セカンダリー・プレイス
「ああ、そうだったね。元々一つだった伝説が、伝わっていく間に少しずつ変化していった。尾ひれが付いたと言ってもいいかも知れないね。確かに、分類すると種類的には分けるためには限界がある。でも、これだって指紋のように一つとして同じものはない。そこに私は、何か作為的なものを感じるんですよ」
「指紋と一緒に考えるから、作為的に感じるんじゃないですか?」
「そうなのかも知れないけど、たとえば動物の鳴き声だって、同じ動物なら同じようにしか聞こえないでしょう? でも、彼らはあれで会話しているんですよ。もし、人間よりも高等な動物がいたとして、彼らは私たち人間の会話をまったく同じように聞こえてしまうのかも知れませんね。それは客観的に見るからではないかな? 他人事のように見えているというかだね」
話は脱線しながらではあるが、
――行きつく先は同じ場所なのではないか?
と、なつみは思うようになっていた。
「私の知っている都市伝説でも、願いが叶う神社という話がいくつか存在するんだ。似ているようでそれぞれ微妙に違っているんだけど、私が聞いた話の中で一番気になっている話というのが、二番目の神社というのが、一番気を付けないといけないということなんだよ」
「詳しくはどういうことなんですか?」
「実は私はこの神社に参ったおかげで、成功を収めたんだが、二つ目の神社には行かなかった。本当は三社回るつもりだったんだけど、一社だけだったのでどうなるかと思っていると、願いは瞬く間に叶い。私はそれがこの神社のおかげだということで、お礼参りに来たんだよ」
「それで?」
「その時に、同じようにお礼参りに来ていた人と話す機会があって聞いた話だったんだけど、その時、三社参らなくてよかったと言われたんだ。その理由については話してくれなかったんだけど、それは、話をしてしまうと、せっかく手に入れた幸運を手放すことになるからだというんだ。だから他言してはいけないってね」
「でも、その人はそこまでは話してくれたんでしょう? しかも、今藤原さんも私にそのことを話している。話しちゃっていいんですか?」
なつみの疑問も、もっともである。話だけを聞いていると、不思議な世界に連れていかれて、感覚がマヒしてしまうように思えるが、ふと立ち止まって考えると、ところどころに疑問があるような気がしてくるのだった。
「それは大丈夫なんだ。むしろ、そこまでは話しておかないといけないらしい。都市伝説というものは、いろいろな地方で微妙に違うが、えてして、いろいろな縛りがある。どこまではしなければいけない、どこからはしてはいけないなどの伝説が入り組んで、都市伝説になっているんだよ。そういう意味でも、あまり都市伝説に関わるということはよくない。だが、一旦関わってしまうと、その『掟』に逆らわないようにうまく立ち振る舞わなければいけない。そういうものなんだよ」
「結構、面倒臭いんですね?」
「それを面倒臭いと思うのか、それとも他の考え方をするのかによって、都市伝説と受け入れるか受け入れないかということが変わってくる。逆に一度足を踏み入れてしまったら、ある程度の覚悟を決めて、しっかりと立ち振る舞う必要があるんだ」
「じゃあ、私はもう、都市伝説に足を踏み入れてしまったということなんですか?」
「ええ、私には、『願いが叶う神社』に関した都市伝説に関わった人を見分けることができる。そしてその人に対して、先の道に導いてあげる義務のようなものがあるんですよ。義務というよりも、導いてあげないと、自分の身が危なくなるんですね」
「それで私にこの話を?」
「そうです」
「確かに私は、似たようなお話を他で聞きました。そして、一時期、そんな神社があるならと思って旅行に出かけては、探してみたりしましたが、探せば探すほど気持ちが冷めていって、結局は中途半端に終わってしまったんですよ」
「このお話を聞いた人のほとんどがそうだと思います。でも、一度は探してみようと思ったのなら、その時点で、すでに都市伝説に関わってしまったということになり、知らず知らずに枠の中に取りこまれているんですね。ほとんど影響のない人もいますが、少なくとも、その都市伝説のせいで、その人の人生が微妙に変わっているんですよ。もちろん、その人には自分に分岐点があったことは自覚することができたとしても、その分岐点が都市伝説によるものだとは、誰も思わないでしょうね」
「それほど難しいものなんですか?」
「そうですね。誰もが人生の分岐点を持っていて、その意識もある。だけど、都市伝説を信じている人はほとんどいないと思われている。だから、分岐点と一緒には考えられないんですよ」
「分かります」
「でも、都市伝説を意識している人は、皆が考えているほど少ないわけではないんですよ」
「そんなにたくさんいるんですか?」
「もちろん、自分が感じていることが都市伝説だとは思っていないでしょうが、あなたにも、自分が考えていることで、他の人は想像もしていないと思っていることが、結構あるでしょう?」
「ええ、あります」
「でも、そのうちのいくつかは、他の人も考えていることが多いんですよ。それが都市伝説だったりします」
「じゃあ、私はどうすればいいんですか?」
だんだん不安になってきた。その元を作った目の前にいる藤原と名乗る男性が憎らしく思うほどだった。しかし、もし彼が言っていることが本当であれば、自分はこの都市伝説にすでに足を踏み入れている。何とかしないといけないことだった。
「願いが叶う神社を探して、そこでお参りをすればいいんですよ。ただし、私は教えてはいけない。と言っても、あなたにとっての願いが叶う神社は、あなたにしか見つけることはできません。人それぞれで違うんですよ」
「そんなにたくさん、その神社はあるということですか?」
「いくつかはあるでしょうが、そんなにはないと思いますよ。それにこの都市伝説に関わる人も限られているので、そこまでたくさんはないと思います」
「といううことは、人によっては他の人と同じ場所だったりもするということでしょうか?」
「そういうこともあるでしょうね? でも、あなたと私とでは違うことは分かっています。あなたにとっての願いが叶う神社は、身近にあると思います。もし、あなたがよければそのお手伝いを私にさせてください」
思わぬお申し入れだった。
「どうしてですか?」
「いくら私が告げなければいけなかったこととはいえ、あなたにとって聞きたくもないはずのことを話してしまった私にとって、せめてもの償いのようなものだと思っていただければいいと思います」
普段なら、
「いえ、結構です」
と言って、話の内容も無視するところだが、笑って無視できるないようではないことを重々承知していたので、
「少し考えさせてください」
と、即答は避けた。
「そうですか。いや、それもごもっとも、いきなり話しかけられてすぐに、『はい、そうですか』とも行かないですよね。それでも何となく気になっていることで、すぐに断ることもできない。その考え、私もよく分かります。ゆっくりお考えください。私も納得いただけると思っておりますよ」
それにしても、
作品名:セカンダリー・プレイス 作家名:森本晃次