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表裏の真実

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 夢なら覚めないでほしいという思いと、悪夢なら早く覚めてほしいという思いが頭の中で交錯していた。今見ている夢が悪夢であるのは分かっているくせに、夢の中であっても、松山と一緒にいることができるのを、喜んでいる自分もいたりする。普通の精神状態なら、ありえないことだ。
 自分の身体が消えてしまう寸前、
「どうしたんですか? うなされていましたよ」
 と、声を掛けられた。
 OL時代の由梨は、仕事中に居眠りなどすることがなかったので、同僚の女の子も、
「よほど疲れが溜まってるんじゃないですか?」
 と心配してくれるほどだった。
「ええ、大丈夫よ」
 と言いながら、心の中では、
――よかった。松山さんが交通事故で死んだなんていうのは、悪夢だったんだわ――
 と、覚めてくれた夢に感謝したくらいだ。
 だが、それが予知夢だったことを知らされたのは、それから三十分後、由梨の携帯電話が鳴った。
「もしもし」
 電話の主は知らない人からだった。
「こちら、福岡県警のものですが、荻野由梨さんのお電話ですよね?」
 と、いきなり告げられビックリさせられた。
「はい、そうですが?」
「松山明人さんをご存じでしょうか?」
「ええ、お付き合いしておりますが」
「そうですか……。実は、松山さんが交通事故に遭われまして、お亡くなりになりました。松山さんの携帯電話を確認すると、最後に通話されたのが荻野さんだということで、念のために、ご連絡を差し上げたわけです」
「えっ、交通事故? どこでですか?」
「S町の七日辻という交差点で、後ろから追突されたようです」
「ようですということは、犯人は?」
「轢き逃げだったようで、道路で倒れている松山さんが発見されたんですが、事故に遭われてからかなり時間が経っていたようです」
「誰にも発見されずに?」
「ええ、ちょうど、田んぼに落ち込んでいたので、車からは死角になっていて、歩行者がいないとちょっと発見できない場所だったんです」
「では、発見が早かったら、助かったかも知れないと?」
「それはないです。どうやら即死だったようなので、かなりのスピードで追突されたんでしょうね。だから田んぼに落ち込んでしまって、発見も遅れたようです」
「ということは轢き逃げだったということですか?」
「ええ、その通りです。松山さんは轢き逃げに遭われて、そのまま死体を放置された形になります」
「それで私にどうしろと?」
「遺体の検分をお願いしたいんです」
「松山さんの会社の方は?」
「松山さんは、半月前までS町の町議会に所属されていたんですが、今は退職されたようです」
「えっ、そんな話聞いていませんよ」
「直接私たち警察が町議会に赴いたので間違いないです。ちょうど町議会も忙しいということで、検分をお願いしたんですが、聞き入れてもらえませんでした」
「そんな……」
 松山は、町議会の仕事を生きがいにしていたはずだった。少なくとも二か月前までは、町議会の仕事を任されているということで、デートをしていても、気持ちは半分町議会の方にあり、仕事に対して嫉妬の気持ちを持ってしまったことを恥ずかしく感じた由梨だったのを、まるで昨日のことのように思い出していた。
「どうして、こんなことに」
「とりあえず、ご足労願えませんか? お車はこちらから回しますので」
「分かりました」
 警察が到着するまでの約三十分の間に、由梨は混乱している頭を整理していた。
 まずは、松山が自分に内緒で、どうして町議会を辞めてしまっていたのかということだった。最近、なかなか会ってくれなかったのは、町議会の仕事が忙しいからだと由梨は思っていた。考えてみれば、由梨の方から、
「どうして会ってくれないの?」
 と聞いたこともなかったし、
「町議会の仕事が忙しくてね」
 という話を松山から聞いたという記憶もなかった。
 すべてが、由梨の勝手な思いであり、今から思えば、その間、松山は苦悩に苛まれていたのではないかと思えてならなかったのだ。
 警察での検分が終わると、刑事さんから今まで知らなかった話を聞かされた。その中で一番意外だったのは、
「松山さんは、経理関係のしていたようで、元々は営業の仕事だったらしいのですが、慣れない仕事に苦痛を感じていたのではないかというのが、町議会の人の話でしたが」
「松山さんは、ずっと営業の仕事だと聞いていましたが、いつから経理関係の仕事になられたんですか?」
「一年くらい前からだと聞いています」
「でも、彼は大事な仕事を任されていると二か月くらい前に話していたんですが」
「それは経理の仕事での任されていた仕事なんじゃないですか?」
「彼は、営業の時、自分が営業をするのは天職だって言っていたことがあったくらいだったので、経理に回されたのであれば、落ち込んだ様子が私にも分かるはずなんです。それなのに、まったく気づかなかったというのは、私には信じられません」
「経理の仕事でも、本当に町議会の中枢になるところの仕事を任されていたのかも知れませんね。それは営業の仕事に匹敵するくらいのものだったのかも知れない」
「でも、同僚の人からは、慣れない仕事だって思われていたんですよね?」
「ええ、その通りなんです。でも、逆にそれは、彼が自分からそう思わせていたのかも知れませんよ。それほど大切な仕事を任されていて、まわりの目を欺いていたのかも知れません」
「そんな必要ってあるんでしょうか?」
「分かりませんよ。会社や法人というのは、表には出せないけど、重要な部分を担っている人がいたりするものですからね」
 言われてみれば、由梨の会社にもそんな雰囲気の人がいるような気がした。なるべく、そういう意識は持たないようにしていたので、由梨にとって、汚い部分を見たくないという思いが松山に対して強かったのをいまさらながらに思い知らされた瞬間だった。
 刑事と話しをしていると、半年くらい前から、確かに松山が変わっていくのを感じていた。距離を感じるようになったというか、近づこうとすると、離れていく感覚。それはまるでさっきの夢の中で、助けを求めている松山に近づこうとしても近づくことのできないあの時の状況を物語っているような気がした。
「ところで、あなたはフリージャーナリストの里見誠也という人物をご存じですか?」
「いいえ、知りませんが、その人がどうかしたんですか?」
「彼の通話履歴の中に、最近、頻繁にその人との連絡が多いようなんです。彼の名刺入れの中にその名前があって、フリーのジャーナリストだということが分かりました。彼との接点は今我々の方で探っているんですが、分かっていることとしては、バー『サンクチュアリ』という店で、二人が時々会っていたということくらいですね」
 由梨が、バー「サンクチュアリ」の存在を知ったのは、その時が最初だった。
 由梨もまさか、自分がその店に足を踏み入れることになるとは思わなかったが、偶然店を見つけてしまった。
――これも、松山さんの引き合わせなのかしら?
 と思い、店に入ったが、最初はマスターに自分が松山と知り合いだということを話すつもりだったのに、店の雰囲気を感じているうちに、話す気が失せてしまった。
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次