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時空を超えた探し物

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 そういえば、完全に体調が悪かったわけでもないのに、なかなか治らない膠着状態にあった時、何を感じたかというと、
――何かがおかしい――
 と思いながらも、ハッキリとした病状が現れるわけではなく、不安だけを煽られる状態になったからだった。
 落ちてくると思っている天井を見つめていると、次第に天井が遠くなってくるのを感じた。指先を動かそうとしたが、まるで二の腕から先が別の生き物のように、動かすことができても、自分で動かしているという意識はなかった。
「痛くないですか?」
 そう言って、手首を優しく触ってくれたナースが、次の瞬間には、点滴のビンを見つめていて、その表情が一生懸命に思えて、声を掛けられなかった。点滴の調整を終えた彼女は、再度悟を見て、
「痛くないですか?」
 と聞いてきた。
「ええ、大丈夫です」
 と、答えると、満足そうに微笑むと、その場から去って行った。
 悟はその後、急に襲ってきた睡魔に襲われると、気持ちよさに誘われるように、そのまま眠ってしまったようだ。目が覚めると、結構な汗を掻いていて、点滴も終わっていた。腕から針はとっくに抜かれていて、
「はい、終わりましたよ。お疲れ様でした」
 と、今度はベテランナースが覆いかぶさるように、悟を覗き込んだ。さっきの控えめな雰囲気のナースに比べていかにも高圧的な態度に少し腹も立っていたが、中途半端な睡眠が影響してか、目覚めはあまり気持ちのいいものではなかった。それでも点滴を打ってもらったという安心感がるからか、頭痛も次第に引いてきた。
 頭痛が引いてくるにしたがって、さっきまでのことが次第に記憶から消えていく。さっきの優しいナースの顔も思い出せなくなっていた。
――夢だったんだ――
 夢から覚める時、夢の内容を忘れていくのと同じ感覚に、彼女のことが夢であることの信憑性の高さを感じた悟は、
――思い出せないなら、それも仕方ないか――
 と、簡単に諦められる自分が不思議だった。
――ここで下手に意識しない方が、後になって思い出せそうな気がする――
 と、自分の中で勝手な「オカルト」を作っていた。
 記憶がなくなってくるにしたがって、逆に忘れないような気がした。その理由は、さっきの控えめなナースのイメージが、頭の中から消えないからだと思った。何かを言いたそうにしていたと感じたのは、気のせいなのかも知れないが、一緒に感じた天井が落ちてくるかも知れないというイメージが、一緒に頭の中にこびりついているからだった。
 その時の思いがよみがえってきたのが、DVDに出ている女優を見た時だった。
――彼女とはどこかで一緒だったような気がする――
 と感じたからで、以前に付き合った女性の中にいないタイプだった。付き合った中にいないタイプだったからこそ、余計に意識したのかも知れない。新鮮さという意味もあったが、それよりも、映像を見ていて、まるで自分が看護されているような錯覚に陥るほど、親近感が湧いたからだった。
 ストーリーは、主人公である彼女は、役名は如月充希といい、ナースになって三年目だった。ナースになりたての頃のように、仕事に燃えることがなくなっていた。もちろん、看護に手を抜いているわけではないが、どこか物足りないものがあった。それがやりがいであることに気が付いたのは、病院内で気になる男性が現れてからだった。
 その男性は、医者ではなく、薬剤師だった。近すぎる関係ではなく、距離が微妙であることで、新鮮な気持ちにさせたのか、次第に彼女は薬剤師の男性を意識していく。
 男性は名前を柏木俊哉といい、充希より年上だったが、病院の在籍歴は充希の方が長かった。それでも、充希は俊哉のことを兄のように慕っていて、頼りにしていた。俊哉の方も悪い気はしておらず、まわりから見れば、
――仲睦まじい二人――
 だったのだ。
 俊哉は誰に対しても分け隔てのない性格で、人間性を表していた。どんなことも平均的にこなす、上司からすれば、
――使い勝手のある部下――
 ということになるだろう。
 ただ、それが器用貧乏になるということを俊哉には分らなかった。
 さらには俊哉の性格として、勘が鈍いというのか、まわりから見ていて気を遣っている様子が伺えないことから、誤解を受けやすいタイプであった。
 人から誤解を受けやすいことを俊哉は気づかなかった。気づいていても、どうすることもできないのだろうが、そんな俊哉に対して、
――捨てる神あれば拾う神あり――
 まさしく、充希は、
――拾う神――
 だったのだ。
 充希は、まわりのナースそつなく接しているようだったが、実際には孤独を感じていた。いつも寂しさが充希の中でくすぶっていたのだが、そのことを誰も気づいていない。ただ一人気づいた人がいたとすれば、普段は勘が鈍いと思われていた俊哉だった。
 自分でもハッキリと気づかなかった寂しさに気づいてくれたのが、普段から勘が鈍いと目されていた俊哉であることに充希はビックリしていた。もちろん、俊哉の口からストレートに、
「君には寂しさを感じる」
 などということを言われたわけではないが、彼の素振りから分かってきたのだ。
――勘が鈍いくせに、人に彼の考えていることをまわりに悟らせる才能が、彼には備わっているんだわ――
 さりげなさの中に、自分の意思を表す人がいるという。今までにほとんど出会ったことのない人だったが、出会ってみたいと常々思っていた。それが、案外自分の身近に現れたというのは驚きだったが、彼を感じるうちに、
――これもさりげなさだわ。心地よく感じる――
 と思うようになっていた。その思いが彼に対して慕いたいという思いを駆り立てることに次第に気づいていくのだった。
 ある日、一つの事件が起こる。彼が調合した薬で、患者の一人の病状が急変したのだ。大事には至らなかったが、彼は責任を取らされることになった。病院を辞めさせられるところだったが、彼の上司の嘆願で、退職の危機だけは免れた。
 だが、しばらくの間、彼は茫然自失状態で、仕事にならなかった。
「少しの間、休暇を取ったらどうだ?」
 と上司から打診を受け、二週間ほど仕事を休んでいた。ノイローゼになりかかっていたようで、まわりからは、
「あそこまで撃たれ弱いとは思わなかった」
 と噂されていた。
 だが、充希としては、
――彼のような立場になれば、誰だって大なり小なり、ノイローゼになるわよ。撃たれ弱いなんて言っている人は、彼のような立場に陥ったことのない人たちなんだわ――
 と感じていた。
 彼から癒されたと思っている充希は、俊哉への恩返しのつもりで、彼が帰ってきてから、必死で慰めようと思っていた。
 しかし、帰ってきてからの俊哉は人が変わったようになっていた。顔色は心なしか青白く、休暇前の彼とは別人のようだった。何かを思い詰めている様子だけしか見ていないとすれば、彼のどこが変わったのか分からないかも知れない。
――まるで能面のようだわ――
 と感じた充希は、うかつに彼に話しかけられないと思うのだった。
 しかし、仕事上での彼は、完璧主義になっていた。元々神経質なところがあったが、それほど目立たなかったのは、勘が鈍いところがあったからだ。最初は上司も、
作品名:時空を超えた探し物 作家名:森本晃次