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 何かがあったというわけではない。漠然とそう感じるだけなのだが、感じるということは、その瞬間にちょうど十年前のことを思い出してはいるのだが、一度記憶を跳ね返らせると、もう一度思い出した記憶を引っ張り出すのは無理なことだった。だから、意識の中で、
――漠然として――
 としか感じさせないのだった。
 画面をじっと見ていたつもりだったが、気が付けば眠ってしまっていたようだ。番組はすでに変わっていて、時計を見れば、起きる時間が近づいていた。
 いや、目が覚めるにしたがって意識がハッキリしてくると、今日という日が休みであることを思い出した。
――このまま寝ていても問題ない――
 と思うと安心してきた。
 それにしても、いつの間にか寝ていたということは、さっきのテレビの画面は夢だったのかも知れないと思うようになっていた。
 そのことを考えていると、以前に感じたことを思い出した。
――夢を見ているという夢を見たことがあった――
 その日も目が覚めるにしたがって意識がハッキリしてきていると思っているが、その日が休みだということでホッとしてしまい、完全に目を覚ますことができなくなっている。まるで夢の中にいるような感覚だが、このまま眠ってしまうことが、今度は怖くなってきた。
――あの時も感じたことだったけど、このまま目が覚めないなんてことはないわよね――
 確かに以前、夢を見ているという夢を見ていた時、
――ひょっとして、このまま目が覚めなかったらどうしよう――
 と感じたのを思い出した。
 あの時は、夢の中で何かを思い出そうとしていた気がする。夢の中でなければ思い出せないことだから、自分の中で無意識に、
――夢から覚めたくない――
 という思いがその時はあった。
 だが、思い出したいことをその時、夢の中で思い出したのだ。思い出してしまえば、そのまま目が覚めてくれると思っていたのに、一向に目を覚ます気配がなかった。そのことが今度は、
――このまま目が覚めないなんてことはないだろうか?
 という恐怖を感じさせ、その時初めて、
――夢を見ているという夢を見ているのではないだろうか?
 と感じたのだ。
 ということは、今回同じ感覚であるということは、何か夢の中で思い出したいことがあり、それを一度思い出したことで、このまま夢から覚めないかも知れないという恐怖がよみがえってきたのではないかと感じた。
 しかし、夢の中でしか思い出せないという思いを感じたわけではなかった。ただ、漠然と、
――夢を見ているという夢を見ているんだ――
 と感じただけだった。
 何か肝心なことが抜け落ちている。それが何なのか分からなかったが、ゆっくり思い出してくると、テレビの画面を見ていた自分が頭の中によみがえってきた。
 確かに画面の中で、今まで見たことがあるような光景を思い出したような気がしたのだ。それが短大時代に見た絵の光景だというところに落ち着くまでに、少し時間が掛かった。そのおかげで目が覚めることができるような気がした。
 だが、目が覚めてしまうと、せっかく意識したことが今度は忘れてしまうように思えて複雑な心境だった。
――思い出したということは、何か意味があることではなかったのだろうか?
 と思うと、このまま夢から覚めてしまってもいいのかが気になっていた。
 しかし、本当に何か意味のあることなら、目が覚めて忘れてしまっても、近い将来、もう一度思い出す機会が訪れる気がした。そして、そのことを思い出した時、一緒に今日のことも思い出せそうな気もしている。その時こそ、今日見た夢が何のためだったのかということも、分かるのではないかと思うのだ。
 もちろん、そこに何か意味があるのであればの話であるが、楓にはどうしても、この夢が意味のないことだったとは思えなかった。やはり、夢を見ているという夢には、どこか続きがあるように思えてならないからだった。
 その思いが実現するまでに、どれだけの時間が必要なのか、その時々で違いはあるのだろうが、それは夢の長さに比例しているのではないかと思っている、同じ夢を見るのでも、長い夢を見ているとすれば、それだけ少し時間も掛かるのだろう。
 夢というのが、自分にその意味を感じさせるまでの準備だとすれば、夢の長さが比例するというのも、決して無理な考えではないような気がしていたのだ。
 楓は、次の日が休みだということで、油断したのだろうか、朝から体調が悪かった。一人暮らしを初めて、何が一番辛いかというと、体調が悪い時に寂しさを感じてしまうと、普段よりも不安感が一気に増してきて、まるで鬱状態に陥ってしまったかのようになってしまう。
 テレビを見ていても、画面に集中できない。普段なら、目は画面を向いていても、番組に集中していない時があったとしても、考え事をしているだけだと思うことで、別に気にすることではないのに、体調が悪い時、画面に集中できないと、その日は何をやってもうまくいかないような気がして仕方がない。
 体調が悪いのだから、寝ていればいいのだが、じっと寝ていると、却って身体が固まってしまうことで、膠着した状態が続き、痙攣を起こしてしまいそうになる。寝返りを打っても、治るものでもなく、
――薬を飲んで、眠ってしまうしかないのかも知れない――
 と感じるのだった。
――とにかく眠ってしまいたい――
 と思えば思うほど、なかなか眠れないものなのだが、気が付けば眠りに就いていることもあるので、薬を飲んだら大人しくしているしかなかった。その日は、うまいこと薬を飲んでしばらくすると睡魔が襲ってきた。
――今なら、眠ってしまえそうだ――
 と、感じていると、さっきまでの気分の悪さがウソのように、心地よさから、眠りに就いていたようだ。
 やはり夢を見ていた。その日は、夢の中でも頭痛がしていたようだ。頭痛がする中で、自分は何かを探しているのを感じた。彷徨っているというのが一番適切な表現なのかも知れない。
 家の近くを歩いていて、角を曲がればマンションが見えてくると思って曲がってみると、さっきまで歩いていた道に、またしても出てきてしまった。そして、前を見ると、さっき自分が曲がったその場所を今にも曲がろうとしている人が見えた。
――私だ――
 思わず、声が出そうになるのを必死に抑えたが、もし抑えなくても、自分では声を出したつもりでいても、前の角を曲がろうとしている女性に聞こえるはずはなかった。
 それなのに、彼女はこちらを振り向いた。しかし、見えていないのか、すぐに踵を返すと、そのまま角を曲がり、姿が消えた。
――そういえば――
 今、思えばさっき角を曲がろうとした時、何かに気が付いたような気がしたのを思い出した。それは、まるで今目の前の自分が気が付いたことで思い出したかのようだった。そんなことがありうるのだろうか?
 それこそ夢の世界のようである。夢の中であれば、自分の潜在意識の世界、後から思いついたことが、最初から感じていたように思うことなど、不思議でも何でもないことである。
作品名:リセット 作家名:森本晃次