こころのこえ 探偵奇談13
「…で、おまえは何?一之瀬の好きな男を知りたいの?気になるの?」
「…なんか一之瀬が、どんどん大人っぽくなっていくっていうか、綺麗になってくっていうか、俺そういうの焦るんですよ。前まで、一緒に子どもみたいにはしゃいでたのに…」
口を尖らせ、子どもじみたことを言っている自分が恥ずかしくなってくる。
「クラスの女子に言われたんです。恋してるから綺麗になってくんだって」
ああ、俺は何を言ってるんだろう。だけど、伊吹は笑わなかった。静かに瑞を見つめて沈黙したあとで、優しい声でこう言った。
「おまえは、一之瀬がその男のために綺麗になってくのが悔しいんだろ」
え?
「先輩、それってどういう…」
「さあ、自分でよく考えてみればいいんじゃないの」
「えーなにそれ…」
もやもやしてるから相談してみたのに、と瑞は再び口を尖らせる。
「一之瀬がもしそいつと付き合うことになったら、瑞はどうするんだ?」
「え?そりゃあ…うん、一之瀬が好きなやつなら俺だって仲良くしたいかな…でも付き合う前にちゃんと面接して、悪い男じゃないってわかったらの話」
面接、と吹き出して伊吹がけたけた笑いだす。
「おまえはパパか!」
「だって!宮川主将レベルの男じゃないと俺許しませんから!変なやつに引っかかったらどうすんの!?」
「あはははっ!」
珍しい、伊吹が爆笑している。ソファに背をあずけ、身体を揺すって。何がそんなにおかしいんだろう。瑞はは解せない。
「ごめん、笑いすぎたな」
ひとしきり笑ったあとで、伊吹はようやく身体を起こした。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白