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半分夢幻の副作用

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 本当の初恋の相手が蔵人であるとするならば、初恋がいつだったかというのが分からなくて当然である。初恋を無意識の中で意識しているとすれば、自覚しているのは、
――認めたくない――
 という思いだけだ。
 火のないところに煙は立たないが、認めたくないという思いも、元々の初恋の相手だという気持ちの強さを分かっているからこそ、生まれてきたものなのだろう。
 梨乃は蔵人の話を思い出していた。彼の話は、まるで夢の中の梨乃を、表から見ているようだ。
――そういえば、夢を見ている時、どこからか見られているような意識があった気がする――
 とは思ってみたものの、見ている場所は自分と同じ高さから見られているわけではなかった。
 普段意識している空を、まったく意識しない時がある。梨乃は自分が夢を見ているのだと感じることがあったが、その時、潜在意識が夢を見せているという思いを感じることが何度かあった。
 夢というのは、いつ見たのか分からないという意識がある。
 子供の頃に見た夢なのか、ついこの間見た夢なのか、意識として曖昧なことが多い。
 子供の頃に見た夢だと思っても、実際は最近見た夢だと思うのは、夢の中で、自分とまわりの環境との時代が明らかに違っている夢を見た時に感じることだった。
 学校の夢を見ていて、同級生の皆は卒業して、大学生になっている。自分だけが制服を着て、まだ高校生であった。
 学校に、卒業したはずの同級生が現れて、
「一緒に大学に行こう」
 と誘いに来る。
「えっ、私まだ卒業してないはずじゃなかったのかしら?」
 と思っていると、さっきまで着ていたはずの制服が私服に変わっていた。
――そうだわ、私は卒業したんだわ――
 そう思うと、気が付けば空を眺めていた。すると、さっきまで空だと思っていたものは、実は精巧にできたドーム状の天井だったのだ。
 その向こうが割れて、誰かがこちらを覗いている。それが自分だと気付くと、縦長の部屋を想像できた。
 まさしく、夢と妄想の世界である。縦長の世界を見ている自分を想像するのは、今までに何度もあった。そして、それを感じると、
――最近見た夢ではないか――
 という意識を感じるのだった。
 梨乃は、小学生の頃に、初恋だと感じたくなかった相手と再会し、今度こそ、十年来の初恋を感じたのだとすれば、どうして、中学時代のクラスメイトを車に乗せたのが蔵人だということを、わざわざ夢で見せたのであろうか?
――本当はあの時、車に乗せられるはずだったのは、この私だったのではないだろうか?
 と、梨乃は考えた。
 そして、その声を掛ける役目が、本当は蔵人ではなかったのかと思うと、今の状況は、高校時代に起きていたことだったのかも知れない。
――あの時が早すぎたのか、今が、遅いのか。どっちなのか、梨乃には分からない。ただ過去に遡って考えると、あの時が早すぎたということはない気がする――
 交通事故を目撃したその場所と、クラスメイトが車に連れ込まれる場面が同じ場所であったというのは、意識の中にあるだけのことだった。クラスメイトが車に連れ込まれる時がいつだったのかは、ハッキリと高校時代だと言えるのだが、事故を目撃した時期がそれより前なのか後なのか、今では記憶が曖昧である。
 どちらの記憶が鮮烈だったかというと、やはり交通事故の記憶の方が鮮烈であったはずだ。しかし、記憶の中に鮮明に残っているのは、クラスメイトが車に連れ込まれるところであった。
――まるで自分がされているかのような意識だったわ――
 と、感じたからであろう。
 梨乃は、今から思うと、あの時の記憶が本当に違うシチュエーションでの記憶だったのかということを疑問に感じていた。
 一つは、遮断機の下りる時の警報機の音が、あまりにも近くで聞こえたからだ。
 確か、クラスメイトが連れ込まれる時も、警報機の音が鳴っていたような気がする。それ以上に、赤い点滅の眩しさが、交通事故の激しさを今でも頭に浮かべるのだ。
 そう思うと、事故は自分の間近で、しかも、踏切の近くで起きていた。そして、梨乃はその事故を目の前で目撃したような気がしていたが、実際には見ていない。自分の後ろ側から聞こえてきたのだが、自分には交通事故どころではなかったのだった。
「助けて」
 と声を出したつもりだったが、誰にも聞こえるはずもない。
 遠くの方で誰かがこっちを見ているが、あれは、クラスメイトの梨乃だわ。
――えっ、梨乃?
 それは自分ではないか。自分が連れ去られようとしているのを、もう一人の自分が見ている。梨乃が、もう一人の自分を意識するようになったのは、この時が初めてだったのではなかったか。
 助けを呼んでも誰も来てはくれない。
 諦めの境地に至ったのは、こちらを見ているのがもう一人の自分であり、もう一人の自分は、まさか自分が連れ去られようとしているなど、知る由もないだろう。
 見えているのかいないのか、こちらをきょとんとした表情で見ている。まさか違う人に見えているなどということはないだろうか。もしそうであるならば、自分からも見捨てられたことになる。
――このまま、私はどうなってしまうのかしら?
 車を運転している人に、見覚えがある。
 確か、子供の頃の記憶に似たような男の子がいたような気がしてきた。
 その子は、子供の頃に引っ越していった。運転している男の子は同い年のはずなのに、車の運転をしているなんて、
――無免許かしら?
 と思ったが、急に自分が、女子大生であるかのような気分になった。
 まわりは皆大人になっているのに、自分だけがまだ、高校生……。
 そんな夢をよく見るのを思い出した。
――ということは夢なのだろうか?
 夢というのは、自分に都合よく見ることができるものだ。都合よく見ているつもりでも、気が付けばすべてが潜在意識の成せる業であることも少なくなかった。今回のことも夢だとすれば、潜在意識の中でのことではあるが、目が覚めて、果たして理解できる内容なのかというと、すべてを理解できるような気はしてこなかった。
 梨乃は完全に、この連れ込みを夢だと思っている。
 ただ、こちらを見ている自分は、夢の中のただの登場人物だと思っていたが、実際には夢を見ているのは、向こうの方で、自分はその中の登場人物かも知れないという意識はなかったのだ。
 だから、登場人物の目線で見ることができず、さらに登場人物をもう一人の自分として意識できなかった。
 本来なら、夢の中での主人公が、もう一人の自分のはずなのだが、そこまで意識がまわっていないのは、クラスメイトの女の子に対して、そういう妄想を抱くような偏見と、恨みのようなものがあったからだ。
 彼女は、かなり高飛車で、しかも梨乃を目の敵にしているところがあった。機会があれば、
――怒りをぶつけることができればいいのに――
 と思うことがあった。ぶつける怒りは夢でしかないのは分かっているので、夢に出てきた女の子をクラスメイトの女の子だという意識で結びつけてしまったのは、無理もないことだ。
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次