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魂の記憶

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 と言っているようなものではないだろうか。
 相手に対する自分の洞察力に自信がないから、相手を必死で見切ろうとして、目に力が入ってしまう。
 もし誰かから、
「あの人は目力が強い」
 と言われれば、
「自分に自信があるから、自分の力をまわりに示そうとしている」
 という印象を持ってしまう。
 しかし、考えてみれば、視力の悪い人が、相手の顔を一生懸命に覚えようとして、ついつい目に力が入ってしまうこともあるだろう。それも、
――目力の強さ――
 と言えるのではないだろうか。
 一つのことを言葉で示した時、それを聞いた人の受け取り方で、まったく正反対のイメージを抱くこともある。目力の強さというのも、そういう意味では、両極端なイメージを相手に抱かせるものなのだ。
――恵さんは、自信のある方であってほしいな――
 と、正則は感じた。
 恵を見ていると、自分に自信があるようにはあまり見えないが、自信がないという感じでもない。あの表情は何か目標があって、それに向かって前進しているようにも見えていた。だからこそ、自信がある目であってほしいと思っていた。
 それに、自分に自信を持てない人から、急に声を掛けられるとも思えなかったからだ。急に声を掛けて、
――もし、違ったらどうしよう?
 という思いが最初に頭をよぎると考えたからだ。
 自分にもあまり自分が持てる方ではない正則は、決してどこかで見たことのある人だと思ったとしても、声を掛ける勇気までは持てないと思ったからだ。
 中学の頃に、目の前を歩く女性の後ろ姿だけで、
――見覚えのある後ろ姿だ――
 と思い、気軽に声を掛けて、
「あなた、一体誰?」
 と、本当であれば、気さくに微笑んで振り向いてくれるはずの女性の表情を思い浮かべていたのに、振り返ったその顔は、似ても似つかぬまるで能面のような無表情な女が、まるで不審者を見るようにジロジロと頭のてっぺんから、足元まで覗き込んでいる。
「あっ、あの……」
 それ以上、何も言えなくなってしまった。
 そんなオタオタしている相手に追い打ちを掛けるように、
「何なのよ、あなた。失礼ね」
 と言って、汚いものでも見るかのように見下したその顔は、今でも忘れられない。今でこそ、
――あんな顔しなくてもいいのに――
 と思うほど、相手が悪かったと思えればそれまでなのだが、どうしても、その時の冷静な、いや、冷徹なその女の顔が忘れられず、思い出しただけでも、怒りがこみ上げてきそうになっていた。
 しかし、それ以上に、あの時、何も言えなくなってしまった自分が悔しかった。まるで蛇に睨まれたカエルのようになってしまった自分は、その時、トラウマを作ってしまったのだろう。正則は時々、
――自分が悪いかも知れない――
 と思うことでも、相手と意地の張り合いをした時、絶対に引き下がらないと心に決めてしまうことがあった。それは、
――自分の中でのトラウマに打ち勝ちたい――
 という思いがあるからなのか、無理を承知で、強引に押し切ろうとしてしまう自分を感じていた。
 一度、自分が引き下がったことで作ってしまったトラウマは、普通にしていたのでは拭い去ることはできないと思っている。少々強引なことであっても、しなければいけないことは通し切ろうと思うようになっていた。
 正則は恵の目力を見た時、最初は、
――自分に自信がないからかも知れない――
 と思い、
――そうでなければいいのに――
 と思うようになった。
 しかし、実際にはそうではないことを今なら分かる。
――恵さんは、自分の中の記憶に欠落した部分があり、それを思い出そうと、ついつい目力が強くなるのではないか?
 と思うようになった。
 それは、一つのことを見た時、その反対を見てみると違った見方が出てくるかも知れないという思いがあったからだ。ただ、反対の見方をするためには、
――どの時点の反対、あるいは、どの部分の反対を見ればいいのか?
 ということが重要になってくる。
 正則は、それを「過去」ということに限って考えた。その人を見つめる目が、すでに以前に出会った時というのを見据えているとすれば、彼女が過去に何か禍根を残したのかも知れないと感じた。
 だが、そのことを自分で自信が持てないことで、どうしても相手を強く見てしまう。相手から、自分の欠落した過去を見ようとしているのかも知れないと思うと、無理なことを押し通そうとしている気がしてきた。
 しかし、彼女には何か勝算があるように思えた。思い出せないまでも、相手の考えていることを見透かすことができるくらいの力が彼女の中に潜んでいるような気がした。しかし、その力を彼女は自分で発揮できるだけの自信がなかった。力は持っていても自信が持てなければ、宝の持ち腐れであった。
 以前の彼女からは感じることのできなかった思いが、一度再会しただけで、まるで手に取るように分かってきたのは、
――本当は前から分かっていたのかも知れない――
 という思いがあるのも事実だった。
 彼女のどんな記憶が欠落しているのか分からないが、今の彼女の中に、誰かに対しての恨みが渦巻いていることを感じることができた。しかし、完全に記憶を取り戻さないと、恨みを誰にぶつけていいのか分からないようだ。
――彼女の迷いを消すには、欠落した記憶を思い出させてあげるのが一番だが、その記憶がよみがえってしまうと、晴らしたい恨みが誰に対して向けられているのか分かってしまうことで、彼女が復讐に走るかも知れない――
 と思ったのだ。
 正則は迷ってしまった。
――声を掛けてきてくれたことは嬉しいが、厄介なことをしょい込んでしまったような気がしてきた――
 と感じたからだ。
 だが、恵の方は少し違った思いを抱いていた。
 確かに、欠落している記憶があるのは分かっていて、それを思い出すことが自分の中にあるモヤモヤを解消できるのではないかと思っている。
 しかし、思い出すことで自分が恐ろしい道に足を踏み入れてしまうのではないかという危惧も抱いていた。誰かに対しての復讐というイメージを、自分の中に抱いているからだった。
 恵は弟を亡くしたという過去を持っていたが、欠落している記憶がどうもその頃に集中しているような気がした。
 さらには、その頃から、
――昔のことは思い出せるのに、直近のことが思い出せない――
 という意識を持つようになっていた。今ではそんな意識はなくなっていたが、心の奥にくすぶっているようだった。
 恵が正則に声を掛けたのが偶然ではないとすれば、自分が以前に持っていた感覚を持つ人として、正則を意識していたのも一つだったのかも知れない。そして恵の目力の強さは、そんな正則の中に、自分と同じ部分を見つけたことに、確証を得ようと思ったからではないだろうか。
 恵の記憶が欠落している部分に、自分の弟が死んでしまったという意識が働いているのは間違いないと思っている。
――自分の欠落した部分の記憶を取り戻させる「カギ」を持っているのは、案外近いところにいる人なのかも知れない――
 と、恵は考えていた。

                  第三章 未来

 由紀子は、自分が最近、
作品名:魂の記憶 作家名:森本晃次