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表裏の真実

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「逢坂峠の事故というのは、結構いろいろと曰く付きの話が多いんですね?」
「本当はそこまで大げさでもない事故も多いんですよ。事故を面白がって過大に宣伝するようなやつがいるから、誰もがオカルトとしてしか、あの場所を見ようとしないんですよ」
「じゃあ、いくら気を付けて運転しても、事故が起こる時は起こってしまうとお考えですか?」
「そこまでは言いませんが、事故が起こるのは事実で、車が見つからないということがあるもの事実なんです。湖底の地形上、車が入り込んでしまうとそこから出られないようなところがあり、その場所は人が近づけないようになっているので、発見できないだけなのかも知れないと考えるのは、唐突なんでしょうか?」
「いえ、そんなことはないと思います。むしろ、その方がよほど説得力がある。車も水の中で錆びてくるので、時間を掛けて錆びた部分が欠け落ちて、引っ掛かりが亡くなったことで、車が浮いてきたと考えると、自然なのかも知れませんね」
「でも、誰もそんな説を唱える人はいません。皆、オカルトな話にしか、頭が回っていないのでしょうね」
「幽霊や、妖怪なんているはずないのに……」
「いや、それは一概に言えません。田舎に住んでいると、時々、幽霊や妖怪と切っても切り離せない関係にあるのではないかと思うこともあるくらいですよ」
「何か、感じることはあるんですか?」
「ええ、田舎の家に住んでいると、襖や障子、それに畳など、日本特有の文化が感じられますよね。特に日本間などだったら、床の間に誰かがいるような気がしてくることが時々あるんです。まるで『座敷童』なんじゃないかなって気がしてきます」
 今度は、そこに岡本が割って入った。
「僕は東北の田舎出身なので、今のお話には共感できます。さっきまでは、ジャーナリストとしての意識で、まるで他人事のように聞いていましたけど、日本間や床の間の『座敷童』の話が出てくると、僕も意識せざるおえなくなりましたよ」
 岡本の目が輝いているような気がした。
 民話の故郷である東北地方、神話の故郷である山陰地方、それぞれの意見を聞いていると、由梨は、まるで仲間外れになってしまったかのように思える自分が少し寂しかった。
 岡本は、一つ疑問に感じていたことがあった。
「すみません、一ついいですか?」
 それに対して、
「どうぞ」
 と答えたのは、文香と由梨の同時だった。
「実は、事故現場を見た時から不思議だったんですが、あの場所は逢坂峠というんでしょう? どう見ても平地なのに、どうして峠と呼ばれているんですか?」
 その話に対して答えたのは、由梨だった。
「あの場所は、ダムができる前は峠だったんですよ。道が整備され、池の横を這うようにしてできたんです」
「だったら、どうして道を整備する時、こんなに危ない場所を作ったんですかね? どうせ道を整備するんだったら、こんな中途半端なことをせずに、キチンと最後まで事故が起きないような配慮の元に道を作ればいいのに」
 岡本の言うことが正論だった。
「そうなんですよね。私も実はそう思っていたんですけど、自治体のやることなので、それもしょうがないかと思い込んでいました。でも、そんなに見晴らしも悪いわけではないし、実際に起こっている事故から考えると、そんなに危ない場所ではないはずなんですけどね」
 と由梨がいうと、
「だからこそ、オカルトのようなウワサが生まれるわけです。車が見つからなかったことも、十年近く経ってから浮かび上がってきたというのも、その時、同じように車が突っ込んで沈んできたことで、何もなければ永遠に水の底にあったはずの車が十年経って浮かび上がってきたと考えると、不思議なことではないですよね」
「じゃあ、ウワサがウワサを煽っているというような意味でしょうか?」
「そういうことになるんじゃないかって私は思っています」
 二人の話を聞いた文香は、
「世の中には理屈だけでは解明できないものもあるんだって私は思っています。だから、オカルトと言われようと、実際に起こっている現象は、事実なんですよ。私はオカルトであっても、それを信じますね」
 なるほど、文香が遺品を警察に渡さずに持っている理由はそのあたりにあるのではないかと思えた。遺品を丁重に供養することで、実際に現場に住んでいる自分たちに危害が及ばないようにしようという思いが嫌というほど伝わってくるような気がした。彼女にとっては、切実な問題なのであろう。
 逢坂峠での取材をもう一軒くらいしてみようと思っていたが、文香の話を聞いているだけで、ほぼ一日が経ってしまった。ここまで来たのだからダムを見て行かないわけにはいかないだろうと、由梨は岡本をダムに案内した。
「ここのダムは相当大きいんですね。他のダムも結構見てきましたけど、ここの規模は結構なものだ」
 と、岡本は言ったが、
「私は、他を知らないので何とも言えませんが、確かに大きいですよね」
「それに、このダム湖の大きさは、かなりのものだ。この下に眠っている村って、本当に一つだったのかい?」
 と岡本は言ったが、そういえば、由梨はそこまで考えたことはなかった。
「ええ、私は一つだと聞いていますが」
「そうなんですね。これだけ大きな湖なので、二つ、三つ村が沈んでいても不思議がない気がしたんでですね」
「それだけ、このあたりが田舎だったと言えるんじゃないですか? 逢坂峠も、峠と言われる部分を削ってあんな道を作ったんでしょう? それを思うと、かなり大規模な工事だったんじゃないでしょうか?」
「う〜ん」
 岡本は考え込んでいた。
「どうしたんですか?」
「いえね、これだけの大規模な工事を、一自治体だけでできるはずもなく、県が補助したとしても、どこまでできるか、これだけ大きなものを作ったということは、そこに誰か得をする人の存在が浮かんでくるような気がするんですよね」
「有力者の力が働いていると?」
「そう考えても無理はない気がしませんか? 確かにダムは必要だったのかも知れませんが、その裏には何か談合の中で、きな臭いものを感じたのは僕だけなんだろうか?」
 最初は、
――そんなバカな――
 と思った由梨だったが、話を聞いているうちに、信憑性が感じられるようになり、先ほどのオカルトチックな話から一転して、今度は談合の話、何やら今まで考えもつかなかったことが一気に襲ってきた気がした。
――でも、本当に考えもつかなかったのかな?
 由梨は、自問自答を繰り返した。
 考えていることが、まるで他人事のように思えるのは、本当に久しぶりだった。学生時代には時々あったことだが、それだけ就職してから、本当の意味で疑うということが少なくなってきたからのように思えていた。
――社会人になると、どうしても、常識の範疇でしかモノを考えないようになってしまう――
 と思えたからだ。
 これで一応の取材は終わった。翌日も近くの民家に取材に行ったが、文香さんほどの情報が得られるわけでもなかった。
「とりあえず、これだけの情報で十分に記事にできますよ」
「そうですか、お役に立てましたでしょうか?」
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次