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表裏の真実

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「ということは、難民に何かあるというわけではなく、あの時に何かがあると思った方がいいのかな?」
「なかなか鋭いですね。そうなんです。あの土地の奥には豊富な森林があり、マツタケなどを生産するには適していた。さらに、その奥には、石炭が出るようで、それを実力者たちが狙ったようなんです」
「それにしては、あの地域にはそんな形跡はありませんが?」
「当時はまだ石炭も重要なエネルギー源だったんですが、すぐに石油にとって代わられて、全国的に石炭の炭鉱は閉鎖の憂き目に立っていた。石炭が見つかったのは、その少し前だったので、最初は有力者の側も石炭を狙っていたのだが、石油にとって代わられると、その価値はなくなってしまった。どうしても、秘密主義にしたかったのは、村との提携の狙いを石炭だと思われたくないようにしたかったからではないでしょうか?」
「どうしてそう思うんですか?」
「もし、石炭を狙っていると分かってしまうと、石炭を狙うという思惑が外れた時、彼らの面目が丸つぶれになる。彼らのような連中は、自分たちの狙い目に狂いのないことを世間に知らしめていなければ成り立たないですよね。自分たちの事業を世間の人が評価して、投資してもらう、さらに政界にも食指を伸ばしているので、それこそ信用問題が彼らの命綱。つまりは、信用を失うような行動は何とか避けなければいけない。水面下で動くのもそのためなんでしょうね」
「で、実力者たちは、この保護区から手を引いたんですか?」
「表向きは引いたようになっていましたが、実際には村民の後継者のような形でかかわっていました」
「後継者ですか、他にも何か目論見があるような気がしてならないんですが」
「きっとあったと思いますよ。でも、何年も水面下で行動しているうちに、誰も意識することはなくなってしまいました。現住村民も、ダム湖難民も、表向きは平穏に暮らしていましたからね」
「一度、分裂したと聞いたんですが」
 由梨が、岡本と文香の話に割って入った。
「分裂? ああ、確かに分裂のようなこともありましたね。でも、表立ってのことはありませんでしたよ」
「そうなんですか」
 由梨が煮え切らないような返事をしたのを、岡本は見逃さなかった。
――松山さんの話していたことと、かなり違っているんだけどな――
 由梨の記憶違いなのかも知れない。
 由梨はそう思ったが、考えてみれば、文香という女性も、元々はここの土地の人間ではない。
――生まれ育った街でもない過去のことを、よくここまで知っているよな――
 と感じたのも事実だった。
 由梨は、文香の話を聞いていると、その話に信憑性は十分に感じられると思った。即興で作ったようには思えないほど、話の内容が理路整然としている。
 由梨は、松山の話を思い出していた。
 あの時の松山の表情は真剣そのものだったというわけではなく、あくまでも普通の会話の展開から出てきた話だった。由梨としても、それほど真剣に聞いていたわけではないし、実際にあの時の由梨にとっては、興味のある話でもないし、もっと言えば、どうでもいい話だったのだ。
 元々この街は閉鎖的な村と、普通の街が合併したものだった。ここは福岡県で最後の村であり、
「これで、閉鎖的なところはなくなるだろう」
 という思惑が県にあったのも事実だろう。
 市町村合併で村がなくなったのは、今から二十年ほど前のことだった。
 確かに合併してすぐには、閉鎖的なところがなくなることはないことくらい、誰にでも分かっていたことだろう。ゆっくりと時間を掛ければいいと思っていた。
 実際にダムができた頃の抗争は、一般には知られていないが、福岡県としては大きな問題だった。
 全国でダム建設ラッシュだった時代なだけに、福岡県から抗争が広がったり、抗争によって死人が出たりすると、事件以上の社会問題に発展しかねない。それを思うと、この時の抗争は、デリケートな問題を孕んでいた。
 だからこそ、一見複雑に感じられた実力者の存在は大きかった。それは県に対して大きな問題で、
「少々のことをしてでも、穏便にことを済ませてもらわなければ、社会問題になってしまうんだ」
 ということを、実力者側にお願いし、その要望に応える形で、水面下での交渉を買って出たのだ。
 しかし、水面下で交渉をしていると言いながら、どうやらその行動はバレバレだったようだ。
 実力者側がそんなへまをするわけもない。最初からバレるように仕向けていたのだ。そうすることで何かから目を逸らそうとしていたのだろうが、それが何なのか、誰にも分からなかった。
 実力者というのは、ち密な計算の元に行動していた。彼らにはバックボーンがあり、公法の憂いは問題なかった。いかに自分たちが正当に振舞うかというのが、一番の問題だったのだ。
――松山さんと文香さんの話が食い違っているのはいいとして、文香さんはもっといろいろなことを知っているような気がする――
 由梨はそう感じていた。
 そして、彼女がもっといろいろ知っているのではないかということを岡本も知っているようだった。知っていて、いろいろと質問をしている。しかも、少しずつ微妙に話題を変えながら、自分の知りたい方にミスリードしているように思えたのだ。
――さすが、フリーとはいえ、ジャーナリストの端くれだわ――
 そう思うと、彼もまた、情報網を他にもたくさん持っているような気がしてならなかった。
「この街が一本になってからは、何ら問題はないんですか?」
「そんなことはないですよ。ほら、今回お二人が取材に来られた逢坂峠ですけどね。あそこは最初から事故多発地帯だったというわけではないんですよ」
「どういうことなんですか?」
「あそこが事故多発地帯と言われるようになったのは、この街が一本化されてからのことなんです。だから、ここ二十年くらい前からだと言ってもいいでしょうね」
「そうだったんですか?」
 意外な顔をして驚いている由梨を横目に見ながら、岡本も不思議に感じていた。
――自分に取材を申し込んでくるくらいなので、それくらいの情報は分かっているつもりなんじゃないか――
 と思っていたようだ。
 岡本は、そのことは知っていた。取材に出掛ける場所の予備知識くらいは最初から調べておくのはジャーナリストの基本だと思っていたからだ。それなのに、依頼主である由梨が知らないということは、どういうことなのかと驚いていたのだ。
「私は、ずっと昔からここは事故多発地帯だと思っていたんですよ。実際にそう言って育てられましたからね」
「あなたは今おいくつなんですか?」
「今年、二十八歳になったところです」
「なるほどですね。それくらいの年齢の方なら、昔からここが事故多発地帯だったと思っていても不思議ではないですね。実際に事故多発というのは、昭和の時代の方がよく言われていたことのように思いますからね。あなたがそう思われたのも無理もないことですね」
 と文香は言ったが、岡本は納得できなかった。
――それでも、調査すれば分かること。ひょっとして調査しても、彼女の情報はそこまで行きつかなったということなのだろうか?
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次