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半分夢幻の副作用

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 実際の高校受験は、何とか乗り切り、志望校に入学できた。
 しかし、高校受験の時の苦しさが頭に残っていて、高校ではどうしても、自分の実力を発揮できる気がしなかった。高校時代が暗く寂しい時代だったと思うのはそのせいで、入学するまでの苦労が報われることはまったくなかったのである。
 その時の夢と、
「笑えない話」
 である小説とを思い浮かべると、夢を見るのが怖いことがあった。
 正夢を見ることができるようになったことも、恐怖を深める理由でもあった。
――夢を見ることは、「死」や「暗闇」を意識させる――
 という感覚である。
 暗闇に関しては、母親が夢に出てきた時に感じる、自分と母親との距離の深さの中に大きな溝があり、そこは谷底になっていて、広がっているのが、
――限りなく底のない暗闇――
 なのだという感覚があるからだった。
――死にたくない――
 という感覚は、中学時代までは、
――痛いことや苦しいことが怖い――
 という思いが強かったのに比べ、高校時代から後は、
――今の暮らしがなくなってしまうこと、これから訪れるはずの楽しいことがなくなるのが怖い――
 という思いが強くなった。
 高校時代の暗いイメージを考えれば、これから起こる楽しいことがなくなるのが嫌だったのだろう。
 成長期である高校時代は、やはりまだこれから起こる未知の世界に対しては、不安よりも期待の方が大きかった。
――今はどうだろうか?
 今は、どちらかというと、これから起こることへの期待よりも、不安の方が大きい。まだまだ年齢的にはこれからなのだろうが、どこか釈然としない思いもあるからだ。
 梨乃が中学までと高校からとの間に分岐があると感じたのは、死に対してのイメージの違いがあるからだろう。
 そして今を
――第三世代だ――
 と思うのも、将来に対して感じる期待と不安の割合によって感じているのではないだろうか。
 第二世代と第三世代との厳密な分岐がいつだったのかは、ハッキリとしない。第一世代と第二世代の間にある中学と高校の分岐のようにハッキリしていないのだ。
――それだけ、今が毎日を漠然として過ごしているからなのかしら?
 と梨乃は思った。
 今回占いについて考えるようになったのも、ある意味分岐かも知れない。今まで分岐だと思っていた第二世代と第三世代の違いのイメージが自分の勘違いで今だったのかも知れないと思うのも、まんざら間違っていないようにも思えてきた。
 そして再会した蔵人が自分にどのような影響を与えているというのだろう。確かにここ数日で、梨乃を取り巻く環境はどんどん変化しているように思う。今の梨乃はこの変化に確かについていっていない。この変化を怖いという思いもあるが、期待が大きいのも事実である、
 蔵人が睡眠薬を入れたなどというのは、きっと妄想に違いない。妄想と現実の狭間は、夢と現実の狭間とは違うものであろうか? 梨乃にはまったく違うものに思える。同じであれば、夢を過小評価している自分と、妄想を過大評価している自分のどちらを信じればいいのかを考えてしまうからだ。
 彼が言った、
「小説をラストから読む」
 と言ったくせ、これが伝染であるとすれば、彼との距離を自分が考えているよりも感じていないのかも知れない。それは元から望んでいたことではないはずなのに、短いと感じただけで、彼に惹かれてしまっているかも知れない自分を感じた。
――あれだけ、彼を弄んだのに――
 相手が弄ばれたとは思っていないのであれば、梨乃が忘れてあげればいいことである。しかし、忘れてしまいたくない自分がいるのも事実で、
――本当に彼も忘れてくれるのかしら?
 と思うと、決して彼が忘れるはずのないことを意識している自分を感じた。逆に彼が梨乃に惹かれているとしたら、その時のイメージがあるからなのかも知れないが、今の彼からは子供の頃のイメージはまったくない。苛めたり苛められたりしたという感覚ではなく、スキンシップのようなイメージを彼が持っているのかも知れないと思うのだった。
――苛められて悦ぶという性癖の人もいるというけど――
 分かってはいても、今の彼にはそれを感じない。颯爽とした雰囲気は、梨乃に対して、
――包み込んであげる――
 という、立場的には完全に子供の頃と逆転しているイメージであった。
 梨乃は自分が臆病であることを、他の人に知られたくないという思いをずっと持っていた。それは梨乃だけではなく、誰もが同じ気持ちなのだろうが、梨乃はそうは思っていなかった。
――他の人は、誰も自分のことを臆病だなんて思わないんだわ。だから、私から見て、まわりは、皆自分より自信を持っている人が多いんだわ――
 と感じていた。
 自分だけが、まわりに対して臆病になり、不安が拭いされないと思うようになったのは、夢の中で母から、
「あなたは人間ではないのよ」
 と言われたことが原因だったような気がする。
――まわりの友達も、皆親から作られたサイボーグなんだわ――
 と感じるようになった。
 ただ、人間ではないことが、本当に自分よりも優れているのかどうか、疑問であった。自分よりも劣っているという気はしないが、優れているとも思えない。
――じゃあ、自分とまったく同じだというの?
 と考えるとそれもおかしい。それであるならば。自分もサイボーグではないかという疑問が湧いてくる。不思議な感覚だ。
――友達は皆、自分がサイボーグだということを知っているのだろうか?
 親友と呼べる人がいるわけではない梨乃にとって、まわりの人はある意味平等である。特別好きな人がいるわけではなく、嫌いな人がいるわけでもない。もっとも、友達だと思っている人に、嫌いな人がいるわけもなく、やはり、あれから友達に対して、人間だという目で見れなくなってしまった。
――皆がサイボーグなら、行動パターンを読むことだってできないわけではないわね――
 何かの法則に従って、それに伴い行動しているはずである。人が考え、造ったものであるならば、人と同等か、それ以下でしかない。それ以上ということは絶対にありえないのだ。
 そうなると、普通に考えれば、行動パターンを読むことがさほど難しいわけではないだろう。もちろん、時間が掛かるのは当たり前のことだが、行動パターンが分かってくれば、梨乃は、行動パターンを予想することも不可能ではない。
――占い師が言っていたように、私が占いに関わることもできなくないんだわ――
 と考えるようになった。
 さすがに、まわりの友達が本当にサイボーグなどと思っているわけではないが、サイボーグのつもりで見ていると、案外、皆同じパターンで行動しているように思えてくるようになった。
 言動だって同じことだ。
 誰かが一つの意見を出すと、それに対して逆らう人はあまりいない。友達として会話しているのだから、それが当たり前だと思っていた。それは発言者に気を遣っているということ、そして、下手に逆らうような意見を言ったものなら、その人から恨まれてしまうのではないかという思いに駆られることで、逆らうような意見を言わないのが当然に思えた。
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次