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表裏の真実

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 逆にお母さんではどうにもならないようなことでも、おばあちゃんなら解決してくれそうだった。
「そんな簡単なこと」
 とニコニコしながら、解決してくれそうに思えたのだ。
 だから、最初に相談するのは、母親でなければいけないはずだった。
 それなのに、最初におばあちゃんに相談してしまって、
「おばあちゃんは、そんな難しいことは分からないわよ」
 と言って、ごまかされる。
 お母さんに気を遣っているのか、そんなおばあちゃんの姿は見たくなかった。おばあちゃんはいつも毅然としていなければいけないと思うのは、由梨のわがままだろうか。
 だが、孫とおばあちゃんとの関係というのは、そういうものではないだろうか。
 そう思っていると、おばあちゃんの顔が少し思い出されてきた。それでも、まだシルエットに浮かんでいるだけで、それはきっと子供の頃に見たおばあちゃんの印象が目に焼きついていて、そこから年を取ることもなく、永遠に自分も子供の頃から成長していないイメージでしか、顔が浮かんでこないからだ。
――成長した私を見てほしかったな――
 という思いが胸の中に去来する。
 過去のことを思い出すというのは、昔のことを単純に思い出すだけではなく、それがどれほど自分の中のウエイトを占めているかということも一緒に考えなければいけない。その前後関係で、、
――どちらの話が先だったんだろう?
 と、細かい時系列が曖昧になってしまっては、せっかくの記憶が誤ったものになってしまいかねないからだ。
 由梨は、二年前のことを思い出していた。
 二年前といえば、つい最近のことである。
――付き合っていた松山との記憶は、決して色褪せることもなく、永遠に光り輝いているものだ――
 などと、今から考えれば夢物語のようなことを言っているが、実際には記憶しておこうとすればするほど、忘れていくもののようで、それが口惜しいと思っている由梨だった。
――あの人のことを忘れていくなんて――
 由梨は、自分の中であれだけ大きな存在になっていた人が消えていくのを悲しく感じていた。
 元々、彼への思いは一目惚れというわけでもなかった。
 好きになったのは相手の方。由梨とすれば、好きになられたので好きになったのだが、いつのまにか、なくてはならない存在になっていた。
――本当は、最初から好きだったんじゃないのかしら?
 と思わせるほどで、自分の気持ちを人に気づかされるということが、意外と心地よいと思うようになったのも、この時が初めてだった。
 彼の死は、あまりにも突然で、あっという間の出来事で通り過ぎていった。世間でもそれほど騒がれることもなく、一応、七日辻の電柱のところに張り紙がしてあって、事故の日時に、轢き逃げの情報提供を呼びかけるものだったが、あまりにも情報が少なすぎて、誰も名乗り出る人もいなかった。
 彼は、町役場に勤めていたのだが、この交通事故に対しての役場の反応は冷たいものだった。
 葬儀にも数名しか参加せず、花を贈る程度で許されると思っているのかと思うほど、冷たいものだった。
 元々彼は、役所の中でもどこか浮いている存在だったという。
 目立つわけではなかったのだが、彼のことを目障りのように思っている人も少なくなかった。
「出るくいは打たれる」
 というが、彼は事務所の改革を進めていた。
 仕事も効率化や財政を抑える試みをいろいろ考えていたようだが、相手はしょせんお役所、自分さえよければいいと思っている人も多かったようだ。
 彼は、最後まで役所勤めをしていたわけではない。
 最後には、役所から、地元の鉄道会社へ出向のような形で行かされてることが決まっていた。もちろん、何年かだけの約束だということだが、
「そんなの、当てになんかなるものか」
 と、最後は自虐的にもなっていた。
 それまでの役所仕事からいきなりの鉄道会社への出向では、戸惑ってしまうのは無理もないことだった。
 その鉄道会社というのもひどい会社で、元々はJRだったのだが、赤字路線ということで、廃線寸前まで行ったのだが、地元の出資があって、第三セクターとして生き残ったのだ。
 そのくせ会社は、いまだにJR気分でいるから始末が悪い。お金もないので、なかなか老朽化した部分の補強もままならず、しょっちゅう、故障を起こしては、列車遅延の憂き目にあっていた。
 それなのに、駅員は乗客に対して口では、
「申し訳ありません」
 と言っているが、到底本心から言っているようには思えない。
 もっともそれは、JRの国鉄時代からの体質で、国鉄時代は公務員だったので、対応も役所対応として、乗客の反感を買っていたが、JRになってからは、もっとひどくなった。
 ここから先は、人に聞いた話なのだが……。
 何しろ、JRは民間で、営利企業なので、利益を追求するようになった。それなりにサービスも充実させてきたつもりなのだろうが、最近ではそのサービスもままならず、どんどん廃止になっている。
 しかし、いざ事故が起こると、その対応は旧態依然とした「お役所対応」となんら変わりない。
 人身事故が起こった時など、駅員が、
「人身事故だからしょうがないですよね」
 と言って、へらへら笑っているのを見たことがあった。
 そんな光景を見せられると、駅員は完全に他人事であり、乗客はその場に置き去りにされたも同然だった。
 さらにひどいのは、最近では、喫煙できる場所は大きな駅に作られた密閉されたブースなのに、朝のラッシュ時間になると、ブースに人が入りきらず、表で吸っている。
 それを駅員に注意すると、
「見回りを増やしているんですけどね」
 と言って、平気な顔をしている。
 その人は、思わず、
「はっ?」
 と聞き返したという。
「それだけ?」
 と聞くと、
「この人何言ってるんだ?」
 という程度にしか考えていないように見えたらしい。
 今の言い方を聞いていると、その次にこちらとすれば、
「だから?」
 と聞きたくなってくる。
 見回りを増やしているからどうだというのだ。見回りを増やして、表で吸う人がいなくなったとでもいうのであろうか? ただ、自己満足しているだけではないのかといいたいだけだった。
 確かに見回りを増やせば、吸わなくなる人もいるかも知れないが、見回っても何も言わないのであれば、却って、
「なんだ、駅員がいる前で堂々と吸っていても、何も言われないじゃないか」
 と思われるだけで、相手に、
「吸っていい」
 という免罪符を渡すようなものだ。
 こんな単純なことにも気づかないとすれば、職員がよほどバカの集まりなのか、それとも、
「君子危うきに近寄らず」
 で、相手にしない方が懸命だと思っているかのどちらかなのだろう。
 要するに自分たちのことしか考えていないという証拠である。
 列車が遅延した時もそうだ。簡単に列車を運休させたり、本来なら後に出るはずの特急を先に行かせたりして、各駅停車に乗っている人はさらに遅れてしまう。
 これも、特急に大きな遅延が生じれば、自分たちが払い戻しをしなければいけないから、払い戻しをしないでいいように、特急列車を先に行かせるという露骨なやり方で、乗客を愚弄しているのだ。
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次