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表裏の真実

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「ええ、いろいろ尽くしてくれてありがとうございます。ここから先は僕のジャーナリストとしての腕の見せ所ですね。と言っても、ただのフリーのルポライターでしかないんですけどね」
 と言って笑った。
 彼はできた記事を週刊雑誌の出版社に売り込みに行くのだという。世の中にはたくさんの週刊雑誌が出回っているので、そのうちの一つくらいには引っかかるだろうというのが由梨の思いだった。文香から聞けた話は、どこまでが本当のことなのか分からない。それだけに、興味を持つ人は少なくないように思えた。それこそ、岡本のいうとおり、彼の腕の見せ所なのである。
 その待ちわびた雑誌が出来上がったのが、ちょうど三か月後。その一週間前に、岡本から電話を貰った。
「いよいよ僕の記事が雑誌に載ります。週刊『ライフ』という雑誌なのですが、ご存じですか?」
 週刊「ライフ」というと、社会的な記事というよりも、暮らしに密着した記事の多い雑誌だった。ただ、特筆すべきはその雑誌は、オカルト特集をよく組んでいるということである。岡本の口から週刊「ライフ」という言葉を口にした時、由梨の脳裏にオカルトの記事が浮かんできた。もちろん情報源は、あの時の文香の話であろう。
――すべてをオカルトの世界に持っていかれると、せっかく取材を申し込んだ意味がなくなってしまう――
 という危惧を抱いていた由梨だった。
 それから一週間が経って、取材の内容が明らかになる日がやってきた。由梨も岡本に聞いた日に週刊「ライフ」を買い、中身を読んだ。
――少し大げさすぎはしないかしら?
 と思うほどに記事が紙面には踊っていた。
――これくらいでいいんだわ――
 と由梨は感じたが、その内容は、文香さんからの情報が基礎になり、かなり暈かした内容になっていた。
 それだけに、読む人の想像が豊かになり、あることないこと、記事には書かれていないが、読む人によってまったく違った解釈が生まれてくるのではないかと思えるほどであった。
 それでも、由梨はいいと思った。これくらいのことを書いた方が、せっかく取材に来てくれたのだから、由梨としても、たくさんの人の目に触れることで、事故が少しでもなくなるようになればいいと思っていた。
 中には、岡本独自の意見も入っていた。
 文香の家を出てきてから、ダムに向かった時に感じたという岡本の発想。これほど大きなダムができるまで、大変だったのではないかということを書いた後に、ダム湖の大きさと、ダム湖の底に沈んだ村が難民となって、もう一つの村を形成した話をそのまま描くのではなく、実際にはもう一つ、表に出てきていない村が存在するのではないかという疑惑を感じさせるような話の構造になっていた。
 だから実際には事故多発地帯の取材だったにも関わらず、それだけをテーマにしていない。ダム建設に絡む話を織り交ぜながらの記事になっているので、読む人も、興味を持つのではないだろうか。
――さすがジャーナリストだわ――
 一つの話題に対し、取材をしながら、他の観点からも記事にしている手法は、さすがと思わせるに十分だった。
 当時全国的にも交通事故に対しての記事には敏感になっていた時期だった。
 有名人が交通事故に遭ったり、自分で起こしたり、あるいは、飲酒運転が横行し、多重事故を引き起こすことで、事故現場は惨状と化していたり、社会問題として、国会でも審議されるほどだった。
「罰則を厳しくしたり、新しい法律を作ったりしても、この状況を止めることはもはやできない」
 という意見が主流になっていた。
 そんな時に、交通事故だけではなく、それに纏わる奇怪な話が絡んでくると、読者は敏感になっているだけに、いろいろな反響を呼んだ。S町では、違った意味で敏感になっていて、思いもよらぬ展開になることを、最初に記事を見た時、由梨は想像もしていなかった……。

                  真相

 岡本の記事は、他のマスコミにも影響を与えた。全国どこにでもありそうな「事故多発地帯」を見つけては、そこを取材し、特集を組む編集社もあった。S町では、最初、
「あまり褒められた注目の仕方ではないが、これでこの街にやってくる人が少しでも増えれば、いいかも知れないな」
 と、能天気なことを言っている人もいたが、それどころではなかった。
「何を言っているんだ。これだけ注目されると、俺たち自治体が何もしていないように書かれるだけじゃないか。俺たちだって、事故が減るように対策を取ったりしてみたけど、事故が減ったわけではない。それをマスコミに叩かれたら、俺たちの死活問題にもなるんだぞ」
「でも、ちゃんと手は打ってきたんだろう? だったら、胸を張っていればいいんじゃないか?」
「マスコミというのは、そんなに甘いものじゃないんだ。小さなアリの巣の穴を巨大な穴にしてしまうのが、マスコミという人種なんだ。記事になるなら、少々のウソだっていくらでも書き立てるのがやつらのやり方だ」
 二人の意見は、両極端ではあったが、マスコミを甘く見てはいけないというのは、間違ってはいない。特に芸能人のゴシップなどを狙うマスコミは、まるでハイエナのようなものだ。あることないこと書き立てられて神経をやられてしまった芸能人が果たしてどれだけいるか、S町の自治体はピリピリしていた。
「人のウワサも七十五日というじゃないか。そのうちに忘れてくれるさ」
「全国的に事故多発地帯がブームになっているというのは、我々にとっては好都合かも知れない。発端はここかも知れないが、これだけいろいろ出てくると、最初に話題になったところも、次第に影が薄れていく。そのうちに世間の風当たりも静かになっていくことだろうよ」
 実際に、その通りになった。
 記事が出て、二か月ほどで話題は他の土地に向けられた。それだけ全国には事故多発地帯が多いということは確かなようだった。
 だが、逢坂峠の話題はこれで終わらなかった。一旦は終息した話題だったが、忘れた頃にまた逢坂峠が注目されることになった。
 それまでにいくつかの過程があったのだが、まずは、由梨の身に危険が襲い掛かってきたのが、きっかけだったのかも知れない。
 岡本の記事が出てから、由梨はじっと鳴りを潜めていた。自分が記事の出所だということを知られると、何かとぎくしゃくしてしまうのは分かっていたからだ。
 しかし、そんな由梨の気持ちを分かっていなかったのは、岡本だった。
 岡本は、由梨のことを実名で書いたりすることはなかったし、協力者に由梨がいたという痕跡を残さないような記事になっていたはずだったのに、見る人が見れば、由梨がリークしたことが分かるようになっていたのだ。
 岡本の記事が出る頃には、由梨は街のコンビニでアルバイトをしていた。それまでは福岡市内でOLをしていたが、岡本の記事が出たことで、急に身体の力が抜けて、仕事を辞めてしまった。
 仕事に未練があったわけではなく、このあたりで、一度休息を取りたかったのだ。都会の中での自分がどこか浮いたようになっているのを、気づかない由梨ではなかった。
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次