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魂の記憶

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 だが、本当に出会うということは、出会ってみたいということを、ある程度しっかり思わないと実現しないことだった。中途半端に感じることは、中途半端な結果しか生まないものだ。そんな意識をいつの頃からか、由紀子が抱くようになっていた。少なくとも、高校時代までにはなかったことだった。環境の変化が自分の考えに影響を及ぼすというよりも、
――今まで気づかなかったことを気づかせてくれる――
 という思いが強いからに違いないのだった。
 由紀子は、自分が男性からモテることを意識していたが、それはどちらかというと、女性からモテない男性が多かった。それは見た目というよりも、雰囲気がいかにも女性に好かれるタイプではなかった。
――自分というものをしっかりと持っている人にモテるのならいいんだけど、皆、どこか自信なさげな人が多いわ――
 由紀子は、なぜか中学時代から自分がモテていたことを意識していたが、まわりはそのことに気づいていないようだった。やはり、皆から好かれるような男性が好きになってくれるのであれば、まわりも意識するというものだ。もっともその中には嫉妬心が渦巻いているもので、
――まわりから意識されるというのも善し悪しだわ――
 と考えていた。
 由紀子にとって、
「昔から好きな人には好かれないし、好きだと思った人は恋人がいる」
 という、どこかで聞いたことがあるような歌詞の一部分を思い起こさせた。
 では、由紀子はどんな人が好きなのかと言われると漠然としてしか思えなかった。ただ一つ言えることは、
「私を好きになってくれる人たちがタイプではないことには違いないわね」
 という思いがあることだった。
 由紀子は自分の表情に、ある意味、男性から好かれることのないような致命的な癖があることに気づいたのは、高校になってからだった。
――どうして今まで気づかなかったんだろう?
 と思うほどで、しかも、
――どうして自分が好きな人以外からこんなにモテるのかしら?
 という本当にモテない人の前では言えないことだが、そんなことを考えている時にふと気づいたのだ。
「あんたは贅沢よ」
 と、モテない人から言われるに違いないと思っていた時、ふいに気が付いたのだ。もし、そんな風に思うことがなければ、あるいは、他の人から指摘でもされなければ、永遠に気づかなかったかも知れない。
――私は、いつも口を半開きにしているんだわ――
 最初はどうして口を半開きにしているのかが分からなかった。確かに口を半開きにしていては、
――締まりのない顔――
 といううことで、誰からもモテないように思える。
 男性からというよりも、女性からの視線にはかなりキツイものがあった。
――まるで親の仇を見るような眼をしているわ――
 と思われることがあった。
 それはクラスメイトの中でも、ほとんど話をしたことのないような人たちからはもちろんのこと、時々話をする人でも、由紀子の顔を見る時、まるで苦虫を噛み潰したような複雑な表情に見えることがある。それはいつもではなく、時々あるのだ。その表情に対しては、
「本当は憎たらしいのだけど、友達のよしみ、あまり露骨に嫌な顔もできないわ」
 という心の声が聞こえてきそうだった。
 由紀子は、そんな女性陣に対しては、心の中では、
「申し訳ない」
 と言いながらも、気持ちの上では、
「どうして、そんなことを思われなければいけない謂れがあるのかしら?」
 と、憎らしいくらいだった。
 しかし、彼女たちの身になって鏡に自分に顔を写すと、
――これじゃあ、仕方がないわ――
 と納得せざるおえないのだった。
 ただ、最近の由紀子はなぜ口を半開きにしているのか分かる気がした。
――口内炎の影響なんだわ――
 鬱状態に陥った時、由紀子は口内炎を患っていた。それこそ、
――泣きっ面にハチ――
 とはまさにこのことで、痛い思いをしながら、精神状態が最悪な状態を迎えているというのだから、たまったものではない。
 だが、考えてみれば、
――口内炎で苦しんでいることで、精神的に鬱状態の気持ちを散らすことができているのかも知れない――
 という思いも浮かんできた。
 確かにその思いも考えようによっては違っているようにも思えない。精神的にキツイ時代を、いかに自分なりに解釈するかというのも考えてみれば難しいものである。
 口内炎ができる時というのは、一か所だけに納まるということは珍しい。一か所が痛み始めると、すぐに違う場所に転移しているようで、本当に辛い時は、五か所も六か所もできてしまって、本当に口を閉じているのが辛いのだ。なぜなら口内炎ができた時、痛みを和らげようとする本能からか、唾液の量が半端ではなかった。確かに唾液が出なければ口の中が張ってしまいそうで、苦しさは半端ではないだろう。しかし、唾液の分泌だけでは口を開けていなければ、歯が当たったりして、さらに痛みを増幅させる。痛みを何とか和らげる一番の方法は、
――口を半開きにして、少しでも空気に充てること――
 が重要だった。
 さらには、水分を欠かさずにいることも必要で、唾液の痛みを和らげることができるからであった。
――それにしても、煩わしいと思っていた口内炎のせいで締まりのない口になってしまった。そのおかげで男性からモテるようになったというのも皮肉なものだわ――
 と感じていた。
 いい悪いは別にして、男性からモテていると思い始めてからの自分の性格が少し不安定になってきた。年齢的に不安定な時期なのでそれは仕方のないことなのかも知れないが、由紀子には一般的なことを考える余裕がその時にはなかったのだ。
 落ち着いてくると、一般的なことを考えるようにもなってきた。
 自分が躁鬱症であることを思い知らされたことで、鬱状態の時には、どうしても余計なことを考えると悪い方にしか考えられなくなるので、必要以上のことを考えないようにしていた。ただでさえ鬱状態の時は、頭の中はフル回転、自分で望んでもいないのに、考えがあっちこっちに飛んでしまい、一定してこない。それが悪い方に悪い方に考えてしまう要因なのかも知れない。
 躁状態の時は、本当ならあまり考えたくないと思っている。躁状態の時であれば、悪いことを考えたとしても、いい方に向いてくるのは分かっているのだが、せっかく楽しいことばかりが思い浮かんでいるのに、それを潰したくないという思いが強い。この後訪れるであろう鬱状態では、嫌でも頭を回転させなければいけないのだ。
 回転させなければどうなるというわけではないが、少なくとも、後悔させられるだろうことは想像していた。何をどのように後悔させられるのか分からないが、分からないだけに自分の予感を無視することができなかった。
 だが、躁状態の時に何も考えていないわけではない。差し障りのないことを考えようと思うようになっていた。それが自分の中に対しての思いではなく、一般的なことと自分とを重ねるという他の人が普通にしていることをするだけのことだった。
――それができるというのは、余裕を気持ちの上で持っていないとできないことなんだわ――
 と感じるようになっていた。
 気持ちの中に余裕がなければ、まず考えることは、
作品名:魂の記憶 作家名:森本晃次