こころのこえ 探偵奇談13
ただでさえ外からやってきた住人だから、近所のひとたちとうまくやっていこうと気を遣っていたらしい。両親揃って、「いいひと」なのだ。旦那さんも優しそうなタイプだった。ひとと争いを起こすような人物ではない。
「このあたりに、そんな嫌がらせするようなひといないよね?」
転居してきた住人に嫌がらせをするようなひとはいない。この辺りは新興住宅地であり、子育て世代が多く住む。高校生の郁でさえ、どの家にどんな世帯が住んでいるかだいたい把握している。それくらい開かれた、結びつきの強い地域なのだ。
「しょっちゅうブレーカーが落ちたり、掃除機とか洗濯機が故障したりね。そのストレスで夫婦間のケンカも増えて、莉子(りこ)ちゃんに悪影響でしょ」
莉子は弟と同じ登校班であり、郁とも面識がある。
「欠陥住宅なのかなあ?」
「…お皿がびゅんって跳んだり、ほんの一瞬でテーブルが逆さまになってたりするのが欠陥住宅って呼べるのかしらね。警察に相談しても無駄だって、そう考えてらっしゃるみたい」
郁は息をのむ。それは、怪奇現象ではないか。
「だから引っ越しを考えてるっていうご相談だったわけ。面白おかしく吹聴しないのよ」
「うん…言わないよ。でも心配だよね。家の中がそんななら、落ち着かないだろうし」
せっかく買った家なのにね。母はそう言ったきり、食事の準備に戻った。引っ越しを考えるくらい悩まされるなんてかわいそうだなと、郁はそのときはそう思う程度だった。
「かーちゃんご飯〜!早くう〜!」
「はいはい」
弟が食卓につき、やがて父が帰宅し夕食を囲む頃には、すっかりその話題は忘れてしまっていた。
しかしその夜、菊川家の事情は郁の懐に深く侵入してくることになる。
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作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白