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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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こころのこえ 探偵奇談13

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京都ほどではないが、この町にも冬の厳しい寒さが押し寄せている。瑞は冷えた手をストーブで温めながら、なかなかそこを離れられないでいた。弓道場は寒い。射場から吹き込む風が冷たい。

「須丸〜、次の立ちおまえだぞ〜」
「手が、ちべたいんです…」
「これくらいでブーブー言うんじゃないよ。ほら行け!」

先輩達にストーブを取られ、瑞はしぶしぶ弓を手にする。が、寒い寒いと感じるのはここまでだ。射場に入ってしまえば、寒さも暑さも感じない、というか意識しない。意識と五感は、弓を引くことにのみ集中するからだ。

ちょうど、伊吹が射を終えたところだった。凛とした後姿を見送り、瑞は二人で別れを告げたもう一人の自分について考える。

(先輩は、どんなふうに思ってるのかな)

あれから伊吹は、瑞のことを名前で呼ぶ。だけどそれは、失われたもう一人の自分を呼んでいるわけではない。神隠しの間に起きた一連の流れが、伊吹を変えたのだと思う。あれから、二人では何も話していない。だから伊吹が、別れを告げたもう一人の瑞についてどう考えているのかもわからない。ただ、妙に清々しい表情で、吹っ切れた様子なのはわかる。

(あ、外した)

全く集中できていないまま射を終える。

「なんだ、いまの気のない立ちは」

伊吹が呆れたように言い、瑞は反省した。後ろから見られていたようだ。

「すみません…」
「もう一回だ。集中しろ」
「はい」

もっと気合いを入れなくては。

「心配すんな」
「え?」

矢取りに向かう瑞の背に、伊吹の声が掛かる。彼は後輩達の射を見守る背中をこちらに向けたまま、静かな声で続けた。

「あいつは、ちゃんといるよ」
「……」
「いつも一緒だろ」

伊吹がどんなふうに「向こう側の瑞」との別れを消化したのかはわからない。それでもその声には、後悔とか悲壮さとか、そういったものは含まれていなくて。いつもの物静かな声だけど、瑞を安心させてくれるそんな言葉だった。

「はい」

だから素直に受け止めた。いつも一緒。大丈夫。伊吹が言うのなら、間違いないだろう。




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