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時空を超えた探し物

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 その日が終わってしまえば。翌日にもう一度くれば、きっと店は存在しているだろうと思っている。しかし、
――同じ日を繰り返しているとすれば?
 という思いが心の片隅にあるのも事実で、もしそうであれば、店はないに違いない。
 いや、それ以前に、同じ日を繰り返しているという状況を、自分が受け入れられるかという肝心なことを考えていなかった自分が怖かった。
 その日は、一点から、まわりを見つめる日だった。その思いを感じる時というのは、何かに不安を感じていたり、怖がっている時だと思っている。恐怖を感じるあまり、そのことに集中してしまい、まわりを見る余裕がなくなってしまうのだろう。
 そんな思いを感じていると、
――今までも本当に、まわりから先に見ていたのだろうか?
 という意識に駆られた。
 確かに、まわりから見ているか、一点から見てしまったのかということを意識したことはなかったが、そのことに違和感はなかった。違和感がなかったということは、問題なく意識できたということで、まわりから見ていたに違いないと思っていたのだろう。
 しかし、それは意識していなかったという思いが残っているだけで、本当は一点からしか見ていなかったのかも知れない。今日は最初から違和感があったので、そのつもりで神経も過敏だったと考えられるだろう。
 神経が過敏になっていたことで、店がなくなっていたことに必要以上の不安を感じた。しかし、少し落ち着いてみると、店がなくなっていて、自分の意識としては子供の頃の記憶がよみがえったことが悪いことだとは思わない。
――悪い夢を見ているだけなんだ――
 と、思えたからだ。普段だったら、これだけ信じられないことが起こっているのだから、自分がおかしくなったのではないかと思うに違いないが、その日は、信じられないことは虚空の出来事として、割り切ることができるような気がした。
――きっと明日はやってくるし、やってきた明日には、この店は復活している――
 と感じた。
 これを夢だと思えば、
――なぜ、このタイミングでこんな夢を見なければいけないのか――
 と思うのだが、その答えもやってくるはずの明日に隠されているような気がした。
 いや、本当は今も分かっているのだろうが、それを認めるに至っていない精神状態にあるのだろうと思えた。
――夢というのは、本当に覚めるものなのだろうか?
 朝が来て、目が覚めた時、夢の内容は覚えていないものだ。
 それは、目が覚めるにしたがって、夢の内容を忘れていくからであって、そこには、夢と現実の間に侵してはならない境界があるからだと思っている。この思いは今後も変わらないだろうが、今まで感じていたほどの境界は存在しないような気がしてきた。
 ということは、
――夢の中にも真実が隠されているのではないか?
 ということである。
 認めたくない真実があり、それを夢で見たものだとして意識することで自分を納得させようとする。その思いが夢を見させるのだとすれば、夢を見るということは、本能に近いものがあるのではないかと感じたのだ。
 夢には種類があると思っている。寝てから見るものだけが夢ではないと思っていた。幻だとして片づけられているものも、起きてから見る夢だと考えれば、分からなくもない。つまり、
――夢を見るということは、自分を納得させるための本能のようなものである――
 という考え方である。
 悟はその日、早く寝ようとは思わなかった。寝てしまうと起きた時、また同じ日だったら怖いという思いもあったのも事実だ。だが、それよりも、無理に寝てしまうことをしないで、自然に身を任せる方が、今の自分には似合っていると思っているのだ。
――もし、日が変わってもう一度同じ日を繰り返したとしても、必要以上に意識しないようにしよう――
 と思った。
 悟はその日、家に帰ってから、さつきの出ているビデオをいつものように見ていた。その時、初めて、さつきの中に誰かがいると感じた。だが、本人が意識したのはその日だけで、朝が来て翌日になっていれば、その意識は消えていた。
 だからといって、前の日に、
――同じ日を繰り返している――
 と感じたという意識が消えてしまったわけではない。
 悟は同じ日を繰り返していると感じたのはその日が最初だったが、それからしばらくの間、同じように同じ日を繰り返していると思える日を時々過ごしていた。
 しかし、その時は、最初の時のように、明らかに前の日と違った何かがあったり、懐かしいと思えるようなことを感じることはなかった。最初だけが特別だったのだ。
 翌日、朝起きると、本当に明日になっていた。ホッとしたという反面、
――昨日のは何だったんだ?
 という思いを残した。
 何かの警鐘ではないかと思ったが、その思いは由香に対してのものでしかなかった。仕事の帰りに昨日と同じように店の前まで行ってみると、店は存在していた。扉を開いて中に入ると、
「やあ、久しぶり」
 という返事が聞こえてきた。悟は挨拶もそこそこに気になっていることを聞いてみた。
「由香ちゃんは、最近も来ている?」
 すると帰ってきた答えは、
「由香ちゃん? 誰のこと?」
 驚愕の返事に、しばし我を忘れてしまった悟だった。
――昨日のことは、由香をこの世に存在したということを抹消するために必要だったということか?
 と思わないわけにもいかなかった。
――僕が一つの人間の存在を抹殺した?
 と思ったが、逆に由香の存在がなくなったことで、自分が同じ日を繰り返したとも考えられなくもなかった。
 店の常連にも聞いてみたが、
「知らないな」
 と、誰も由香の存在を口にする人はいない。まさか、全員が口裏を合わせて自分を担いでいるわけでもあるまい。そんなことをして、誰が何の得になるというのか。そう思うと、悟は背中にゾクッとするものを感じていた。
 だが、その可能性は低いと思った。なぜなら、由香の存在を自分が覚えているからだ。他の人も同じように同じ日を繰り返すような不思議な出来事に遭遇していたとすれば、自分だけが由香の存在を忘れてしまうというのもおかしな話だ。そう思うと、昨日の同じ日を繰り返しているという思いは、今日という日の前兆だったのではないかと思えなくもない。
 一日一日は連続しているようで連続しているわけではないと、昨日同じ日を繰り返したことへの理由として考えていたばかりなのに、真っ向からそれを否定するような出来事に遭遇したのだから、悟の混乱は、しばらく続くように思われた。
 もし同じ日を繰り返している人が他にもいるのだとすれば、そこには何かの法則が隠されているように思えてならなかった。保管お人が、その理由を知っているかどうか分からないが、同じ日を繰り返したとして、それが半永久的に続くなど、考えられない。
作品名:時空を超えた探し物 作家名:森本晃次