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半分夢幻の副作用

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 それでも、今ではそんな時間も貴重に感じられるようになった。日ごろの生活が次第に変化のない毎日に感じられ、一日一日がどんなに長く感じられようとも、一週間、一か月と長期で考えるとあっという間に流れてしまうそんな時間に、何か合点のいかない思いを感じていたが、それを口に出して説明することができなかった。
 その日も天井の落下してくる錯覚にビクンと身体を反応させることで、身体がやっと眠りから覚めた気がした。その日の朝は神社まで行き、さっきシャワーを浴びたにも関わらずである。
――まるで朝の出来事が、すべて夢の中でのことでもあったかのようにしてしまいたいと自分で感じているからかしら?
 と、これも勝手な妄想に近い発想が頭を過ぎると、梨乃はベッドの横に置いてあった文庫本を手探りで手繰り寄せると、一ページ目から開き始めた。
――本を読むと眠くなるので、眠くならないための刺激だったのかも知れないわ――
 と、天井落下の錯覚を思い返して、ほくそ笑んだ。気持ちを変えようとしたのに、気持ちが一つ前に戻っていたのだ。こういうことは今までにはなかったことだ。そういう意味でも、今日は小説を頭から順序立てて読むことができるのではないかと感じたのだ。
 小説の序盤は、まだ恋愛の雰囲気を感じさせるものではなかった。ミステリーの様相は呈していたが、恋愛を感じさせないことで、思わずラストを読みたくなったほどだが、小説に恋愛モードがあるというのであれば、ラストを読みに行ってしまっては、本を読んでいる意味がないと思い、何とか堪えた。
 承の部分に差し掛かると、それらしい雰囲気が見えてきた。恋愛というと、最初ほのぼのとしたものを感じたが、恋愛小説にありがちな、ドロドロとしたもののようで、読み進むにつれて、少し嫌な気分になりかけていたが、ここまで読んでくると、途中で止めるのも嫌だった。
 元々、恋愛小説を読む気がしなかったのは、ドロドロとした部分を見たくないという思いがあったからだ。自分が経験したことのない世界を覗きたいと思っている人たちとは違って、自分が経験したものでなければ、ドロドロとしたものは受け付けられないと思っていた。ミステリーを読む時に、ラストから逆読みしてしまうのは、そういう思いがあるからなのかも知れない。トリックや解決編を見ておくことで、途中の雰囲気を先に感じることができると思ったからではないか、そう思うと、自分が先に解決編を読みたくなる理由も分からなくもない。
 ミステリーでも恋愛モノを読んでみようと思ったのは、
――今なら、普通の読み方ができるようになるかも知れない――
 と思ったからだ。
 最近では端折って読む癖もついてしまい、せっかく本を読んでいても、本当の醍醐味を味わえていないのではないかと思えてならなかった。今日は何とか、端折らずに本を読んでいくと、次第にストーリーに嵌りこんでいくのが分かる。自分はあくまでも第三者として表から見ていたはずなのに、いつの間にか主人公になったかのような錯覚を覚えたりする。
 それは主人公が男性であっても女性であっても同じだ。不思議なことに主人公が男性である方が、主人公の気持ちが分かる気がした。
――きっと、第三者として見ている自分と、主人公として入り込んだ自分に、気持ちの上での接点がないことで、スムーズに物語に入っていけるのかも知れない――
「本を読んでいると、眠くなってしまうのよね」
 と言っている友達がいた。
 梨乃は、今まで本を読んでいて眠くなったという経験はあまりない。受験勉強をしていて眠くなることはあったが、それはきっと、好きでもないことをしているから眠くなるのではないだろうか。
 そう思っていると、自分が本当は読書好きなのだろうということを再認識した。
 本当は、読書など好きではなかった。ラストから読んでしまうのはそのせいだと思っていたくらいだ。サスペンス劇場を見ることで原作も読んでみたいと思っただけで、テレビで見た内容との違いを感じるだけでよかったのだ。そう考えると、読書が好きだったという根拠はどこにもなかった。
 だが、今から思えば、読書をしている時間を結構楽しんでいたような気がする。
 友達といる時間は、どうしても人と共有している時間ということで、あまり自分で満足できる時間ではなかったはずだ。しかし、一人の時間というのは自分だけのもの。誰に邪魔されることがないという反面、時間に対しての責任も自分にある。
 もちろん一人でいる間にそこまで考えることはないが、一人でいて一番最初に感じてしまうことは、
――寂しい――
 という感情である。
 明らかにネガティブな考え方だ。だが、逆に考えれば、これ以上嫌なものはない。やりようによってはいくらでも変えることができるのだ。すべては、考え方だった。
――モノは考えよう――
 というではないか。
 梨乃は、自分が感じていた寂しさを、忘れようとは思わなかった。確かに、寂しさを正面から生真面目に受け止めてしまっては、落ち込んでしまうだろう。それを少しでも考え方を変えることで、
――いかに寂しくないようにすればいいか――
 だけを見つめればいい。何をしても、今よりも悪くなることはないと思えば気も楽になるというものだ。
 その一つが読書だった。
 あまり楽しくないと思っていた読書だったが、後から思い返すと、そうでもないことに気付かされる。
 たとえば、今日のようにベッドに横になって本を読んでいると、天井が落ちてくる感覚を感じることで、その感覚を持ったまま小説を読むと、それまでと違った感覚が芽生えてくる。
 それはテレビで見た内容とは似ても似つかない感覚。小説というものが、自分の感覚で読むことで、いくらでも発想できることが分かった。
――発想は、いくらしたってかまやしない。誰に迷惑を掛けるわけではない。自分の中でいろいろな想像をするのが、こんなに楽しいことだったなんて、今まで知らなかった――
 と思った。
 知らなかったことを知らされることは新しい発見であり、発見は、今までになかったものを
――新しく作り上げること――
 と似ているように思えた。
 梨乃は、その時に自分が、
――何もないところから新しいモノを作るのが好きだ――
 という性格であることに気付かされた。
 占いやおみくじに凝りたくなったのも分からないわけではないような気がした。
――ゲンを担ぐというが、そういう意味なのかも知れないわね――
 と思った。
 ゲンを担ぐというと、スポーツ選手などのような勝負師の人たちがよく口にすることであるが、何か新しい目標を持っている人すべてに言えるものではないかと、梨乃は考えるのだった。
 梨乃は、いろいろなことを考えながら本を読んでいると、不思議と、本の内容が自分の考えている方向にどんどん向かっているのを感じた。
――まるで私が考えて小説を書いているような気がしてくるくらいだわ――
 勢い込んで読み込んでいた。ただ、それは今までのように、端折って読んでいたり、ラストを読みたくなってしまったりという気持ちではない。順序立てて読んでいくことに満足していたのだ。
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次