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柿の木の秘密

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 実際に孤独を一番最初に感じたのは、高校卒業前くらいだっただろうか。三年生の頃は受験を前にしてナイーブになっていたが、孤独とまでは感じていなかったように思う。
 だが、友達から、
「お前は小学生の頃から孤独だったからな」
 と言われ、大きなショックを感じた。
――孤独なんて感じたことなかったはずなのに――
 小学生の頃を思い出そうとしても、ハッキリとは思い出せない。ハッキリと思い出せないということは、無理に思い出そうとして思い出したことが本当のことなのか怪しいものだ。
 むしろ違う記憶であることの方が強い気がした。しかも、それが本当に自分の記憶なのか、それすら怪しい気がしていた。
「孤独だったんじゃないんだ。人間不信だったんだ」
 と友達に答えてみたが、友達はその言葉の意味がハッキリと分かっているわけではなかった。
「孤独と人間不信って違うのか? 人間不信が孤独を生むんじゃないのかい?」
 と言われた。
「そうじゃないんだ。孤独と人間不信はまったく逆のもののように思えるんだ。そこには感情の有無が関わっているんじゃないかって思っているんだけど、お前はどう思う?」
 友達と少しの間、談義した。
 しかし、結論が生まれるわけもなく、話は中断してしまった。しかし、一ついえることは、
「孤独に見える人間不信もあるってことなのかも知れないな」
 という友達の意見だけは、二人とも賛同していたのだった。
「俺も人間不信になったことがあったけど、それはその人に対して恨みや妬みを感じたわけではないんだよな。孤独を感じるというのも同じもので、相手に何も感じないから、自分の中に孤独を作るんじゃないかって思うんだ」
 これも友達の意見だったが、それも間違っていないような気がした。
 武明は一人で考えている方が好きだったが、こうやって友達と談義するのも悪くないと思うようになった。人間不信とは別のところで人を求めている時もあると思うと、やはり孤独と人間不信は、同じ次元で考えてはいけないものに思えてきたのだ。
「杉下老人は、今までに人間不信に陥ったことってなかったんだろうか?」
 思わず、武明が口を開いた。
「そんなことはないと思いますよ。でも、実際に被害に遭ったのは初めてなのかも知れないですね」
 とマスターが返した。
「僕には、杉下老人には孤独は感じますが、どうしても人間不信を抱いているようには思えないんですよ。人間不信を自分に言い聞かせているとは思えるんですが、本当にそうなのかということまで、ハッキリと分からないんです」
 という武明の言葉に、マスターは言葉がないようだった。
「杉下老人が風俗に通うようになってから、私も行ってみたんですが、今まで感じていたような風俗に対しての思いとは違っていましたね」
「というと?」
「偏見の目で見ていたんですが、そんなことはまったくない。老人が、会話を求めていると言っていましたけど、その気持ち分かる気がしますよ。ただ、老人は女性恐怖症だったのかも知れません」
「女性恐怖症の人が風俗通いですか?」
 少し考えれば分かることだったが、その時は風俗に対しての偏見もあってか、深く考えなかった。
「ええ、女性恐怖症だからこそ、風俗に通うんです。普通の恋愛ができない人というのは結構いるもので、性欲を満たすためだけに風俗に通うという人も少なくないんじゃないかって思いますよ」
 その時のマスターの言葉には重みがあった。ただ、重みだけではなく、冷徹さもあり、いかにも他人事のように思えてならなかった。
 武明は女性恐怖症ではないが、普通の恋愛はできないと思っている。孤独を感じているからだ。中学二年生の頃に異性を気にするようになってからしばらくは、
「彼女がほしい」
 と切に願っていた。
 だが、その思いも次第に薄れてきた。自分がどうして彼女がほしいのかということに気づいたからだ。
 彼女がほしいと思ったきっかけは、最初から分かっていた。友達が女の子を連れてきて、自慢話を始め、イチャイチャしているのを見せ付けられることで、妬みと羨ましさから、彼女がほしいという意識を持ったのだ。
 確かに思春期であり、彼女がほしいと思っていたのは間違いのないことだが、人への妬みや羨ましさから生まれたものだということを意識したことで、まわりに対しての競争心が生まれた。しかし、自分とまわりを比べて自分に勝ち目がないと思った時、まわりと一線を隠すことを考えたのだ。
 人によっては、まわりと接することで、自分を高めていこうと思う人もいるだろう。そういう人の方が大半なのかも知れない。しかし、武明にはそんな発想はなかった。人と接することを、なるべく控えるようになったのだ。
 中学高校時代と、まわりを見ていると、皆何を考えているのか分からなかった。まったく何も喋らないやつもいて、彼らはそういう意味では分かりやすかったが、団体でつるんでいる連中の中にも、どこかよそよそしさを感じる連中もいた。そんな連中を見ていると、人を避けているように思え、なるべく目立たないようにしようとしていた。
 そんな連中を見ていると、武明は矛盾を感じた。
――人とつるんでいながら、目立とうという意識がないなんて、何のためにつるんでいるんだ?
 と思った。
 自分の居場所を見つけることができず、とりあえず人とつるんでいるだけだというのであれば、武明にはその気持ちは理解できるものではなかった。
「杉下老人は、風俗に通うようになると、彼に群がってきた女性が急に離れていったというんです」
「老人は自分が風俗に通っているということを他の女に話したんですかね?」
「ええ、話したようですよ。でも、それだけのことでお金目当ての女性が、まるで蜘蛛の子を散らすようにまわりから去っていきますかね?」
「そうですね。それは少しおかしな気がしますね」
「私もおかしいと思って、少し杉下さんに聞いてみたんですよ。そうすると、『私のまわりに群がってくる女たちは、それぞれに風俗関係の女たちなんだ。そんな女たちでなければ、私に群がったりしませんからね』って言っていたんです」
「女たちが嫉妬心を燃やしたということですか?」
「それもおかしいと思うんですよ。杉下老人のまわりに、他の女が、しかも自分と同じように風俗関係の女がいることは分かっているはずですからね。しかも、彼女たちも自分と同じようにお金目当てであることを、皆それぞれ分かっているhずだからですね」
「そうですよね。一体どういう発想から彼女たちは老人から離れていったんでしょうね。風俗に通っていることと関係がないんじゃないですか?」
「いや、そんなことはないようですよ。それは杉下さんが自分で話してくれましたからね」
「マスターは、その理由をご存知なんですか?」
「ええ、分かっているつもりです。実際に杉下さんから聞きましたからね。でも、俄かには信じられない話であり、今でも不思議に思うことなんですよ」
 とマスターは言った。
「僕にも分かるように話してくれるとありがたいですね」
 と武明が言うと、
作品名:柿の木の秘密 作家名:森本晃次