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表裏の真実

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「やっぱり争いはどうしても絶えないのね」
「その通りだ。長い間掛かってやっと独立できても、一つの独立がせっかく残った団結の弁列を招きかねないということになると、これは大きな問題だった。その頃になると、まわりからこの村の利権を求めて進出してきた実業家も、すでに撤退していて、後ろ盾はなくなっていた。結局は分裂することになったんだけどね」
「分裂だったら、大変だったでしょう?」
「独立に比べれば、準備をしているわけではないので、自分たちの体制を固めるまで大変だったようだ。それだけに村で蓄えていた資産も、かなり消費してしまっていたようだ。だからこそ、彼らは気づいたんだ。やっぱり自分たちが元々続けてきた排他的で閉鎖的な考え方は間違っていなかったってね。それ以降、市町村合併でS町に吸収合併されるまでは、本当に閉鎖的な街だったんだ」
「でも、市町村合併しなければいけなくなるまでに、街は衰退していたということなの?」
「何しろ、バブルが弾けたり、不況が起こったりで、消費が落ち込むと、大きな痛手を被るのは、まずは生産者だからね。農か中心の街は、どうしてもその被害をまともに食らってしまうんだろうね」
「何か、悲しいわね」
 と言った由梨の顔を見て、さらに悲しそうな顔をした松山の顔が、今更のように思い出された。
 実は、今回の取材をお願いするまで、この時の松山の表情はおろか、この話まで記憶から飛んでいた。
――どうして覚えていなかったのだろう?
 今回の取材を思い立ったことで松山との話を思い出したのか、それとも、この話を思い出したことで、今回の取材をお願いしようと決心したのか、それすら覚えていなかった。
――私は、どうやら肝心なこととなると忘れてしまっているようだ――
 と由梨は感じた。
 それだけに、思い出した瞬間、それを初めて感じたことだと思うのだが、何か違和感を覚え、それが、以前にも感じたことだということを意識するのだった。
 そのことを文香さんに訊ねてみた。
「この街は、何度か分裂と合併を繰り返した経緯があるんですが、そのたびに、いろいろよからぬウワサが流れたりしました。何か恐ろしいことが起こるというようなホラーのような話だったり、合併した時に、合併された側の上層部が冷遇されてしまったことで、いろいろな揉め事が起こったりですね。中には汚職のウワサもあったくらいなんですよ」
「ダムができて、村から立ち退きを余儀なくされた人の一部が、このあたりで村を作ったという話を聞いたことがあったんですが」
「村と言っても、自治体としての力はなかったんですよ。何しろ村を作るまでの絶対人数もいませんでしたし、村長や村の権力者は、都会に出て行っていましたからね。彼らはこの向こうの土地に自分たちの難民キャンプを作ったと言った方が正解なのかも知れませんね」
「私は聞いた話は、村だという話だったのですが、正確には村ではなかったんですね?」
「ええ、本人たちは村のつもりでいたかも知れません。実は県でもこのことが問題となり、彼らの住んでいる地域を、県公認の自治区にしたんです。だから、村というわけではないんですが、郡に含まれているわけではなく、県の直轄地とでもいえばいいのか、そういう意味では、このあたりの小さな村から比べれば、彼らに対しての力はなかったんです」
「つまりは、保護区のようなものですか?」
「そうですね。いくら街の水瓶を潤すためだとはいえ、一つの村をダムの底に沈めて、彼らの居住区を奪ったんですから、それくらいのことがあっても罰は当たりませんよね」
「そのとおりです。でも、元々の現住村民にとっては、目の上のタンコブですよね。彼らにとって農地となるべく土地が削られたんですからね。死活問題だと思ったかも知れません」
「でも、元々何もないところだったから、移住民もそこに住み着いたわけでしょう?」
「確かに、実際には何もないところではあったんですが、ちょうどその頃、その土地を開拓しようという話が持ち上がっていたんです。もちろん、村の人だけではできないので、都会の有力者が手伝うという話にもなっていたんですよ。話を持ってきたのも彼らだったので、その構想を聞いた時、村の人も自分たちが確実に潤うことができるということだったので、安心して任せるつもりだった。でも、そこに別の人たちが入り込んできたので、一気に情勢は変わっていきました」
「どうなったんですか?」
「最初は、有力者が先頭に立って交渉していたんですが、そのうちに水面下で話が進められていて、現住村民の人たちには情報が回ってこなくなった。そのうちに、急遽、有力者の側から一方的に手を引くという話になり、それ以上の話はそこで断ち切れになったんです」
「つまりは、現住村民は見捨てられたというわけですか?」
「そうですね。でも見捨てられたと言っても、彼らは何ら損をしたわけではないんですよ。確かにこれからもっと村を発展させるという計画は頓挫してしまいましたが、だからといって、今までの収穫量や収入が減るわけではない。逆に土地が減った分、収める税金が少なくて済むくらいです。だから、有力者側も、別に問題ないと思ったのではないかと言われていました」
「なるほど、確かにその通りですね」
「実質的にはその通りでも、現住村民のそれぞれの気持ちに収まりは尽きません。何と言っても、勝手に入って来られて、勝手に土地を占有されてしまい、県の保護区になったり、有力者との間で水面下で交渉が行われたりと、自分たちの意思はそこにまったく反映されていませんから、現住村民としては、ストレスもたまるでしょうし、時が経っても、その思いは消えることはないのかも知れませんね」
「そうなんですね。その状況が自分の家の土地だと思って考えてみれば、自分が現住村民の立場なら、許せることではありませんからね」
「その土地が元々、何も利用していないところだったから、さらに状況を複雑にしたのかも知れません。もし少しでも何かに利用していたのであれば、彼らも無理に入り込んだりはしないからですね。何も使われていない土地だと思ったので、専有した。誰も占有していない放置された土地を後から来た人が占有した場合って、あとから占有した人が優先するんでしたっけ?」
「どうだったか分かりませんが、そうでないと、法律が成り立たないように思うのは私だけなのかな?」
「もちろん、柵を張っていたり、進入禁止の立て札があったりすれば、専有に値するんでしょうが、何しろ田舎の村のこと、そんな必要はないと思ったんでしょうね。それがそもそもの間違いだったのかも知れません」
「そんなことがあって、現住村民とダム湖難民の間で抗争が起こった。それを見かねた県が仲裁に入ったというわけですね?」
「ええ、でも、またそこで複雑なことがあったんですが、県が保護区の決定を下す時に、これもまた水面下で例の有力者が動いていたというウワサがあったらしいんです」
「ほう、それは興味深い。難民に保護区を与えるように手を回したというわけかな?」
「そういうことになります。有力者はどうしても、あの土地に難民たちを押さえつけておきたいと思っていたんでしょうね」
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次