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短編集2(過去作品)

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 ゆかは真剣にびっくりしているようである。しかし私にはゆかの返事が想像できたため、あまり態度を変えない私に対し逆に彼女が驚いているのかも知れない。
 この宿に入って二日、今までのことが音を立てて自分の記憶から崩れ落ちるような気がした。
 結局その日私は、三原教授を尋ねてみる気にはなれなかった。


 私はそれから予定の二十日間を執筆活動に当てた。この旅館での二日間のことは目を瞑って思い出せるものではなかったが、ドキュメントとしては記憶に鮮明に残っている。その内容に二日目に行った街のことを交え私なりにアレンジし書きまくった。そこにはあの時展望台の男が読んでいた本の内容が自然に織り込まれていたが、この二日間の不思議な出来事は私の執筆意欲を掻き立てるに十分すぎるものだったのだ。
 私が執筆に専念していたからであろうか、三原教授の姿を結局一度も見ることなく終わってしまい、何度か後ろ姿を見るにとどまってしまった。しかしそれは私の知っている三原教授とはかけ離れていて何よりも年齢的に若く見えるのが不思議だった。どう見ても二十代前半にしか見えなかったのだ。
 私はその後ろ姿にいつか神社裏の展望台から見た男をイメージしていた。どう見てもあの男だと思ってしまった時から、私には三原教授と展望台の男がシンクロしてしまい、記憶の中から三原教授の顔が消えて行く気がしてきたのである。
 二十日間で書き上げ、原稿を編集部へと持って行った。担当記者は最初私があまりに短期間で書き上げて来たことに驚いていたが、読んで行くうちにまるで苦虫を噛み潰すような不快な表情になった。
「そうしたんですか?」
 すると担当記者は手元にあった今月の月刊誌を取り出し、私が前回発表した読み切りの作品を指差した。私はそれが何を意味するものかその時点で分からないことに担当記者は戸惑っていたようだ。
 しかし私はそれを読み込んで行くうちに次第に顔色が変るのを感じた。何とその内容は今日私が満ち込んだ話と同じ内容だったからである。そして驚いたことに私が発表した小説では、私が同じ内容の小説を持ち込むことが予言されていたのである……。


                (  完  )

作品名:短編集2(過去作品) 作家名:森本晃次