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短編集3(過去作品)

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 哲はゆっくりと歩き始める。しかしそこに名にかしら自分の意志とは別のものが働いているような気がして仕方がない。それに突き動かされている。もう一人は何かに怯える人格である。総思った瞬間、店内にいる三人の人たちが一斉にこちらを向き、笑っている。それは笑顔ではない。悪魔のような嫌らしさと恐怖を感じさせる笑顔である。そして律子さんの顔が次第にしおりに変わっていくのが見えたが、その手に握られているのがノートであることに気付くと、私は思わず駆け出していた。
 今考えているのは大学生の哲ではない。彼は死んでしまったのだ。走ってくる車に飛び出したのでは、ひとたまりもない。

 あのノート……。そうだ、あれは大学時代のことだった。ある女性と親友が付き合っているのも知らずに、私はその女性を好きになった。いつもであれば、好きな人に付き合っている人がいれば、しかもそれが親友ということであれば、なおさら諦める気持ちになるのだが、その女性にだけは違っていた。どうしても自分のものにしたい。そんな露骨な思いが頭を巡る。
 そんな時折りしも鬱状態に見舞われた私に悪魔が住みついたのだ。可愛さ余って憎さ百倍、二人がノートのやりとりをしていることを知った私は悪魔にささやかれ、パンドラの箱に手を出した。その内容までは覚えていないが、そのせいで彼女は自殺、友人もその後不幸な死に見舞われ、私にもそれがトラウマとなって残ってしまった。死ぬまで忘れることはないと思っていたことだ。
 そこまで思い出すと、今までノートのことが引っ掛かっていたために見た夢のことを少しずつ思い出すことができた。どこまでが夢でどこからが現実かある程度分かってきた。思い出すことができなかった夢がそのまま引っ掛かり、現実と交差したために起こった鬱状態。夢のことを思い出した渡しが、もう鬱状態で悩まされることはないだろう……。
 あの時の二人が私を待っている。かつてのわだかまりをステ、私のことを迎え入れ様としてくれている。だが、あの二人が三十五歳となった今の私を受け入れてくれるだろうか、それだけが気になっていた。
 意識が薄れていく。だが、今度こそ本当に夢ではないのかも知れない……。


                (  完  )

作品名:短編集3(過去作品) 作家名:森本晃次