小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

【真説】天国と地獄

INDEX|12ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

「天国と地獄というのは誰も見たことがないので、イメージでしかありません。それも、絵画や小説で描かれたイメージを想像しているんでしょうが、前後に何か想像を助ける材料があれば、いろいろな発想も生まれてくると思うんですが、そうではない。つまり、想像できる範囲は限りなく狭いということなんでしょうね」
 というのが、三雲の発想だった。
「三雲さんは編集者というよりも作家に向いているのかも知れませんよ。僕もまったく同じ意見なのですが、この発想は、作家ならではのものだと僕は思っていました。三雲さんには、僕たちと同じ感性があるんでしょうね。だから、僕も三雲さん相手なら、遠慮なくいろいろ話を聞くことができる」
 と高山が言うと、三雲はニコニコとした笑顔を浮かべた。
「それはありがとうございます。でもきっと担当させていただいた先生方のおかげなのかも知れませんね。先生方は発想のとっかかりと考えられる。編集者は出来上がったものに対して売れるかどうか、売れるにはどのような演出をすればいいのかを考える。作家の気持ちに入り込まなければできないこともありますよね」
「なるほど、そこで発想が飛躍することもあるというわけですね」
「飛躍することはあっても、変に発想が変わるということはありません。やはり、最初の発想が素晴らしいから、こちらも発想の幅を広げることができるんですよ」
「そうですね。だから、会話も弾むというものですよね」
「その通りです。ここでの会話が次作のヒントにでもなってくれれば、私どもにとって至福の悦びなんですよ」
「ところで、今回の夢の話の続きは?」
「ああ、そこなんですが、今回は宗教的な話が出てきたんですよ」
「どちらかが、宗教団体に所属しているとかですか?」
「それは分からなかったんですが、女性の話として、今いる世界を否定することで、もう一つの世界が広がっているというんです。その世界は自分たちの行こうとしている天国と地獄の世界とは隣り合わせの世界で、それが宗教的な天国と地獄だっていう発想だったんです」
「ほう、それは面白い発想ですね」
「でも、その夢はそこまでしか覚えていないんですが、それはそれ以降を見ていたのに覚えていないだけなのか、それとも、本当に見ていないのか、自分でも分からないんです」
「どうしてですか?」
「夢を見ながら、私は自分のことを考えてしまい、自分の中の宗教観が浮かんできたようなんですよ。そのため、どこかで夢の世界から逸脱してしまったんでしょうね。気が付いたら、目が覚めていました」
「それは自分も感じたことがあります。夢というのは見ている自分が客観的に位置していて、まるで映画館でスクリーンを見ているように展開されるものだというイメージを持っていました。だから、急にスクリーンを見ていて、自分の世界を想像してしまったことで、我に返ってしまったと感じたことも何度かあった気がします」
「三雲さんは、自分が見た夢を覚えているのはどんな時ですか?」
「ハッキリ決まった法則のようなものはないような気がしていますが、一つ言えることは、続きを思わせるような夢を見た時は、覚えていないものなんだろうなって感じることですね」
「それは私もありますね。夢の続きを見たという話は聞いたことはないし、実際に自分でも見たことがないので、子供の頃は夢の続きは見ることができないのだって思っていました。でも、逆の発想で、続きは見ていたとしても、目が覚めると覚えていないだけだという発想も成り立つと、最近は感じるようになりました。正確に言うと、童話を書くようになってからではなかったかと思うんです」
「そう感じるようになったから、童話が書けるようになったのかも知れませんよ」
「そうかも知れません。その時期というのは曖昧で、自分でもそれは分かっていると思っていましたからね」
「天国と地獄の話に宗教の発想というのは、切っても切り離せない発想だとは思うんですが、どうなんでしょうね。そもそも天国と地獄という世界の発想は、宗教から生まれたものではないんでしょうか?」
「その通りだと思います。でも宗教というのは、多種多様。元々は限られた発想からいろいろ派生する発想から、宗派が生まれてきたんでしょうが、天国と地獄の発想は、どんな宗教でも、さほど変わらない気がします」
「ええ、宗教の発想というのは、この世が乱れてきたことで、死んだあと、天国に行けるようにするために、現世をいかに生きるかという発想から発展したものですからね」
「宗教というのは、どうしても世間の人から敬遠されることが多いので、死後の世界を語るのも、タブーになっていることが多いようですね」
 と高山が言うと、
「僕は今綿貫先生についているんですが、綿貫先生も、宗教かかったような作品を書かれることもあるんですよ。あまり発想が偏ると、問題があるので、そのあたりはチェックしながら担当しているんですが、この間、高山先生と天国と地獄の話をした時、綿貫先生の作品が頭をよぎったりしましたよ。綿貫先生の作品の中にも、天国と地獄の間には何か別の世界が存在しているような内容の話を書かれていた気がします。ただ、その話がメインではなく、話の中でちょっとだけ出てきたことなので、普通に読んでいれば、スルーしかねないところですね。綿貫先生の作品には、そういうところがあるんです。見逃してしまいそうなところに、グサッと突き刺さる何かがあるのではないかとですね。だから、何かよく分からないけど、読み終わった後に、ゾクッとしたものが残っているんですよ」
 と、三雲が話した。
「僕も、そんな作品を書いてみたいといつも思っているんですよ。読み終わっても余韻が残っているような作品ですね。童話には、そういう作品は少ないですよね」
「どうしてそう思うんですか?」
「読み終わっても余韻が残っているような作品というのは、作品の中に一本の筋があって、必ず、その筋に逆らうアンチな発想がなければいけないと思うんです。しかも、その筋を読者に意図として悟られないようにしなければいけない。だから、一本の筋は、本当に太いものではないといけないということの裏付けでもあるんですよ。童話は、基本的に読者は児童なので、そんな高等なテクニックを用いることはできない。だから童話の世界でこのことを実現するのは難しいですよ」
「高山先生が、天国と地獄の話を書きたいと思ったのは、そのあたりにも原因があるんでしょうか?」
「ええ、童話というのは、子供たちに夢を与えるもので、書いていてやりがいを感じさせるものだと思っているので、それはそれで素晴らしいことだと思っていましたが、自分の中でどこか納得のいかないところがあったんです。自己満足できないんですね。僕の中では、『自分が納得できないものを、他人に納得してもらおうというのは、虫が良すぎる』と感じているんですよ。だから、童話以外の作品、自分が書きたい作品にチャレンジしてみたいと思うようになった。それが、この間から夢に見ている天国と地獄の話なんですね」
「高山先生は、今回見た天国と地獄の夢は、以前に見た天国と地獄の夢の続きだとお考えですか?」
「ハッキリとは分かりませんが、イメージとして続きではないような気がします」
作品名:【真説】天国と地獄 作家名:森本晃次