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半分夢幻の副作用

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 やはり、意識の中で混乱しないためであろう。現実世界での意識には限界があり、いくら潜在意識が見せる夢と言っても、現実社会と混乱してしまっては、うまく世の中がまわっていくはずがないという考えの元、夢のメカニズムが築かれているように思っているのだ。
――だったら、夢を格納している場所に限界はないのだろうか?
 という疑問にぶち当たる。
 その時梨乃は、
――異次元のようなポケットがあって、その中には限界なんてないんだわ――
 という仕掛けになっていると、理解するようにしていた。
 実際の現実とは少し違った夢を見たことにいろいろ思いを巡らせながら、梨乃はその日一日の後半は、また本を読むことにした。一度睡眠を摂っているので、今度はそう簡単に眠くなることはないような気がする。しかし、それでも同じ場所で読書を続けることは、先ほど睡眠に落ちていく時の気持ちよさがよみがえってこないとも限らないので、場所を変えることにした。
 梨乃には、読書をする場所には事欠かない。今までにいくつもの馴染みの喫茶店を作り、そこで読書をするのがまわりの人には趣味であることを暗黙の了解として分かっているようだった。
 その日は、駅前の喫茶店で読書をすることにした。駅前までは少し距離があるが、そこを選んだ理由は、一番店内が暖かく感じられるからだった。
 その日をそのまま読書で終わり、家に帰ってくるのであれば、そこまで暖かさにこだわることはないのだが、帰りに昨日の占い師のところへ行ってみようと思っていたことで、梨乃は迷わず駅前の喫茶店を選択した。
 駅前と言っても、駅に近いというだけで、場所としては、少し商店街から裏道に入ったところになっている。いわゆる、
――隠れ家――
 のような喫茶店であるが、梨乃はそこが気に入っているのだ。知らない客ばかりの店よりも、常連で持っている店の方が入りやすい。皆それぞれ気を遣ってくれるのもありがたいし、食べ物のおいしさも気に入っていた。
 梨乃は昼ご飯を食べることもなく、家を出た。
――完全なる熟睡――
 だったこともあって、完全に目が覚めたわけではない、夢の余韻に浸っている中、重たくなった身体を起こし、洗面を済ませると、服を着替えた。朝から出かける時と違って、昼下がりから夕方に掛けての外出の場合、梨乃はなるべく地味な服装をすることにしている。紺色を基調にした服に着替えると、少し寒さを感じる風に吹かれながら、駅を目指すのだった。
――こんな時間に出かけるというのも、久しぶりだわ――
 休みの日は、表に出るなら午前中と、大体は決めている。昼過ぎまで家にいる時は、出かけることもなく、家にいることが多い。要するに、出かけるのが億劫なのだ。
 店の扉を開けると、アルプスのヒツジが首からぶら下げている重たい鈴の重低音が店内に響いた。その音は複数回聞こえ、客が来たことがすぐに分かる仕掛けになっている。
「やあ、梨乃ちゃん、いらっしゃい」
 馴染みのマスターが、まだ梨乃の顔を確認する前に、梨乃に話し掛けた。ここのマスターは不思議な能力があるようで、
「扉の鈴の音で、誰が来たのか、常連さんなら、大体分かるんだよ」
 と言っていた。
「どうしてなんですか?」
 と聞いてみると、
「どうしてなんだろうね? 自分でもハッキリと分かっているわけではないけど、どうも音の強弱と、鈴の音が鳴る回数で分かるような気がするんだ」
 と言っていた。
 マスターの店ということで、それなりに店に対しての思い入れがあることで、他の人には分からないことが、
――店主だから――
 という理由で分かることがあってもいいだろう。
 マスターが最初から、
――自分の店であることを自分の中で常に自覚していたい――
 という思いから、無意識に研ぎ澄まされた感覚の中で、他の人との違いを自分なりに考えたのかも知れない。そう思うと、梨乃は、自分にとってもこの店が、
――他の友達の知らない、自分にとっての隠れ家――
 として大きな存在であることを感じ、誰にも感じることのできない何かを無意識に感じているのではないかと思うこともあった。
 梨乃にはいくつか馴染みの店があるのだが、このお店は他の店とは大いに違っている。今時珍しい、
――アンティークな造り――
 となっていて、ずっといて飽きることがない。読書だけではなく、常連さんとの話も普通にできるので、趣味についての会話から、時々、自分でも気付かなかった思わぬことに気付かされることもあり、まるで目からウロコが落ちた感覚にさせられることもあった。
 いつも基本的に読書から入る。それは、目的が最初から読書の時が多いからだ。梨乃は性格的に、
――自分のやりたいことを先に済ませてからでないと、他の人と話したりするリラックスした時間を持つことはない――
 と思っていた。
 梨乃は、自分の趣味を半分は「ノルマ」のように位置づけている。ノルマというと自分に課すテーマが大きすぎるが、「目標」と言ってしまえば、それほどプレッシャーのかかるものではない。
 目標といっても、段階がある。大きな目標を達成させるために、日々の目標を立てることは当然のことだ。
――全体でこれだけであるので、何日かかるだろう。では、その日一日の目標はこれくらいだ――
 と考える。
 しかし、少し矛盾もしていることは分かっていた。何日掛かるかということは、一日をどれくらいのペースでできるかということを先に考えていなければ、全体の目標など立てられないだろう。だが、一度広げた目標を、またそれを日々のペースに戻すことは、却って目標の確認にもなっていいことではないだろうか。
 梨乃は普段から、一日一日を大切にするように心掛けている。それは学生時代にしようと思ってできなかったことだ。学生時代は勉強が主であり、勉強というと、どうしても、
――やらされている――
 という受け身の発想が強かった。
 しかし、仕事を始めると、会社では歯車の一部のように思うが、それでも給料をもらって頑張っていることで、自主性を感じることができる。そのため、一日一日を大切にすることができるのだと思っている。
 梨乃の自主性という考え方は、他の人とは少し違っているのかも知れない。だが、そう思うことで少しでもプレッシャーや歯車になっていることのストレスが解消されるのであれば、それが一番いいことだと思っている。梨乃にとって自主性は、これまでの自分の生き方を変えることのできる一つのキーワードになっていることだろう。
 さっき、完全な熟睡に入った時、急に襲ってきた睡魔だったこともあってか、どこまで読んでいたのか曖昧になっていた。
 しかも覚えている夢の中の半分は、小説の内容に近かったので、意識としては、どこまでが夢で、どこまでが小説で読んだ内容なのか、漠然としていたのである。
 夢の中では、環境としては自分の知っている世界だったのだが、シチュエーショや、登場人物の一部に小説で読んだ人が入り込んでいた。
――夢と現実の意識の交錯――
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次