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半分夢幻の副作用

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 不安に感じるということは、まわりが見えていないことが原因で不安に思うのだ。
 まわりとは、目の前のことから、自分の身体を中心にグルリと廻ったものになるのであろうが、それだけではない。過去から続いている現在、そしてこれから続いていくであろう未来に対しての不安があるのだ。
 まず、現在を不安に感じるのは、
――今まで信じてきたことの延長が現在であるならば、その線は本当に自分にとって間違っていない線だと言えるのだろうか?
 そうやって考えてみると、五里霧中に入り込んでしまう。可能性は無限にあると思っていることの中で、進んできた自分の今を否定してしまうことになりかねないからだ。
 不安というのは、誰にでも、いつでも付きまとっているものだと思いと、少し気が楽になる。ただ、その境地に行きつくまでに、いろいろ考えたりするのだ。そのほとんどは堂々巡りを繰り返し、結論など出るはずもない。簡単に結論が出るくらいなら、不安による悩みなど、誰も持つことはないからだ。
 堂々巡りを繰り返している時、それを抜けるためにエネルギーがいる。そのエネルギーが憤りのエネルギーだというのも、皮肉な気がしている梨乃だった。
 交通事故や、踏切の警笛や遮断機がいつも頭の中にあるのも、憤りから生まれるエネルギーが意識の中で形となって残っているからなのだろう。
 梨乃は自分の中の記憶の中で、交通事故も踏切も、いつも同じイメージだということを信じていなかった。時と場合によって、それぞれのシチュエーションは変化する。柔軟性があるというべきなのか、エネルギーという形のあるものではないものなので、変化しても、それは当然のことだとして理解できることなのか分からない。ただ、一つ言えることは、その二つが紛れもなく梨乃のエネルギーとなって、不安という袋小路を抜けさせることのできるものだということだった。
 梨乃が中学時代を思い出す時、一世代前を思い出したように感じるのは、そのワンクッションに、エネルギーが存在しているからなのかも知れない。
――子供の頃の記憶は、中学時代の自分に戻ってからでないと、思い出すことができないような気がする――
 梨乃は、そう思っていた。
 中学時代の自分に戻るということは、記憶の中にある意識を表に出すことだが、それは夢の中でないとできないことだと思っていた。
――同じエネルギーでも、夢の中と現実世界の中と、二種類あるのかも知れないわ――
 と思うようになったのは、自分の人生に、世代という節目が存在していることに気付いてからだった。
 現実世界でのエネルギーは、堂々巡りを抜けるためであったり、不安の中に蓄積するものであったりするのだが、夢の中でのエネルギーは、
――過去に戻る――
 という力を借りるためのものだった。
 現実世界では、不安が付きまとっている限り、前の世代を思い出そうとすると、どうしてもオブラートに包んでしまって、実際の真実の記憶なのかどうか、信憑性に欠けると思っている。それを補ってくれるのが夢の世界であり、ただ、目が覚めるにしたがって、忘れたくない記憶として頭の中に残っているのが、過去の記憶であることは、このことでも証明できるのではないだろうか。
 梨乃にとって、夢のエネルギーを、
――本当のエネルギー――
 だと思うような感覚がある。それは、現実世界でのエネルギーが無意識で展開されていることを分かっているからだ。エネルギーの存在をなかなか見極めることができなかったのは、無意識な力が働いていたからであろう。
 夢の中で力を発揮するエネルギーは、それだけ夢を神秘的なもの、そして潜在意識を感じさせるものとして存在しているのかも知れない。夢から覚める時に、どうしても記憶の中に残らないのは、世界が違っているからで、そこにエネルギーが存在しているということを思うと、余計にその理屈を理解できるような気がするのだ。
――夢にはオブラートなんて存在しないんだ――
 一番夢がオブラートに包まれていると思っていた感覚が、まったく正反対になった気がするのだった。
 オブラートに包まれている夢を想像した時、オブラートに包まれた粉薬を思い出していた。
 子供の頃に嫌いだった粉薬も、オブラートに包めば何とか飲めた。飴のようなお菓子もオブラートに包まれているとおいしく感じたもので、それを思い出すと、またしても、子供の頃の記憶がよみがえってきたのだ。
 今もそうなのだが、今よりも子供の頃の方が、薬を飲むと、すぐに睡魔が襲ってくる。今でこそ、
「薬を飲むと眠くなる」
 という話を聞いているので、眠くなるのも当然だと思っていたが、子供の頃はそんな話は知らない。
 今は、どちらかというと、話を聞いたせいで、眠くなっているような気がする。それだけ暗示にかかりやすいのだ。
 だが、子供の頃はそんなことは知らないので、本当に薬が効いていたのかも知れない。
 子供の頃は、気が付けば眠くなっていたという感じだったが、大人になってからというもの、
――眠ってはいけない――
 という意識があるせいか、何とか睡魔と闘っていると、指先に痺れを感じて来て、そのまま起きていることが不可能になるのを感じている。
 暗示にかかりやすいという意識は子供の頃からあった。
 だが、大人になってからの方がその意識が強いのは、占いに対して意識があるからなのかも知れない。
 占い師に出会う前の日、鉄道事故があったあの日も、梨乃は体調を崩していて、頭痛薬を飲んでいた。
「頭痛薬は、眠くなる成分はあまり入っていない」
 と、聞いていたが、どうしても薬を飲むと、胃薬や整腸剤以外は、眠くなるように思えてならなかった。
 それでも、手足に痺れを感じている状態で薬を飲んだのだから、睡魔が感じられても仕方がないだろう。
 事故に対しての苛立ちと、薬による睡魔とで、梨乃の頭の中は正常ではなかったのかも知れない。その日一日は、まるで夢を見ているかのようだった。
 会社に出社すると、溜まっていると思っていた仕事は、すでにさばかれていた。誰も梨乃の仕事をさばいてくれるはずもないし、梨乃以外の誰かが、梨乃が出社する前にこなしてしまわなければ間に合わないほど、切羽詰ったような仕事でもない。
――いつの間にか、自分でやっていたんだわ――
 そういえば、今朝は夢の中で仕事をしていたような気がする。前の日に捗った意識がまだ梨乃の中に残っていて、それを夢に見させたのかも知れない。
 薬を飲んだ時は、自分の意識の中にないことを、いつの間にかこなしていることが多かった。
――要するに、こなしたことを忘れているだけなんだわ――
 そう思うと、別に大したことではない。
 やったつもりで、実はまったく手をつけていなかったなどというと洒落にならないが、ちゃんとこなしているのだから、問題にすることもない。
 むしろ、無意識のうちにでも、やらなければいけないことは、きちんとこなしている自分を、梨乃は誇らしげに思うくらいであった。
――まるで自己催眠のようだ――
 薬を飲んだから、前の日のことを忘れてしまっているのか。薬を飲まなくても、すでに体調が悪い時点で、忘れてしまっているのか、考えたこともなかった。だが、今回は、
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次