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時空を超えた探し物

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 という自分の中に禁を作ったのも、考えてみれば、的を得ていたことになる。その時に禁を破ることで読書への興味が薄れてしまうことを予感していたというのだろうか? もしそうだとすれば、かなりの先見の明なのだろうが、それよりも、
――読書に飽きてきた――
 というストレートな考えの方が、よほどの的を得ているように思える。
 読書というのは、かなりの体力を消耗するものだということに気が付いたのは、読書をしなくなってからのことだった。一度興味が薄れてしまうと、すぐにでも止めてしまう理由がそこにあったのだとすれば、自分を納得させるには十分だった。
 急に読書に興味が湧かなくなってしまったことに後味の悪さを感じていたが、それは自分を納得させられなかったからだ。
 日記を読み直していると、想像以上に妄想がリアルだったことに驚かせる。
――これじゃあ、小説も顔負けじゃないか――
 と思ったが、それも自分が書いたものだという贔屓目も多分にあったからなのかも知れない。
 贔屓目ではなくても、読み込んでいくうちに、日記の中の主人公である彼女と、本当に話をしている気がしていた。情景が浮かんでくるのはもちろんのこと、セリフの裏に隠された彼女の気持ちすら、手に取るように分かる気がしていたのだ。
 一度目を読み直してからというもの、数年間も読み返していなかった。自分の中で妄想として別世界で書いていた内容のはずなのに、もちろん、すぐには思い出せたわけではないが、いきなりすべてが思い出されたような瞬間が訪れたのだ。しかも驚いたことに、思い出せる瞬間を、以前から想像していたような気がした。まったく予想もしていなかったことが起こったはずなのに、実におかしな感覚だ。
――そういえば、俺の人生にはいきなりということが結構多かったような気がするな――
 離婚の時もいきなりだったが、それ以前、学生時代には特に、「いきなり」というのが多かった。
 友達と喧嘩していても、いきなり相手が謝ってくることもあったし、それまで同じことをしていても何もなかったのに、急に怒られるようになったこともあったりした。
「どうして、急に怒り出したの?」
 と聞くと、
「何でもいいじゃないの。あなたは悪いことをしているんだから」
 と、理由に対しては曖昧だった。
 相手に言わせれば、
「今まで怒らなかったんだから、ありがたく思いなさいよ」
 ということなのだろうが、それを言ってしまうと、態度の一貫性のなさを自ら認めてしまうことになるので、言えないのだろう。言えないのだから、曖昧な返答に留めるために、不本意でも、相手に押し付ける後発的な言い分にしかならない。相手も苦肉の策だったに違いない。
 それが親だから、始末が悪い。他の人なら、黙って聞き逃せばいいのだろうが、相手が親では、下手に逆らうこともできないし、従ってしまっては、曖昧な優柔不断さを認めることになり、今後も同じようなことが起これば、同じ方法で押し切られてしまう。つまりは既成事実を作ってしまうことになるのだ。
 それでも、逆らうことができないのは、相手が親だという絶対的な立場を感じたからだった。親に対して絶対的な立場を感じてしまうのは、それだけ悟が、自分の最初に感じたことに逆らうことができない性格であることを示しているからなのかも知れない。
 それなのに、時々最初に感じたことを絶対だと思いながらも、考えを変えることがある。それは、呪縛から解き放たれる時で、呪縛を解き放つカギは、
――「いきなり」ということが自分に襲ってくるからだ――
「いきなり」があることで、絶対的な最初に感じた考えを覆すことができる。逆に「いきなり」が起こった時には、最初に感じた絶対的な何かの感情を解き放つことができるチャンスなのだ。
 悟が本を読むのを止めたのも、その「いきなり」が影響していたのかも知れない。ただ、その「いきなり」の正体を悟は知らない。悟の身に、一体どんな「いきなり」があったというのだろう?
 悟は本を読むのを止めたきっかけの一つに、日記を読み直すということがあったのは分かっていたつもりだった。
 日記を一気に読み直してみると、前に読み直した時に感じた思いとは、結構かけ離れていることを感じ、驚かされた。ただ、以前に読み直した時のことがよみがえってきたわけでもない。日記を読み直している間は、自分の中で、最初に書いた時と同じような別世界を頭の中に抱いていたことは分かっていたからだ。
 日記を読み直していると、
――おや?
 と感じたことがあった。
 半分くらい読み直した時に感じたことで、それがどこから来るものなのか分からなかった。もし、その時に違和感を感じなければ、本を読むことを止めなかったかも知れないと思えるほどの違和感だった。
――もう一人の自分がいるような気がする――
 それは第三者の立場から見るもう一人の自分で、その思いを感じるのは、実はその時が初めてではなかった。二回目とかいうレベルではなく、何度も何度も感じたことに思えてくるのだった。
 もう一人の自分はあくまでも客観的な目しか持っていない。
――待てよ――
 そこまで思うと、今までに何度も感じたことのある感覚に似ていることに気が付いた。そこまで気が付いてくると、その正体が何なのか、すぐに分かった。分かったからこそ、その目が客観的であることを、間接的に証明できたような気がしたのだ。
――まるで夢の世界だ――
 夢の世界では何度も、
――もう一人の自分――
 という存在を意識している。もう一人の自分の存在は、あらゆるところで出現し、その時に感じた疑問の解決に対して不可欠な存在であることをさし示していた。
 日記を読んでいるうちに、喫茶店で気になっていた女性のことを思い出してきた。元々人の顔を覚えるのが苦手な悟は、一回だけしか見たことのない人は、かなり話しこんでいたとしても、数日経つと、顔を忘れてしまっている。
 話しこむということは、人の顔を覚えることではなく、相手と会話をすることに集中しなければできないことだ。一つのことに集中すると、他のことがついつい疎かになってしまう悟としては、当然のことだった。
 喫茶店では何度も顔を見ていたはずなのに、思い出そうとすると思い出せないのは、いつも横顔しか見ていなかったからだろう。
 しかし、日記を読み返すと、横顔であっても、思い出すことができる。やはり昔見たことは、その時代に意識が戻って見てしまうのだろう。それが先に昔に戻るのか、顔を思い出したことで昔に記憶が戻るのか、最初は、
――前者であって当然だ――
 と思っていたが、最近ではどうもそうではないような気がしてきた。
――過去の記憶なんて、自分が忘れてしまうものだと思うから覚えていないように感じているだけで、本当は覚えているのかも知れない――
 と思うようになった。
 その理由は、もう一人の自分の存在を意識しているからではないだろうか。もう一人の自分というのは、今ここでこうやって考えている自分とは正反対のものであり、だからこそ、よほどのことがない限り、もう一人の自分を意識することはない。
――もう一人の自分の存在を知らずに死んでいく人もかなりいることだろう――
作品名:時空を超えた探し物 作家名:森本晃次