小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

魂の記憶

INDEX|8ページ/34ページ|

次のページ前のページ
 

 と言い合っていたが、お互いに、
――相手は変わり者じゃなくて、自分が変わっているだけなんだわ――
 と思っていた。
 普通なら自分が変わっていなくて、相手が変わっていると思いたいものなのだが、ここだけを見ると、確かに自分が変わっているに違いないように思うのだが、考えてみれば、他の人と同じでは嫌だと思っているのだから、この考え方の方が、自分らしいと言えるのではないだろうか。
 こんなことを、ほぼ毎日考えている。
――気が付けば、いつも何かを考えている――
 と感じていた由紀子は、頼子も同じなのだろうと思っていた。由紀子の考えに間違いはなかったが、由紀子が考えているような理論的なものではなかった。
 由紀子は、
――何とか自分を納得させたい――
 という思いがあった。
 つまりは納得させられないと自分が信じられないということの裏返しでもあった。だから、余計に自分が他の人と同じでは嫌だと思いながらも、自分の考えていることは、他の人も考えていることだと思うのだ。そこで他の人との違いは、
――どれだけ理論的に自分を納得させられるか?
 ということに終始していたのだ。
 頼子の場合は、そこまで理論的に考えているわけではなかった。自分を納得させる必要もない。漠然とした考えを持っているというのは、それだけまわりを意識していないということでもあった。
 頼子も確かにいつも何かを考えていた。ただ、答えを求めていたわけではない。考えることで、時間をいかに無駄なく使うことができるかどうかということの方が、頼子には大切なことだったのだ。
――私は、由紀子とは違う――
 由紀子がまわりの人との違いを意識しているのだとすれば、頼子の方は、目の前にいる由紀子との違いだけを考えていた。全体に対しての思いと、特定の個人相手に対しての思いと、どちらが濃いものなのかと言えば、特定の個人相手の方が濃いのだということは、火を見るよりも明らかであろう。
 由紀子はあまり友達がいなかったが、親友になれば、結構ずっと親友でいられると思っていた。実際に、中学時代からの親友だと思っている友達とは、ずっと交流を深めている。特に高校を卒業するまで一緒だった友達とは、今でも時々連絡を取り合っていた。
 ただ、その友達は短大を卒業後、東京に出て行ったので、なかなか会うことがなくなった。彼女の方も東京での生活が忙しいらしく、帰省もしてこない。どうやら、彼氏ができたようだということは、男性に対してあまり慣れていない由紀子にも想像がついた。
――友情よりも、愛情なのね――
 距離が離れていることもさることながら、彼氏ができたのであれば、それも仕方のないことだと思っていた。
 頼子は自分の躁鬱症について自分で意識していたが、由紀子の場合は自分で意識していなかった。頼子の中で、
――躁鬱症というのは、誰もが潜在的に持っているもので、それが表に出てくるか出てこないかで、まわりは判断をしない――
 と思っていた。
 もちろん、まわりは目に見えていること以外、他人のことを理解できない。そんなことは分かりきっていることだが、自分にあるものをまわりの人が皆持っているなどという考えは、普通なら突飛なことだと思うだろう。
 頼子も子供の頃はそうだった。
――自分は他の人とは違う――
 と思っていたからで、そう思えば思うほど、自分が孤立してくるのを感じていた。
 孤立が嫌いだというわけではない。確かに孤立してしまうとまわりから置いていかれて、自分の居場所を確保することが難しくなる。そうなってしまえば、いくら他の人とは違うという信念を持っていても、不安に打ち勝てるだけの自信が自分になければ、結局は自らを潰してしまうことになるだろう。
 頼子は、思い込むとそれを自信だと思うことがしばしばあった。それがいい方に転がれば悪いことではない。むしろ自分に対しての自信になるのだから、大いにいいことであるに違いない。しかし、思い込みはえてして自分のまわりの人を惑わすことにも繋がりかねない。そのことを頼子は理解していなかったし、頼子のまわりにいる人も彼女の思い込みに気づかぬまま、惑わされてしまうことも少なくなかった。由紀子も類に漏れず、大いに頼子に影響されてしまっていたようだ。
 元々、人からの影響を受けやすいのが由紀子の性格だった。由紀子はそのことを自覚している。しかも、それを悪いことだとは思っていないので、違和感がないのも当然であった。
 由紀子が人から影響を受けるのは今に始まったことではない。ひょっとすると、モノを捨てられない性格になったのも、人の影響を色濃く受けたからだった。ただ、小学生の低学年の頃からモノを捨てられない性格になってしまったのだ。その原因について由紀子には思い当たるふしはある。親の教育方針というべきであろうか。
 小学生の頃は、本当にモノを捨てられない性格がひどかったが、中学に入り、一時期、いろいろなものを捨ててしまう性格に一時期変わっていた。しかし、一年もしないうちに、今度は前のようにモノを捨てられなくなってしまった。いや、前のようにというよりも、さらにその性格は強固なものに変わっていたのだ。
 元々、モノを捨てられない性格になった理由は、子供の頃から忘れっぽい性格だった由紀子は、よく学校に忘れ物をしてきていた。
 ノートや教科書など忘れてくることも多く、そんな時はよく親から、
「学校まで行って、取っていなさい」
 と言われたものだ。
 もちろん、何度も取りに行かされた。涙を流しながら取りに行ったものだ。
 いくら親でも涙を流せば許してくれるだろうという思いが、小学低学年の由紀子にはあったが、親は妥協を許さなかった。今から思えば、
――小さい頃に癖をつけておく必要がある――
 と思ったのだと思えば、百歩譲れば許せるかも知れないが、それにしても、そこまで徹底するのは、子供心に、
――お母さんは私が憎いんだわ――
 と思うようになっても当然のことであろう。
 だが、そんな思いを子供が抱いていようがどうしようが親には関係なかった。物忘れというのは、その頃の由紀子はどんどん激しくなっていった。最初はノートや教科書だけだったのに、筆箱や、シャーペンやボールペンまで忘れるようになった。
 普通ならそんな細かいところまで親もチェックはしないのだろうが、由紀子の親も異常だった。シャーペン一本忘れただけで、
「取ってきなさい」
 と言われたものだ。
 子供心に、母親が般若の面をつけているように思えてきた。それこそ親のことを、
――鬼だ――
 と思うようになり、ここまでくると、自分の惨めさを痛感させられるほどになった。
 親とすれば、最初は教科書やノートだけだったものが、今度はシャーペン一本の単位になることは、
――この娘は親をナメている――
 とでも思うようになったのかも知れない。そう思われてしまうと、後は女性特有のヒステリックな思いが頭をもたげ、特に相手が自分の娘であれば、余計に苛立ちも激しくなるというものだろう。
作品名:魂の記憶 作家名:森本晃次