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時空を超えた探し物

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 想像力が命である本は、映像と違って、幅広い想像力を掻き立てる。それだけ自由な発想ができるということなのだろうが、自由に発想できるということは、簡単そうに感じるが、実は一番難しいことだ。
 自由であるだけに、自分を納得させられないと消化不良に陥るのは目に見えている。
――言い訳は一切通用しない――
 というイメージが固まっているからだ。
 それを差し引いても、本を読んで幅広い発想を繰り広げられるというのは、魅力がいっぱいだった。最初はビデオを見て原作を読んだり、逆に原作を読んでからビデオを見たりしていたが、それができなくなったのは、自由な発想に魅入られたからではないかと感じていた。
 その思いは、正解だといえないかも知れないが、
――限りなく、正解に近い――
 と言い切ることはできるだろう。
 充希を見ていると、その顔が次第に変わってくるのを感じた。
 最初は子供っぽい雰囲気が、ナースの衣装に似合っていて、あどけなさが前面に見えていたのだが、そんな彼女がストーリー展開のせいだとはいえ、苦悩を表す表情も見せるようになっていた。
 あどけなさの中に苦悩の表情が現れてくると、その時に現れてきた苦悩の表情は、忘れられなくなってくる。
――この顔は、最後まで忘れることができないだろうな――
 と、目の奥に表情が焼き付いていくのを感じていた。
 充希の雰囲気が、その頃から変わってきていることに悟は無意識に気づいていたようだが、それがどういう言いを持っているかまで分からなかった。
 その雰囲気というのは、苦悩が表情に現れたからではない。
――ストーリーの展開上、表情の変化に矛盾がある――
 と言えばいいのだろうか?
 矛盾というのは、よほどストーリー展開と、キャラクターの表情の両方をタイムラグのない状態で見続けていて気付くものである。だから、普通に見ているだけでは気づくはずもない。気づくとすれば、何かのタイミングで、
――おかしい――
 と感じたことが、そのまま忘れられない印象を残してはいるが、なかなかその正体を見極めることができない時に感じることだろう。
 悟はもちろん、さつきを知るはずもなかったが、矛盾を感じたとすれば、それは充希だけを見ていたのでは見つけることはできないはずだ。充希の中にいる、あるいは充希の表に後光のように見えるオーラに、さつきを感じることができないと、見つけることはできないということだ。
 だが、これも一瞬のことである。
 一瞬だけ感じて、次の瞬間には、感じたことを遠い過去のように感じてしまう。思い過ごしのように感じるかも知れないということだ。
 思い過ごしというのは、本当の思い過ごしと、実際に感じたことが一瞬すぎて、思い出そうとしても、一瞬が終わってすぐに、
――遠い過去のことだ――
 と思うことで、思い出せるはずのないことだと感じるからだろう。
 一瞬だけではあるが、さつきのことを感じたはずだった。だが、その時に感じたのは、果たしてさつきのことだけだったのだろうか? どうにもそれ以外の人も一瞬感じられたような気がして仕方がなかった。
 それが由香だということを、悟に分かるはずもない。しかし、さつきの中では、演技をしながら、充希というキャラクターの中に、由香を感じていたのは間違いないようだった。それを証明するすべはあるはずもないが、充希が一瞬変わってしまったように感じられた人が見ている人の中にいるなど、その時の充希に分かったであろうか?
 悟は、このビデオを最初レンタルで借りてきたが、よほど気に入ったのか、レンタルではなく販売しているビデオを買ってきた。今までにはなかったことだった。
――どこか、違っているような気がする――
 ジャケットはレンタルのものと少し違っていた。
――販売用とレンタルとで少し違っているのかな?
 と感じたが、それ以上深くは考えなかった。
 悟が、充希に対して二重人格性を見出したり、
――少しおかしいな――
 と一瞬感じたりしたのは、買ってきた方のビデオを見た時だった。感じたのは、最初であって、何度も見返しているが、最初に感じた思いを感じることはできなかった。
――気のせいか?
 と思ったが、そうではない。最初に感じたイメージが頭の中に滞留することで、次に見た時に感じたことがまったく同じなので、何も感じていないように思っているだけだった。見かけは何もないようでも、最初と同じであれば、進展はなくても、後退することもない。
 悟は、そういう発想ができる男であったが、今回はまったくそんな発想はなかった。いざその場面に遭遇すれば、意外と考えていることが本当に起こるなどと思わないものなのかも知れない。
 ビデオの中で動いている充希を最初は意識して見ていたが、そのうちに意識することがなくなっていた。それは、何度も見ているうちにすべてのパターンが頭の中に入ったからであり、頭の中が飽和状態だといっても過言ではないだろう。
 充希の中にいるのが一人ではなく二人だということに本当の意味で気づいたのは、実は飽和状態になっている今だった。毎日日課のように見ているビデオは生活の一部となり、自分の呼吸や脈拍に微妙に影響してきているのではないだろうか?
 最近では、ビデオを見ながら頭の中が混乱しているのではないかと思うことがあった。その理由は、
――充希は実在の人物なのかも知れない――
 という、妄想としか思えない発想が頭をよぎることがあるからだ。
 ビデオを見ている時には感じないのだが、むしろ、ビデオを見ていない時に感じるのだ。ただ、それも部屋にいる時だけで、一旦部屋を出ていくと、妄想であるということを自覚していた。
 表では感じないので、充希を探してみようなどという発想は思い浮かばない。ただ気になっているのは、充希がビデオの中で、
「私は、誰かを探している」
 というセリフがあるが、セリフの根拠がどこにも表れていないのだ。このセリフもいきなり出てきたものだし、セリフの後で、充希が誰かを探しに行くシーンも見当たらない。一見まったく無意味に見えるシーンに違和感を感じるのだが、それについてこのビデオを見た人は誰も疑問に思わないのだろうか?
 このビデオが、最後尻切れトンボになっているというのをずっと意識していたが、それを裏付けるのが、
「誰かを探している」
 という充希のセリフでもあった。
 一体誰を探しているというのか、探し人が見つかりさえすれば、このお話は、大団円を迎えることができるということなのだろうか?
 もし、ここにさつきが存在していたら、探している人物は由香ではないかと思えるのだが、その由香の存在を悟は知る由もない。それどころか、さつきが演じる充希の中に、由香の影を見ている悟にとって、由香の存在を知っていたとしても、探し人が由香だとは思えないに違いない。
――もしかして、俺なのか?
作品名:時空を超えた探し物 作家名:森本晃次