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柿の木の秘密

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 ロリータ趣味という意識はあったのだが、ロリータでなくなると、気になっていた女の子に対して、興味も薄れてくることが自分にあるなど、想像もしていなかったことだ。
 そのせいもあってか、高校時代は年上の女性が苦手だった。そのくせ、年上の女性から意識されることもあった。
 あれは、中学三年生の頃だっただろうか。まだ自分がハッキリとロリータ趣味だという認識が生まれる前のことだった。
 三年生の時の英語の先生が、女性の先生だったのだが、彼女は三十歳を少し過ぎたくらいだっただろうか。彼氏がいるという話を聞いたこともなく、気が付けば、本人も三十歳を過ぎてしまっていたのだろう。英語の授業中でも、時々上の空になっていて、
「先生どうしたんですか?」
 と生徒から指摘されることがあったくらいだ。
 その時武明は、
――先生も大変なんだな――
 と、何が大変なのか、本当に他人事として見ていた。
 しかし、上の空な先生に対してクラスの男子の中で、
「誰か、クラスの中に好きな男の子でも見つけたんじゃないか?」
 と言い出す輩が現れた。
「そんなことはないだろう」
 と否定する意見が多い中、
「いやいや、先生のあの虚空を見つめる目は、恋をしている目なんじゃないか?」
「そうだとしても、それがクラスの中の誰かだというのは、あまりにも性急な結論すぎないか?」
「あのトロンとした目は確かに虚空を見つめる目だけど、急に我に返って、クラスの中を見渡すことがあるんだ。最近その時に、ある一点で目が留まっていることに俺は気づいたんだけどな」
「おいおい、それは一体誰なんだい?」
 と言われて、彼は、
「そいつの名誉のためにも、今は公表しちゃいけないよな」
 と言って、苦笑いをした。そして、その視線と武明は目が合ってしまったのだ。
 普段であれば、相手も自分も衝動的に視線をそらすのだろうが、その時は武明もその生徒も目をそらすことはしなかった。どちらかが目をそらせば相手もそらすはずなのに、その兆候はまったくなかった。彼はアイコンタクトで、武明に合図をしたのだ。
――ええっ? 俺?
 思わず叫びそうになるのを堪えた。
 男の顔を見ていると、したり顔に見えた。それだけ自分の目に自信があるのだろう。武明はその目に誘発されるように先生の好きな相手が自分だと思うようになると、それ以外の可能性はすべて否定されてしまうように思えてならかった。
 先生と一度だけ密室で二人きりになる機会があった。体育館倉庫に閉じ込められる結果になったのだが、それは、先生が最初から計画していたものだった。
――ここまでやるか?
 と、さすがに怖くなったが、そこまで自分のことを好きになってくれたことに対して、武明もまんざらではないと思えてきたのだ。
 彼女への気持ちを少し前向きにし、まわりへの気持ちをオープンにしてくると、
――先生が俺を好きなら、答えてやりたい――
 感じるようになっていた。
 その思いは先生にも伝わっていたし、最初に先生の思いを看破した人も、きっと分かっているだろう。
 しかし、それから急に先生の態度がよそよそしくなった。
 二人きりになったからと言って、何かがあったわけではない。てっきり襲われるのではないかと思ったが、そうではなかった。
――まさか二人きりになったのは、自分の気持ちを確かめたかったから?
 と思うようになると、いまさら感がハンパではなく、その思いが間違いないものだと悟ると、先生の自分への気持ちが錯覚だったということだったようだ。
――やっぱり、年上は信じられない――
 と感じたのだが、何とその後、自分をけしかける結果になった看破した生徒と、彼女が付き合っているという話を聞いた時は、ビックリさせられた。
 そのビックリがどこから来るのか、きっと誰にも分からないだろう。
――分かられて溜まるものか――
 という思いが強かった。
 武明がロリータに走ったのは、それがきっかけだった。
 元々ロリータの性分だったのだろうが、そのことを思い知らせるきっかけというのはえてしてあるもので、それが先生による自分への恋の結末だったのだろう。
 高校時代はロリータ一本だったのだが、大学に入ると、今度は大人のオンナにも興味が出てきた。
「先生に飽きられたことを忘れたのか?」
 自分で戒めてみたが、感情は理性よりも強いようだ。
――要するに、俺は誰でもいいのか?
 と、自己嫌悪に陥ったりもしたが、最終的には、
「好きになった人がタイプということで、それでいいではないか」
 と、自分に言い聞かせていたのだ。
 引き篭もりになったのも、まわりからいろいろ言われて、自分の進む道が分からなくなったからだ。
 まわりが勝手に騒ぎ立てて、おだてたりすかしたりして武明の性格を裸にしようとした。他の人はそこまで感じないのだろうが、感じてしまった武明は、まわりの感情に、ほとほと嫌気が差していたのだ。
 特に一番序実に感じられた相手は親だった。
 厳格な父親は、自分の考えの通りに、息子を型に嵌めようとしていた。母親は父親よりも露骨だった。
「ちゃんとしないと、お父さんに叱られるわよ」
 などと言われると、
「あんたは自分の意見ってものがないのかい!」
 って、文句を言いたい。
 しかし、その言葉が口から出てくることはなく、その代わり、唇をずっと結んで、歯を食いしばるしかなかった。
 厳格な父親も嫌だったが、この自分の意見を持たず、ただ、人の威圧を相手に知らしめて、あたかも自分の説教のごとく簡単にそのセリフを吐く人が、武明にはどうしても許せなかった。
 それが引き篭もりの理由だった。
 まだ引き篭もりになる前の、仕事を辞めて家でゴロゴロしていた頃、親二人でどこかに出かける時、
「電話に出たり、呼び鈴が鳴っても出る必要はないからね」
 と言われた。
 理由を聞くと、
「世間体を考えれば、あんたが応対すると、私たちが恥ずかしい」
 そこまで強い口調ではなかったのだろうが、自分の息子がいかにニートになったからと言って、
「恥ずかしいから顔を出さないで」
 と言われてしまっては、立場もないものだ。
 いくらまわりが冷たくても、親が何も言わなければそれでよかったのに、完全に体裁だけを考えて、息子の気持ちなど何も考えていない。その思いが武明を引き篭もりにして、死んでからも、憎まれ続けることになるのであった。
――感情よりも、本能で生きていけばいいんだ――
 これが、武明の引き篭もりの信念だった。

                 隣の庭先

 綾乃がやってきてからの老人、表札には杉下と書かれていたので杉下老人と呼ぶが、杉下老人は、今までと少しずつ雰囲気が変わってきているのを感じた。
作品名:柿の木の秘密 作家名:森本晃次