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宿命

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 その時までに、自分が考えていたことのほとんどが終わっていないと、必ず焦りに繋がってくるはずだ。それは、夏休みなどの長期休暇の時に身に沁みて感じていたはずだ。特に俊三は、半分も過ぎる頃になると、先が見えてきていたからだ。ただ、なかなかギリギリになるまで自覚することのない俊三だったので、最後になって慌てて宿題に取りかかるのは、他の子供たちと同じだった。しかし、考え方には違いがあり、長期休暇があったとしても、本当に楽しいと思っているのは、前半だけだった。
 俊三は、佳苗との三日という時間に、子供の頃の夏休みを重ね合わせた結果、考えが堂々巡りを繰り返し、先に進まないことに業を煮やしていたのだった。
「明日には帰っちゃうのよね」
 二日目の最後に、佳苗が呟いた。まるで俊三の心の奥を覗いたかのように思える言葉だった。
 それまでに、佳苗も俊三も、お互いの話をほとんどしなかった。俊三は、その時の佳苗の心境を、
――同じだ――
 と感じていた。
 俊三が入りこんだ晃少年は、先がないと思っていた。俊三だから、不治の病でも、助かるんだと思っているし、このまま生き直している自分が、少なくとも四十歳になるまでに死ぬことはないと思っている。そのことは、神父が約束してくれたではないか。もっとも、それは生き直すことに対しての、俊三の望みでもあった。
「同じ年齢に達して、生き直してよかったかどうか感じてみたい」
 と言えば、
「よかろう」
 という返事だったのだ。
 そして、神父が言うには、
「あなたのように生き直すという選択をする人は、基本的には自分が生き直したいと思ったところまでは生きることができるようになっている。その時に、一体何を思うかということだね」
 そう言って、不敵な笑みを浮かべた。
 その笑みは、まるで断末魔の笑みに感じられた。恐ろしさに背筋も凍るとはまさしくこのことだった。だが、それでも生き直すことを選択してしまった俊三は、もう後戻りすることはできないのだった。
――俺には何も残っていなかったんだ――
 失うものは何もないと思っていないと、生き直すなど、とってもではないが、思いついたとしても、選択できるはずのない夢物語ではないだろうか?
 晃少年が死なないと思っているのは、この時代では俊三、つまりは晃少年だけだった。晃少年の身体を借りて生き直しているのだから、晃少年も、きっと誰かの身体で生き直しているに違いない。
――晃少年は、子供ながらに、自分の命が短いことを知っていたのだろうか?
 もちろん、まわりが教えるわけはない。それでも知っていたのだとすれば、よほど勘が鋭いのか、それとも、究極の不安から、秘めたる力が引き出されたのだろうか。
 部屋にあった医学書と、その中にあるボロボロになった部分を見ればよく分かる。しかし、その医学書を与えた人がいる。それはやはり執事なのだろう。晃少年にとって執事は親以上の存在であり、ある意味、自分にとって生存できる上での、絶対的な存在なのかも知れない。
 だが、俊三には、もう一つの不安が根づいていることに気が付いた。神父は、晃少年の命が、今まで生きてきた俊三の年齢までは保証してくれると言ったが、それ以上の年齢までは何も言わなかった。
――ということは、俺の命は、晃少年が俺が晃少年に乗り移った時で終わってしまう可能性が高いのではないか?
 と感じることだった。
 人間は、いつどこでどうなるか分からない。ひょっとすると、明日には交通事故で死ぬかも知れない。逆に、百歳近くまで生きるかも知れない。一寸先は分からない。それが人間だと思っているから、
――どこまで生きる?
 ということを、敢えて考えないようにしている。
 しかし、寿命が決まってしまっていればどうだろう?
 それが半年であれば、絶望で気が狂いそうになるかも知れない。だが、晃少年はさほど慌てているようには思えない。神様は誰かの寿命を短くしなければならないことが決まっているとすれば、その人を選ぶ時、晃少年のように、死に対して何も感じないような性格の人間を選んでいるのだろうか? もし、そうだとすれば、神様ほど罪作りなものはない。もっとも、神様というのが一人ではなく、この世に人間を作った神様と、寿命についての責任のある神様が別人だというのであれば、罪作りではないのだろうが、人間社会だけではなく、神の世界にも理不尽なことが存在するのだと思えば、やりきれない気持ちになってきた。
――いや、神の世界だからこそ、余計に理不尽なことが多いのかも知れない――
 神の世界が理不尽なことを引き受けてくれていなかったら、この世での理不尽さは大変なことになり、世の中の存在自体を揺るがすものになっていたかも知れないとも考えられるからだ。
 いくら四十歳まで生きられるのが分かっているとしても、その先がないのが分かってしまうと、これからの人生をどう生きていいのか、急に分からなくなるのではないだろうか?
――人生の先が分かっていないから、人は頑張れるというものだ――
 この考えは、実は本の受け売りだったが、それ以前から意識していたような気がする。
 俊三は本を読みながら、
――こんなことは、前から分かっているさ――
 と考えることが多く、読書が好きなくせに、急に本を読むのがバカバカしくなって、プッツリと本を読まなくなることがある。しばらくするとまた読み始めることになるのだが、読書に関しても、頭の中と行動がそれぞれに堂々巡りを繰り返すことになるというのも、皮肉なことだと思っていた。
 また、俊三は超能力というものに対しても、
――ひょっとすると、神が人間の力の領域にまで入りこんでいるのかも知れない――
 と、感じるようになっていた。
 人間には、超能力というのを使いこなせる人がいる。使いこなせるのは特定の人に限られているのだろうが、力を持っているのは特定の人だけではない。誰もが持っているものだという。
 表に見える力は、人間の持っている数パーセントのもので、残りは使いきれていないだけのものだというではないか。俊三はその話を信じている。そして、どうしてその力を使いこなせないのかということを、
――特別な力を持っているのを意識できたとしても、それは半信半疑の元でしか意識できない。そんな状態で、発揮できるほど、超能力というのは甘いものではない――
 と感じている。
 そして、それを裏付ける考えとして、
――超能力を使いこなすには、制御する力も備わっていないといけない――
 ということを、無意識に感じているからだと思っている。超能力がその人にとって「諸刃の剣」であることを誰もが本能として感じているのではないかと思っていた。
 そんな考えが、一般の人から見ると異端に感じられ、精神異常に思われるのではないかと考えるようになった。精神異常というレッテルを貼られた人は、ひょっとすると、
――他の人にはない卓越した能力を発揮できる、あるいは、すでに発揮している人なのかも知れない――
 と、感じるようになっていた。
作品名:宿命 作家名:森本晃次