こころのこえ 探偵奇談13
「…いいですけど」
拗ねている瑞の前に、立ち上がった伊吹がやってくる。そして。
「わあ、先輩なに?」
伊吹は瑞の髪を両手でかき混ぜる。わしわしと、小さな子どもにするように。
「もー!もじゃもじゃなったじゃん!」
ようやく手を離した伊吹を見上げると、彼は優しく笑っていた。伊吹がこんな表情を見せるのは、珍しい。なんだろう、慈しむような視線だった。
「おまえのことも一之瀬のことも、俺は大事に思ってるよ。あ、颯馬も」
突然そんなことを言う。
「おまえらみんな、かわいいかわいい。いい子だなあ」
そう言ってまた、もじゃもじゃと瑞の髪をかき混ぜる伊吹。
「…だから、なるべく、悲しんだり、傷ついたりしないでほしいと思ってるだけ」
「……」
「ほんとにそれは、思ってるんだ。いつも」
それだけ言うと、伊吹はもとの場所に座って、再びテレビをつけたのだった。瑞はもじゃもじゃの髪を撫でつけながら、釈然としない思いのまま先輩を見つめる。
(ナンナノ…)
意味は、よくわからにけれど、それでもすごく温かい気持ちになった。このひとは、いつでも自分たちの味方なのだ。そう感じられる。どんなときも。嬉しいような照れくさいような思いで、瑞は膝に顔を埋めた。
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作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白