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「女の人の性格として、ギリギリまで我慢するけど、我慢ができなくなると、後は相手が何と言おうとも腹は決まっているので、どうすることもできなくなるのよね。私も同じ女性として、因果なものだって思うわ」
 楓がスッキリとしない別れ方をしてからしばらくして、友達から聞いた話だった。その時は何も言わずに、ただ黙って聞いていたが、彼女の話を自分に置き換えて聞いていると、身に沁みてくるように思えてならなかった。
 確かに楓は彼との付き合いをギリギリまで引き延ばしていたような気がした。
――別れようと思えば、それまでにいくらでも機会はあったような気がする――
 と感じたからで、
――どうして別れようとしなかったのか?
 と考えてみると、やっぱり自分の中にも未練のようなものがあり、少しでも延命しようという気持ちもあったのかも知れない。
 それを未練と言っていいのかは分からないが、自分の中だけで巡らせている考えは、もちろん、他の人と一緒に考えるようなものではないが、堂々巡りを繰り返すだけだった。
 堂々巡りは、すぐには自分の中に結論を与えるものではなく、かといって、何度もめぐるからと言って、新しい考えが生まれてくるわけではない。
――それでは時間の無駄なんじゃないのかしら?
 と思わせるが、本当に時間の無駄なのか、楓にはよく分からなかった。そのことが彼に対して結果的に未練を残す形になってしまったことを、楓は今では後悔している。
――やはり、これって女性だからこんな考えになったのかしら?
 と思ったが、それだけで解決できるほど、恋愛問題は簡単なものではないだろう。
 ただ、さすがに失恋で自ら命を断つということは、楓にとって信じられるものではなかった。
「卒業間近なのに、自ら命を断つというのが私にはよく分からないんだけど、どんな心境だったのかしらね?」
 高校時代まで、必死に我慢を重ねて短大に入った。それまでの我慢が報われたような気がしたのも事実だったが、
――人生が変わった――
 という思いが一番強かった。
 自分が我慢できたのに、我慢できない人がいたと思うと複雑な気分になっていた。楓は実際に我慢強い方ではない。それなのに、彼と別れる時も、ギリギリまで我慢したのも事実だし、実際に高校時代も我慢を重ねてきた。
――我慢できることと、我慢しなければいけないこと、そして、どこが我慢のしどころなのか、自覚できているところがあるのかも知れない――
 と感じていると思えてきた。
 ミチルが我慢できなかった理由がどこにあるのか分からないが、本当は死にたくなかったのに、衝動で死んでしまったということも考えられる。だから、彼女がどんな心境だったのか知りたいと口から出てきたのだった。
「実は私、どうして死んだのか、自分でも分からないの。成仏できずにこの世を彷徨っているというのも、自分で心当たりがあるわけでもない。確かに彼のことが好きだったんだけど、死にたいと思うほど、失恋が苦しかったわけでもないのよ。時間が経つにつれて、痛手が少しずつ癒されていたのも分かっていたのに、どうして私は死ななければいけなかったのかしら?」
 成仏できずにこの世を彷徨っている人の中には、自分がどうして死んだのか分からない人もいるのではないかと思えた。理由が分からないから、この世に未練がある。そう思うと、死んでも死に切れないという思いに駆られるのも無理もないことなのであろう。
――本当にこの世に未練を残して、そのまま現世を彷徨っている人と、訳が分からずに死んでしまい、そのままこの世を彷徨っている人とどちらが多いのだろう?
 未練が残っている人のほとんどは、自殺や殺された人が多いのだろうと思う。しかし、訳が分からずにこの世を彷徨っている人は、自殺や殺されたというよりも、不慮の事故で死んだ人間と思う方が自然ではないだろうか。死ぬ意味がまったくないのに、急な事故に遭って、人生をいきなり終わらせられてしまう。ある意味で一番未練が残るのは、不慮の事故により死んでしまった人なのかも知れない。
「ミチルちゃん、あなた本当に失恋の痛手で自殺したの?」
 と聞いてみると、さっきまでの落ち着いた雰囲気に少し焦りが見られた。幽霊というのは、こちらが怖がって怯えているから、相手が見えているようで見えていないが、冷静になってみると、幽霊の方も人間に対して怯えを感じているように思えてきた。
 考えてみれば、相手も元は同じ人間だったのだ。(幽霊を人間として見ないというの、反則なのかも知れないが)相手は人間というものを分かっているはずなのである。だから幽霊が人間を怖がるのはおかしいと思うのだったが、実際は人間同士ほど、分かり合えないものはなかったのかも知れない。
「私、どうして死のうと思ったのか、正直分からないの。でも、事故で死んだわけではなく、自殺したのだということは確からしいの。私がこの世界を彷徨い始めたのは、自分の葬儀の前で、こちらの世界から自分の葬儀を見ていた時、まわりの人が私の自殺の話をしていたのを聞いたから、間違いないと思うの」
「私の感覚では、自殺した人の葬儀って、いろいろな噂が飛び交っているような気がするの。遺書でもあれば別なんでしょうけど、普通は自殺の原因がどこにあるのか、なかなか分からないものですよね。何しろ、一番知っているはずの本人が死んでしまっているのですからね」
「ええ、生きている人の話を聞いていても、自分が自殺したなんて、理解できない。ましてや、自分が死んだということ自体、理解するのに、かなりの時間が掛かったわ」
「そうかも知れないわね。自分が死んだということ自体を理解するのが一番難しいのかもね」
「算数と同じなのよ。最初に一足す一は二だということをどう思うかで、算数を分かるか分からないかが決まってくるようなものですもんね」
「どういうこと?」
「最初に習うことが本当は一番簡単なことのはずなのに、そこに疑問を持ってしまうと、先に進めないでしょう? たとえば難しいことを理解できずにいて、それを理解しようと思うと、一つ前に習ったことに立ち戻って考え直すこともできる。でも、一番最初でつまずいてしまったら、戻るところがないわけだから、理解するための大きな手段がなくなったわけ。だから、そこで埋めることのできない差が生まれることになるのよね」
 その話を聞いた時、楓は目からウロコが落ちたような気がした。今まで楓も同じように立ち止まると、一歩前に立ち戻って考え直すこともあったので、ミチルの話には同感できるものがあったのだ。
「でも、自殺した理由をあなたは、失恋だと思ったわけでしょう? それは他に思いつく原因がなかったからなの?」
「自殺するとすれば、失恋しかないというのは確かかも知れないわ。よく言われるように、世を儚んでというのとは違うような気がするの。この世が儚むようなものだとは、私には思えない。ましてや、死んだからと言って、そこに何があるというわけではない。私が最初に死んだということを知った時、事故でなければ、心中じゃないのかって思ったくらいだったわ」
「心中なんて、私には分からないわ」
「どうして?」
作品名:リセット 作家名:森本晃次