こころのこえ 探偵奇談13
部活が終わって部員らが弓道場をあとにする。部誌を記入していた伊吹は、急に玄関がざわざわと騒がしくなったことに気づき立ち上がる。
「なんだ、騒がしいな」
「あ、主将…」
女子部員たちが色めき立っている。弓道場の入り口ににこやかに立つのは、天谷颯馬(あまたにそうま)だった。
「部活は終わった。ほら解散だ」
「はあい、さようなら」
伊吹の言葉に女子たちがきゃあきゃあ言いながら散っていく。立っているだけで周りを騒がせてしまうのだから困った男だ。颯馬とはなんだかんだと濃い付き合いになる。神社の息子で非常に強い守護を持っている。その力に、伊吹や瑞は幾度も助けられたり、トラブルに巻き込まれたりしている。
「何しに来た?」
「冷たいな先輩。郁ちゃんに用事です」
一之瀬に?
訝しんでいると、背後から郁が出てきた。
「主将、お先に失礼します」
「あ、郁ちゃ〜ん!」
「颯馬くん!どうしたの?」
「ん?一緒に帰ろうと思って。だめ?」
何だって?にこやかな颯馬と、ぽかんと口を開けている郁の間で、伊吹もまた固まる。
「あたし美波と約束してるから、またね!ごめん!」
伊吹が口を開く前に、郁は風の様に走り去ったのだった。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白