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短編集4(過去作品)

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 それを見ると何となく懐かしく感じる。連れている子供は女の子なのだ。その娘が見上げたその顔に、気がつけば笑みがこぼれているのである。きっとそのことを思い浮かべている私の顔も微笑ましいものだっただろう。
 しかし、イルミネーションがシルエットに変わる頃、家族の姿もシルエットの中に飲み込まれてしまい、はっきり見えなくなってくる。そんな時虚しく感じるのだが、それがなぜかはすぐに分かるわけではなかった。
――なぜだろう?
 そう思うとともに、耳鳴りが聞こえてくる。
――ああ、そうか。音が遮断されているんだ――
 先ほどまで聞こえていたクリスマスソングは、鈴の音だけを残して消えている。鈴の音だけがフェードアウトしそうになりながら残っているのは、意識の中に強く鈴の音が残っているからに違いない。
 家族連れの女性の顔に覚えがあることをいつも感じていた。しかしそれが昌枝だということに気付いたのは、今年が初めてだった。
――そんなにイメージが強かったのかな?
 昌枝のことを思い出しただけで、今まで付き合った女性のことを忘れてしまった気さえしている。
 今までに他の女性を思い出すことがあっても、昌枝のことを忘れることなど、一度もなかった。いや、昌枝が私の中にいたからこそ、他の女性を見ることができたのかも知れない。
 昌枝のイメージといえば、私がシルエットで見る母親なのだ。そしてその横で子供を挟んで一緒に歩いている男性が、この私……。
 恋愛願望はあるが、結婚願望など皆無の私が唯一見る夢なのかも知れない。
 今までに付き合ってきたり、好きだった女性が自分にとって天使なのだろうか、悪魔なのだろうか? ということを考えることがあった。そして最後はいつも、
――以前に感じたことのあるシチュエーション――
 で終わっていて、まるで時が止まったかのように夢で見たことだったかのような遠い記憶の中に消えていく。
 そしてまた思い出そうと目を瞑ると、浮かび上がってくるイルミネーションとともにクリスマスソングがフェードインして聞こえてくる。
 今日はクリスマス。新しい出会いが待っているような気がする。
 最初に店に入った時にまったく感じていなかったのが嘘のようだ。あの時に本当に今思い出したような記憶があったのかどうかすら疑わしく感じられる。今までの出会いや恋愛経験など、そういえば思い出そうとしたことなどなかったはずだったからである。
 思い出せなかった昌枝との出会い、そこに今目の前で繰り広げられているクリスマスイルミネーションがダブって見える。
 店を出てイルミネーションに吸い込まれる自分の姿が目に浮かぶ。
「待っていたのよ」
「待たせてごめんね」
 声を掛けてきたのは子供を連れた昌枝だった。苦笑しながらだが、まんざらでもない笑みを浮かべる私。
「パパ、お仕事お疲れ様」
 そう言って見上げる女の子の頭を優しく撫でる時の二人の笑顔に、イルミネーションに照らされた潤んだ目が光って見える。
 私はその光景を見て吸い寄せられるように表に出た。ゆっくりと近づいていくが、近づくほどにぼやけ始めるイルミネーションに包まれていく三人の姿……。それでも私は近づいていく。
「待っていたのよ」
 その声に振り返ると、そこには昌枝一人が立っていた。声にならない私はただ見つめているだけだったが、さっきまで思い出していた女性たちの記憶が次第に消えていくのを感じていた。スーっと気持ちよく消えていく中で、昌枝の記憶だけは残っているのだが、なぜか初めて会うような気になってしまうのはなぜだろう?
「私を思い出してくれてありがとう。クリスマスの夜、あなたとの出会いは約束されていたの」
 そう話した昌枝に対し、理解できるはずのない話を聞きながら頷いている私は、どうやら中学時代に戻ってしまっているのかも知れない……。

                (  完  )

作品名:短編集4(過去作品) 作家名:森本晃次