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半分夢幻の副作用

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 むしろ占いは、梨乃にとってあまりいい思い出はない。子供の頃に占ってもらって、素直に信じてしまったことで、素直さゆえに、余計なことをしてしまったことがあったのを思い出してしまった。
 蔵人に悪戯してしまったのも、その思いがあったのかも知れない。
「あなたは、素直な女の子なので、そのまま自分の思った通りのことをしなさい」
 と言われたような気がしていた。
 自分の性癖と素直さは紙一重だ。蹂躙することが自分にとって素直な行動だったのか分からないが、蔵人に対しての蹂躙も、梨乃にとって、精神的な「事故」のようなものだったのかも知れない。
 一過性のものだと思っていたが、蔵人にとっては、一生消えないトラウマとして残っていて、一緒にいなくても、絶えず梨乃を意識することで、
――いずれ出会うまで、梨乃の気持ちから離れないようにするんだ――
 という気持ちを強く持っていたのだろう。
――彼の中には、私にはない、特殊な能力が備わっているのかも知れない――
 そう思うと、
――自分にも何か特殊な能力が備わっているとするなら、それは私だけのものだと思うのは、自分の思い上がりであって、他の人には、他の人なりの特殊能力を、誰もが持っているのかも知れない――
 という考えに至っても不思議ではない。
 特殊能力は、個性という形で普段は、表に出ることもなければ、本人はもとより、誰にもその存在を信じている人はいないであろう。もし信じている人がいるとすれば、それは占い師などの、特別な人たちだけではないかと思うのだ。
 占い師は、その人を見ると、その人にどのような特殊能力が備わっているのか分かるという特殊能力を備えている。その上で、あまり相手を刺激しないようにうまく引き出させるのが仕事なのではないだろうか。特殊能力がどれほどの力を発揮できるかまでは占い師にも分からない。それだけにデリケートな側面を持っているだけに、説明の仕方も、微妙なのであろう。
 梨乃は性格的に、素直ではあるが、素直というよりも、一直線で融通が利かないところもたくさんある。一度、苛立ちを覚えると、なかなか元には戻らないもので、苛立ちに至った経緯の数倍引き戻すには力が必要だった。下手をすると、一気に怒りの頂点まで行き、切れた状態にならなければ、リセットされることはないということも、今までには少なくなかった。
――私って、不器用な性格なんだわ――
 と、いつも感じていた。
――しかし、どうなるものでもない。性格とはそういうものではないだろうか?
 と自分に言い聞かせていたが、言い聞かせる性格も元々が一直線なもの。向こうも一直線、こちらも一直線。お互いにどちらかから歩み寄らない限り、決して交わることのない平行線を描いてしまうであろう。
 鉄道会社への憤りなど、その最たるものだと言えるのではないだろうか。
 いい加減、他の人であれば、諦めをつけていることだろう。
――妥協も一つの解決方法なのかも知れないけど、私にはできないわ――
 それは自分が自分に屈服するような気がするからだ。要するに、
――自分にウソはつけない――
 というのが、梨乃の中にある性格以前の大前提だったからだ。
 自分にウソをついてしまっては、何が真実なのか分からなくなる。
 真実が分からないと、自分がどっちに進んでいいのか分からない。真実があってこそ、意識することなく、前を進むことができると思っているからである。
――自分にとっての真実は、意識することもなく、前を向いていけるもの――
 として絶対的なものでなければいけない。
 その真実を曲げるような出来事が目の前に現れたのであれば、梨乃はその真実を守るために、自分を表に出して、抵抗するに違いない。今までにそこまで大層なことがあったのかどうなのかまで自分でも分からない。
 ただ、夢の中では、いつもそのことを確認しているのではないかと思うことがあった。
――だから、覚えていない夢が存在するんだわ――
 と梨乃は考えていた。
 忘れたくない夢もあれば、忘れてしまいたい夢もある。その根本には、
――梨乃にとっての真実――
 というものが確実に存在し、見えていないつもりでも、目の前にいつもあるのだ。
 それは路傍の石のようである。
 普段から目の前にあるにも関わらず、存在感すら意識することはない。
――灯台下暗し――
 という言葉があるが、その言葉の本当の意味は、自分にとっての真実を見ることだと梨乃は勝手に思いこんでいた。
 憤りに関しては、鉄道会社だけに限らず、まわりの人たちでも、モラルのない人間に対しては大きく向けられた。
 たとえば、路上での喫煙など、怒りがこみ上げてくることがあった。そのほとんどの人が「ポイ捨て」であることは明らかで、それが当たり前のようになっていることに憤慨していた。
――どうして、誰も何も言わないのかしら?
 梨乃自身も憤慨はするが、実際に文句を言うことはさほどないので、人のことは言えないが、それだけに、我がもの顔で、咥えタバコを吸っている連中に対して、苛立ちを覚えなければいけない自分に腹も立つのだった。
「他の喫煙者は、ちゃんとルールを守って喫煙しているのに、不心得者がいることで、ルールを守っている人まで白い目で見られるのが理不尽だ」
 と、話をしていた喫煙者がいたが、まさにその通り、それぞれの人の立場から見ても、一部の不心得者に対しての憤りのエネルギーは相当なものである。梨乃は、そのエネルギーを他の人よりも分かっているような気がしているのだが、それが、自分の中での特殊能力に影響しているのではないかと思うことがあった。
 誰もが持っているかも知れない特殊能力。自分の能力すら分かっていないのに、他の人のことが分かるはずなどない。
「人のことはよく分かるのに、自分のことはなかなか分からないものだよ」
 という話も聞いたことがあるが、梨乃にはそれが当て嵌まらないような気がしていた。
 ほとんどの人は、確かに自分のことよりもまわりのことの方がよく分かっているのかも知れない。だからこそ、特殊能力というのが他の人にはないと思っているので、
「まさか自分に特殊能力などあるはずはない」
 と思っているに違いない。
 梨乃のように、まわりのことよりも、自分のことをよく分かって当然だと思っているからこそ、どこかで自分の特殊能力に気付くのだ。
 自分の特殊能力に気付けば、まわりの人も持っているのではないかという発想になるのも無理もないことで、
――自分が分かれば、まわりも分かる――
 という発想に行きつくのだった。
 自分の特殊能力に気付くためには、大きなエネルギーを必要とする。梨乃は、そのエネルギーを、理不尽な憤りの中から得ることができた。
 怪我の功名というべきか、自分では、
――ただでは起きない性格――
 だと思っているが、それもエネルギーを感じているからなのかも知れない。
 ただの偶然も、エネルギーを持つことによって、その人にとって大きな力となり、偶然だと思わせることでも、大事な発見に結びつくことがあるというものだ。
 梨乃の中では、不安も大きなエネルギーの一つだった。
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次