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短編集1(過去作品)

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 裕美子と最初に空港で出会ってから三ヶ月が過ぎた頃であっただろうか。オフィスの私の電話が鳴った。
「もしもしこちらN警察ですが、吉本さんでしょうか?」
「はい」
「宮崎昭夫さんをご存知ですね?」
「はい、昔からの友人ですが、それが何か?」
「今朝亡くなりました」
「えっ」
 一瞬鳥肌が立つのを覚えた。しかし「突然」という感覚でもない。。
「いろいろと伺いたい事がございまして」
 会社内ではまずいと思い、会社から少し離れた喫茶店で待ち合わせることにしていたが、私が行くとすでに刑事が二人やって来ていた。
 とりあえず話を聞いてみる事にした。
「どういうことなんですか?」
「実は宮崎さんが今朝、M川の河原に流れついたのを、散歩中の老人が発見したんです」
「殺されたんですか?」
「そこまではまだ。そこでとりあえず宮崎さんの知り合いにこうして会いに来ているわけでして……。宮崎さんとはどういうお知り合いですか?」
「小学校の頃からの友人です。学生の頃までちょくちょくお互い都合のついた時の会ったりもしていましたが」
 私と宮崎とは昔からの知り合いではあったが、親友というわけではない。どちらかというと私の行くところには必ず奴が現れるといった不思議な仲で、最近はくされ縁という気がしないではない。
 性格的に譲れない線があったのも事実だし、宮崎としてもそうだったろう。しかし友達の中に一人は必ずいるタイプで、ただそれが小学校の頃から続いているといだけである。
 時々、気持ち悪くなることもあった。彼とは偶然バッタリというのが頻繁にあったからだ。
 あの時がそうだった……。
 裕美子との再会後、初めて彼女と待ち合わせた時だ。彼の会社とはだいぶ離れていたし、頭の中に彼の存在が皆無に近い状態だったので、バッタリと出くわした時は本当に驚いた。営業で近くまで来る時もあると言っていたが、彼も偶然に驚いていたようだ。
 宮崎は一目見て彼女が裕美子だと分かったようである。
 宮崎は上機嫌だ。しかし私はともかく、裕美子は最初こそ感動があったようだが、喜んでいるようには見えない。懐かしいというかんじでもないのだ。
 その日、裕美子は私が買った赤いコートを着ていた。その赤いコートを着た裕美子を、宮崎は穴が空くほど見つめたのである。裕美子でなくとも気持ち悪がるはずだ。
 しかし、その日の宮崎とはそれ以上のことはなく、すぐに別れた。仕事が忙しいと言っていたが、どうだか。ただ裕美子に今どうしているかということを聞くだけ聞いて、満足したかのように仕事に戻って行く。
 裕美子も断る理由がないので、大学病院のことを話していた。
「私、あの人どうも好きになれない。何を考えているか分からないところがありそうで」
 同感だった。しかしそれよりも自然とその口から他人の悪口が出てくる裕美子が、私には信じられなかった。小学校時代天使だった裕美子にそんなことはなく、逆にその人の長所ばかりを強調するタイプだった。
 ここ十数年の私もいろいろな事があった。もちろん裕美子にもあったはずで、時が人を変えても不思議はないのだ。いじめられっ子であってもそれなりに意地はある。人に負けたくないという気もある。小学校時代のようにどれで負けたくないか分からなかった頃と違い、中学に入ると勉学に目覚めたのだ。勉強では負けたくないという思いから、成績はグングンうなぎ上り。今までのいじめっ子からも一目置かれ、名実ともにエリートコースを歩むようになった。後悔などあろうはずはないが、時々思うのだ。もっと別の人生もあったのではないかと……。
 裕美子はどうだったのだろう。
 最近、裕美子は決して昔の話をしようとはしない。というよりもまるで最近知り合った恋人同士と言う事以外、裕美子の頭にはないのではないだろうか? もちろん私も敢えて昔の話をしようとも思わないが、今の裕美子を見ていると小学校時代のイメージが次第に薄れていくような複雑な心境である。
 私にとって宮崎はくされ縁で「譲れない線」の存在も否定できないが、なぜか通じるものがあった。性格的に似たところがあるというか、何となくではあるが宮崎の言動が、行動パターンが手に取るように分かる時があった。それゆえに嫌いなところもあったが、それでもあった交流が「くされ縁」というべきか。しかし裏を返せば、奴にも私の気持ちが手に取るように分かっていたのかも知れない。そういう意味で少し気持ち悪い。
 裕美子にとっての宮崎というのはどんな存在だったのだろう。あまり話をしているところを見た事がない。逆に宮崎の方が何となく避けていたように見えた。裕美子は自分が気になる相手以外はあまり相手にするタイプではなく、宮崎とそれほど親しかったはずもない。
「宮崎さん、かなり生活が苦しかったようですね」
 刑事の話によると、生前の彼はギャンブル好きで、給料はすべてギャンブルに飛んでいたそうだ。いくつかの消費者金融からも金を借りていて首が回らない状態だったようだ。
 学生時代の宮崎も確かにギャンブルが好きだった。しかし借金を抱えてまでするタイプではなかったのだがどうしたことだろう。思うに今の仲間内にそういう連中がいたのではないだろうか。宮崎は昔から人に左右されやすく、すぐにのめり込んでしまうタイプだったのだ。良く言えばお人好しで、悪く言えば優柔不断といったところである。
「今はそちらの金銭的なトラブルから見ているんですが、念のために友人にもこうして当たっているだけです」
「いえ、別に卒業後あまり会っていませんからね」
「そうですか。いや、ご協力ありがとうございました」
 そういって二人の刑事は帰って行った。時間にして十分ほどだったであろうか。相手が刑事ということもあり、それがまるで三十分ほどに感じたが、やはり金銭的なトラブル中心に捜査しているというのは本当だろう。サラリと話を聞いただけで帰って行った。しかしさすがに刑事、「またお聞きすることがあるかも知れません」と最後にしっかり釘を刺して行った。
 その日の夕方のことだった、裕美子から会社に電話があったのは。お互い会社にはなるべく電話しないよう約束していたが、昼間のこともあったので内容についてはおおよそ想像がついた。最初の一言で思った通りの内容であることは分かったが、刑事が彼女のところまで尋ねていくとはさすが日本の警察だ。
 私は宮崎が時々裕美子に連絡を取っていたことは知っていた。しかし私がそれを知っていることを裕美子は知らないはずである。だから警察が来た事が不安になって掛けてきたのだ。
 どういうことで宮崎が裕美子に近づいたか知らないわけでもない。その事について私も驚いているくらいである。しかし、それは色恋沙汰ではなく、もっと現実的な事であることも……。
 その日の夜、二人は会った。
 再会してからの二人は、それからも定期的に会っていた。曜日を決め、いつも同じ場所で。だからいつも待ち合わせの約束をすることもなく、駄目な日だけ連絡を取ればいいようにしていた。しかし今日は違う。いつも会う約束の金曜日ではなく火曜日なのだ。
作品名:短編集1(過去作品) 作家名:森本晃次