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半分夢幻の副作用

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 ストーリーを思い浮かべるなど、読んでいて今までになかったことだ。何しろ小説を読み始めるきっかけになったのは、最初にテレビを見て、その原作を読みたいと思って読み始めたものだからである。
 読み始めると、ラストをある程度知っているだけに、端折ってしまうのも仕方がないというものだが、それだけではない。
 ゆっくり読むことに苛立ちを覚えていたのは、自分の性格によるものが大きいと思っていたが、
――小説を自分で書いていると思いながら読むこと――
 をイメージできなかったからだ。
――私はやっぱり、他の人とは違うのかも知れないわ――
 他の人は、小説を淡々と読んでいって、自分が小説の中に入り込んでいる気分になることが醍醐味だと話していた。
「私には分からないわ」
 と梨乃がいうと、
「それじゃあ、小説を読んでいても、面白くはないわね。ラストを読みたくなる気持ちも分からなくはないわ」
 本を読む時、ラストから読んでしまうことを友達に話すと、そう言って友達は答えてくれた。
――やはり、私は他の人とは違うんだ――
 とその時にハッキリと感じた。
 それは小説を読むことだけではない。他のことに対しても他の人との違いを大きく感じることが多い。しかし、それは願ってもないことで、梨乃自身の考え方が、
――他の人と同じでは嫌なんだ――
 と思うことであった。
 梨乃は、自分が小説を書いているつもりで読んでいると、小説の内容が似てくるのを感じたのか、それとも、小説の内容と似ていることを考えているのを分かったことで、小説を書いているようなイメージに達したのか分からない。それでも、この時間が今まで一番手に入れたかった、
――楽しい時間の理由――
 だということに気が付いて、ホッとした気分に陥り、久しぶりに大きな満足感と充実感に包まれていることを知ったのだ。
 急に梨乃に睡魔が訪れた。
――あら? 今まで本を読んでいる時に眠くなるなんてことなかったはずなのに――
 しかも、眠くなるのは、楽しくないことをしている時だとばかり思っていたがどうやら違うようだ。
――そうか、受験勉強でも同じなんだわ――
 梨乃が気がついたのは、目の前のことだけしか考えていなかったということだ。受験勉強も辛いというイメージしかなかったが、考えてみれば、勉強をしたあとに、満足感や充実感を味わうことができたはずではなかったか。それが睡魔に繋がったのではないかと思うと、梨乃は、やっと今まで何か心の中で閊えていたこと、つまり、合点のいかなかったことの一つが瓦解したように思い、少し気が晴れた気がしていたのだ。
――やっぱり、このまま眠ってしまいそうな気がするわ――
 と思うと、本を放り出して、天井を再度見つめている自分がいることを、まるで他人事のように感じていた。
――私、どうしたのかしら?
 ここまで睡魔が襲ってくると、いつ意識がなくなっても不思議のない状態だった。気がつけば眠ってしまっていたなどということも今までに何度もある。部屋の窓から薄日が差し込んでいて、
――朝なのかしら? 夕方なのかしら?
 と何度感じたことだろう。
 一旦眠り込んでしまうと、目が覚めてからどれだけ熟睡して、どれほどの時間が経ったのかなど、まったく意識できない。他の人に聞いてみると、
「そこまで熟睡できるなんて羨ましいわ」
 と言われることがあった。
 それだけ睡魔が襲ってくると、梨乃は意識が完全に飛んでしまうのだった。
 夢を見るのは、半々くらいであろうか? 目が覚めてから、
――これは夢だったんだわ――
 と感じることも何度もあり、夢というのが覚えているか、忘れてしまうかのどちらかだということを思い知らされた気がした。
 もちろん、忘れてしまったと思っていることも、記憶のどこかに残っているかも知れない。時々、
――あれは夢で見たような気がする――
 と、それまでまったく夢として意識していなかったことを、現実の世界で見たことから思い起すことがあるくらいだったからだ。夢の世界を垣間見ることなどできないだろうという気持ちは持っているが、夢を忘れずに覚えていたという時、
――見た夢に何か意味があるのかも知れないわ――
 と感じるのだ。
――ひょっとして、意味のない夢などまったくないのかも知れないわ――
 それは現実の世界よりも強い感覚である。その思いを支えているのは、
――夢とは、潜在意識が見せるものだ――
 という感覚があるからで、これは学生時代に友達から教えられた感覚だった。たまには友達の話を真面目に聞いてみるのもいいもので、人と話をする時も、自分にとっていいところだけを受け入れればいいと思うようになっていた。
 ただ、梨乃には、潜在意識という言葉の意味がいまいち分からない。そこまで自分をいつも考えているわけではないと思っているからだった。
 その日は今までにない睡眠だった。
 完全な熟睡をしていたはずである。それなのに、その日の夢を覚えているのだ。梨乃は熟睡していても、夢を覚えていることがあるが、完全な熟睡では夢を覚えているということはない。
――完全に熟睡していた――
 というわけではなく、
――完全な熟睡をしていた――
 のである。
 言葉は少し違った言い回しをするだけで、まったく違ったニュアンスを与える。
 完全な熟睡とは、途中で目が覚める素振りはまったくなく、目が覚めても、自分が寝ていたことすら、しばらく思い出せないほどの時のことを言う。実際には身体は目が覚めているのに、気持ちや意識がそこについていっていないのだ。
 完全に熟睡していたというのは、完全ではない熟睡ではあるが、熟睡していたことで、途中で目が覚めることはないが、目が覚めた時、眠っていたという意識はある。身体と意識がある程度一致している睡眠なのである。
 完全に熟睡している時は、身体と意識が一致していることで、夢を覚えているのだろう。潜在意識の存在を、夢から覚めた意識も認識できるからである。
 熟睡していて目が覚めた時、意識は忘れようとしている夢を何とか忘れるまでの延命努力をする。覚えている夢には意味があり、強く心に残っていることが、それからの自分の生活の中の近い将来、必ず影響してくることを感じさせるからだ。
 今日の目覚めは、
――完全な熟睡――
 であった。それなのに、夢を覚えているということは、それだけ夢の中と潜在意識の一致した部分が大きかったのか、それとも、これからの自分の生活に本当に影響してくるものなのかのどちらかではないだろうか。
 そう言えば、昨日は占い師に占ってもらった時、
「あなたは、占いに携わる」
 などと言われたではないか、将来に起こることを事前に予感したとしても、それは昨日の占いを裏付ける何かになるのではないかと思えたのだ。
 ただ、その日に見た夢は、未来のことではなかった。過去に起こったことを思い出させるもので、場面は中学時代だった。
 そう、あれは家族全員で、毎週夜の九時から、サスペンス劇場を見ていたちょうどあの頃のことだったのだ……。

                   ◇
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次