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時空を超えた探し物

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 充希がこちらを見ているのに気づくと、それまで自分が見ていた充希とは違う人物に思えてきた。何か心配事を抱えているようで、それを解消させたいのだが、その理由が分からず、画面の向こう側で見ている悟に、何かを訴えかけているかのようだ。
 今までに何十回と見てきたこの映画、どうしてこんなに何度も見返す気になったのか、考えたことはなかった。録画しておいたテレビ番組を何度か見直すことはあったが、それは映画のようなストーリーのあるものではなかった。見返す番組はバラエティーがほとんどで、見返しているというよりも、動いている画面をただ、ボーっと見ているだけだった。その時に何かを片手間に済ませていることもあったが、ほとんどは、横になって画面が流れているのを見ているだけだった。
 ストーリーのある映画やドラマだったら、いくら一度は見ている話しで内容が分かっているといっても、途中で見るのをやめることはしたくない。それが、ストーリーのある番組を見返さない理由だった。
――ストーリーのあるものを見返すのは、億劫なんだよな。重たい気がする――
 と思っていた。流れる仮面を見ながら、何も考えることなっく時間だけが過ぎていくのは理想ではあったが、そんな時に限って、いつもいろいろなことを考えていた。そういう意味でも、ストーリーのある話を見返すのは、何かを考える妨げになるだろう。
――何かを考える時というのは、頭の中がニュートラルな時に限る――
 と思っていた。
 ストーリーのある番組を見ていると、何かを考えるとしても、限られた中でしか、発想が浮かんでこない気がしたからだ。頭の中をニュートラルにしても、何かを考えようとすると、かなり狭い範囲でしか考えられない。ストーリーのある番組を見ている時に考えようとすると、頭の中が一つのことに凝り固まってしまいそうで、一つに凝り固まってしまうのが分かると、今度は無理にでも幅を広げようという思いがよぎり、余計な力が入ってしまうと、最後にはロクなことを考えないに違いない。
 そんな悟が、この映画を気にしてみるようになったのは、主演女優であるさつきが気になっていたからだ。充希というナースというよりも、最初に気になったのは、さつきという女優がだった。最初はそのことを分からずに映画を何度か見直してみたが、答えは最初から決まっているので、そのことに気づくのは時間の問題だった。
 それからさつきが出ている映画をレンタルビデオ屋で探してみたが、見つからなかった。ネットで調べてみると、他に出演している映画があったとしても、決まった役があっても、どこに出ているのか分からないほどのちょい役で、もし分かったとしても、
「これがあの娘?」
 と思うほど、役に対する取り組みが露骨に違っていた。
――見るんじゃなかった――
 役によって演技を変えるのであればまだ分かるが、ちょい役に対して、本当にやる気がなさそうで、ただでさえ目立たない役で、さらに気配すら感じさせない。エキストラとしてはそれでいいのかも知れないが、これでは大きな役の話が来るわけもない。
――よく、ナースの役が取れたものだな――
 とも思ったが、彼女はやる気さえあれば、何か輝くものを持ち合わせているのか、人の心を打つだけの演技ができる人だと思えた。
――事実、俺もその一人じゃないか――
 と、思えた。
 ただ、悟がこの映画を見直しているのは、他にも理由があった。それは今になってやっと少しずつ分かってきたのだが、以前バーを自分の隠れ家として利用していた時に知り合った由香という女性の存在が、自分の中の感覚に何か影響を与えたのか、同じ日を繰り返していたり、数分前をもう一人の自分が歩いているなどという、今から思えば馬鹿げているともいえるようなことを感じたその理由が、この映画に隠されているように思えたからだ。
 映像の中の充希は、あどけなさの中で、次第に波乱万丈な世界を歩んでいて、ナースとして一人前になっていくというストーリーなのだが、最後は中途半端だった。わざと中途半端にしたのだろうか?
 悟は少し違うことを考えていた。
――俺の見ているビデオは他の人のビデオとは違うもので、他のビデオでは、ラストシーンには、この映画の趣旨がきちんと結末として大団円を迎えているんだ――
 と思っていた。
 他のビデオとは違うんだと思わなければ、さつきが映像の中からこちらを見つめているなどという発想が生まれるわけもない。
 さつきは確かに画面のこちら側にいる悟を意識している。しかし、役である充希は、映像の中でずっと誰かを探し求めていた。それが誰なのか分からないから、
――このビデオは中途半端なところで終わっているんだ――
 という思いに至ったに違いない。
 中途半端に終わっていることに違和感を持ったのは、最初からではなかった。何度か見直しているうちに、
――この先が見てみたい――
 と思うようになった。
 続編があれば、見てみたいという軽い発想だった。しかし、違和感を最初にどうして感じなかったのかについては、違和感を感じた時から変だとは思っていたが、それは頭の中で無意識に、
――この話の続編は、これから出るんだろう?
 と感じていたからなのかも知れない。
 今までストーリーのあるものはほとんど見直したことがないはずなのに、この作品に関しては何度でも見てしまうのは、感じていなかったはずの違和感を、何度も見ることで、
――見落としていた何かを見つけたい――
 と、感じたからなのかも知れない。
――逆に言えば、最初からラストが辻褄が合っていて、中途半端な終わり方をしていないということをハッキリと意識さえしていれば、何度もこの映画を見直すこともなかったかも知れない――
 と感じた。
 これも、何度も見直すことへの自分を納得させるための言い訳に過ぎないのかも知れないが、当たらずとも遠からじであり、大きく的を外れているわけではないような気がしていた。
 悟は、自分の今まで生きてきた中で、中途半端に終わったことは数多くあったような気がした。しかし、それは悟に限ったことではなく、他の誰にでもあることだと思えた。その一つ一つを思い出すことは不可能だが、すぐに思い浮かぶこととしては、同じ日を繰り返していると思ったあの時だった。
 本当に同じ日を繰り返してしまったのか、今となってはそれを証明することはできない。一日だけ、同じ日を繰り返したような気がしただけで、次の日の午前零時には。きちんと「次の日」がやってきた。
――夢だったんだろうか?
 と感じたが、夢にしてはリアルだった。しかも、夢として片づけてしまうには、曖昧なことが多いような気がする。
――夢の世界の方が、却って自分を納得させられるだけの展開が用意されている――
 と考えていたのだ。
――夢というのは、潜在意識が見せるもの――
 という考えがある。悟は本でその考えを知ったのだが、その一言だけで、今まで感じていた夢に対しての違和感を解決できたような気がしたのだ。
 次の日が来たことでホッとした気分になったのは事実だった。
――もし、そのまま次の日も同じ日だったら……
 と考えると、悟はゾッとしてしまう。その感覚は、
作品名:時空を超えた探し物 作家名:森本晃次