければいけない。でも、願いが叶う神社を見つけると、きっと二番目を探したくなるものらしいんですよ。その時に二番目を見つけることができる環境に自分がいることができるかということが大切なことです」
「二番目に行くには、覚悟というか、何か心構えのようなものが必要なんですか?」
「ええ、バランスという意味で必要なんですよ。バランスというのは、目に見えているものだけではなく、表裏一体の場面、紙一重に関わることを意識しないといけないんですよ」
「それは、夜と昼というようなイメージだったり、人の性格では、長所と短所という意味でも考えられますが、そういういろいろな場面でのバランスという意識でいていいんですか?」
「ハッキリと明言できないんだけど、なつみさんはある程度理解しているように思います。でも、意外と理解できている人が得てして陥ってしまう落とし穴というのがあるのも事実なんですよ」
「難しいものなんですね?」
「ええ、そうですね。実は私も若い頃に、同じような落とし穴に陥ったことがあるんですよ。あの頃は結構勝気な性格だったと思っていますからね」
「それは冒険心や探求心が旺盛だったということですか?」
「ええ、そういう意識も強かったと思います。でも、結構まわりに流されることもあったんですよ。感情が深く入りすぎると、得てして、まわりに流されたりするものだからですね」
「どういうことですか?」
「一つのことに集中すると、まわりが見えなくなったりするでしょう? 真面目な性格だったりすると、余計にその傾向が強い。真面目な性格というのは、いい意味でも悪い意味でも、諸刃の剣のようなものなんですよ」
「私もそう思います。私の父親が厳格な人で、自分には厳しく、他人には優しいような性格の人だったんですが、一人の人に入れこんでしまって、それでまわりのことが目に入らなくなってしまったようで、結局、私が小さい頃には、結構苦労したみたいなんです。もちろん、大人の世界のことなど、子供の私には分かりませんが、子供心に、お父さんが苦しんでいる姿は分かりましたからね」
「その時もお父さんは厳格だったんですか?」
「厳格に振る舞おうとしていたようなんですが、どうしても限界があるようで、どうしていいのか分からないというのが、本心だったのだと思います」
「なつみさんは、そんなお父さんを見て、どう感じました?」
「何しろ子供だったので、ハッキリとは覚えていませんが、しつこく説教されなくなったことには安心しましたね。それに、自分がプレッシャーに弱いのだということも分かりました。父親の説教がなくなってから、いろいろなことを考えることができるようになり、自分に自信が持てるようになったんですが、その時、逆の意味で考えてしまったんでしょうね。自分がプレッシャーに弱かったんだって、初めて自覚したような気がしました。プレッシャーに弱いことは前から意識はしていたと思うんですが、自覚をしたという意味では、その時が初めてだったような気がします」
 まさか、今になって子供の頃のこと、しかも父親に対しての思いを自ら語ろうなとと、思ってもいなかった。なつみは続けた。
「私は、今藤原さんからバランスという言葉を聞かされて、父親が情緒不安定だった私の子供の頃を思い出したんですが、最初は衝動的に思い出したんだって思ったんですが、そうでもないような気がするんですよ」
「どういうことですか?」
「思い出すべくして思い出したのではないかと思うんです。そういう意味でも藤原さんとの出会いも、その他の出会いも、必ず何かの理由があるんじゃないかって思います」
「思い出すべくして思い出すということは、私もいつも感じていることです」
「お父さんの情緒不安定は、確かに何かのバランスが崩れているから、急に怒り出したり、落ち込んだり、まわりから声を掛けられないような雰囲気を作り出してしまうんですよ。でも、そんなお父さんを今から思い出してみると、長所と短所を考えてしまう。すると、よく言われていることなんですが、『長所と短所は紙一重』って聞くじゃないですか。お父さんも同じだったんじゃないかって思うんです。だから、今まで短所だと思っていたことを、お父さんの長所だと思って考えると、無理もないと思えることもたくさんあったんじゃないかって感じるんです」
「子供の頃、お父さんを恨んだりしたことありましたか?」
「ええ、それは子供心に理不尽だと思うことを言われると、恨みに思うことだってあって当然だと思うんですよね」
 藤原は、なつみを見ていて、
――この娘は、私にお父さんをかぶせて見ているのではないか?
 と感じた。
 その思いは、少々藤原には複雑だった。
 藤原としてみれば、年の離れた女の子にこんなに執着したのは初めてだった。
――僕はいつの間にか年を取っていて、気が付けば、まわりに誰もいな孤独な状態になっても、寂しくないと思えるようになっているはずだ――
 と感じていた。
 藤原は、なつみに声を掛けたのは、偶然ではないと言いきったが、本当はそうではなかった。
――なぜ、あの時、なつみさんに声を掛けたんだろう?
 と、常に自分に言い聞かせていたからだ。