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表裏の真実

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「なるほど、一歩間違うと、どちらかの村に吸収されてしまう可能性を含んでいたんですね」
「そうですね。さらに独立した村をきっかけにして、強大なムラ同士の全面戦争になりかねない。そうなると最悪で、自分たちなど戦争に巻き込まれ、跡形もなく消えてしまう運命になってしまう。まだどちらかに吸収された方がマシなのかも知れないと思うでしょうね」
「それなら、独立など考えない方がいいに決まってますからね。でも、それでも独立の機運が高まってきた?」
「ええ、一つの村だけなら、小さな抵抗なんでしょうが、村全体の半分近くが独立を望んでいるとすれば、今度は話が別になってしまう。村の運営にかかわる問題ですからね。分裂して、小規模になってでも村を存続させるか、それとも現状にこだわって、内部分裂しないように、内部の引き締めに掛かるかのどちらかの選択を迫られることになるんですよね」
「そういう意味では、前者を選ぶことの方が得策な気がします」
「ええ、そうなってやっと村々の独立の機運が再度高まってきたというわけです。ただ、実際に昔にも一度独立の発想があったということを知っている人は、村の中でも限られていると思いますよ」
「あなたのように村を出てきた人が知っているのにですか?」
「そうです。私は村を出たから知ることができたんですが、村を出ることのできない、いわゆる最初から人生の決まっている人には、このことは知らされていないんですよ」
「本当に閉鎖的な村だったんですね」
「ええ」
 岡本は自分の育った街はもちろんのこと、全国でもいろいろと取材を続けてきたので、閉鎖的なところがどういうところかということは、ある程度まで知っているつもりだった。しかし、ここまで閉鎖的なところがあるとはちょっとビックリで、
――さすが出雲をお膝元に抱える山陰地方だけのことはある――
 と感じていた。
 二人の話を聞いていて、由梨も最初は他人事のように思っていたが、次第にその話に巻き込まれて行ったのに気づいていた。
 というのも、松山が以前役所の仕事で街の歴史を研究する部署にいたことがあった時、
「俺、この街の研究をしているんだけど、今面白いところに差し掛かっているんだよ」
 というと、
「どんなところなの?」
 興味としては半分だったが、面白そうな話であることに違いはなさそうだったので、少し大げさに聞き返した。
 聞き返し方が大げさになってしまったことで、半分だった興味が話を聞いているうちに引き寄せられていった。きっと大げさなリアクションを取った瞬間に、正面から話しを聞くという姿勢になったのかも知れない。
「この街には、閉鎖的なところと開放的なところが両立しているというのは、由梨は知っていたかい?」
 実際に田舎の方に来たことはなかったので、正直まったく知らなかった。
「いいえ、そうなの?」
 というと、意外そうな表情もせず、逆にしたり顔で松山は話し始めた。
「ああ、そうなんだ。この街はダムの方に向かっていくにつれて、だんだんと閉鎖的な街に変わっていくんだ。ダムを越えてから向こう側は、まったく別の街が存在しているような気がするくらいなんだよ」
「どうして、そんなことになったの?」
「ダムを抱えているところは、ここに限らず大なり小なり、そんなところがあるのかも知れない。少なくともダムができる時、一つの村がダム湖の底に沈んだという事実は隠しきれるものではないからね」
「ええ、昔の映画などで、そんな話を見たことがあるわ」
「そこに住んでいた人たちは、一定のお金を貰って、都会の方に移住した人もいれば、ダム湖の向こう側にある集落に流れ込んだ人もいる。もっとも、元々からダム湖の向こう側にいた人たちというのも閉鎖的な人たちが多いので、少なからずの問題はあっただろうと思うよ」
「でも、よくダム湖に沈んだ村からの人たちが入り込めるだけの土地があったわね」
「ちょうど、その頃は、田舎の人たちが都会に憧れている頃で、村を捨てて都会に流れたことで、土地が空いたんだ。そこにお金を貰った人が家を建て直して、新たに住むようになった。ある意味、今まで一つだった村に、よそ者が入り込むことで、村が物理的なところで分断された形になったんだ」
「そうだったんだ」
「それでね、それだけで終わらなかったんだけど、その話をどこかで聞きつけてきたのか、それでも余っている土地に、他から流れてきた少数の人たちもいた。だから、村は二つに分裂したわけではなく、三つに分裂したような感じだね」
「へえ、それは面白い。形としては一つの村なのに、内部的には、三つの勢力が存在しているということなの?」
「そういうことなんだ。でも、そのおかげなのか、村としては、その時大きな繁栄をしたんだ。財政は潤い、特産物も独特なものが生まれたりね。確かに勢力は三つあったかも知れないんだけど、文化は一つ、協力し合って、新しいものを開発するという発想は根強かったようだ」
「まるで理想郷のようね」
「そうなんだけど、その体制も長くは続かなかった」
「どうして?」
「急速な繁栄があれば、実業家というのは黙って見ていたりしないでしょう? 村の繁栄に目を付けた外部の実業家が、村の実力者に近づいて、裏からいろいろ操作しようとしたんだ。それも、相手は実力者というだけで、長ではない」
「どうして長ではないの?」
「実業家も、この村の事情をしっかり調査した上で動いているんだ。三つの勢力があることは了承済みなので、長に近づくということは、それか一つを支援することになり、せっかくトロイカ体制でうまくいっているバランスを崩すことになるだろう? それを嫌ったのさ」
「確かにそうね」
「でも、この村に目を付けた実業家は一つではなかった。他の実業家は、今度は別の実力者に近づいてくる」
「うわっ、まるで代理戦争のようじゃない」
「そうなんだ。せっかくそれぞれで平穏に村を裏から操って、自分たちの儲けにしようと計画していたんだが、別のところからの力で、思ったようにはいかない」
「しかも、それが同じ発想の元に集まってきた人たちだけに、厄介なんじゃないかしら?」
「同じ考えなんだから、相手の考えていることをこちらは分かることができるんだが、逆に相手もこちらのことを分かっていると思うと、なかなか手を出せない。次第に膠着状態になっていって、それが緊張に繋がってくると、一触即発の様相を呈してしまうだろう?」
「それでどうなったの?」
「村は二つに分裂したんだ」
「どう分裂したの?」
「元々からそこにいた原住民と、ダム湖から転籍してきた人たちの団体が一つ。そして、他の村から移ってきた連中の村が一つ」
「それって、力関係は絶対じゃないの?」
「そうだね。他からきた勢力の村というのは、勢力だけを考えると一割にも満たないくらいだからね。正直村としての力はまったくなかったんだ」
「それで、存続できたの?」
「何とか存続しようとして考えたのが、血縁関係だったんだ。大きな方の村の人と血縁を結ぶことで生き残りをかけたんだが、彼らが狙った相手は、ダム湖から移った人たちだったんだ。だけど、彼らだって元々の原住民から見ればよそ者でしかない。それを思うと、また分裂の危機に向かっていったんだな」
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次