こころのこえ 探偵奇談13
「…どう?」
郁が心配そうに尋ねてくる。
「変な気配とかは全くしないんだけど…」
そう言いかけたときだった。
勝手口のガラス戸が鳴った。ガタガタと誰かが揺らしているかのように。しかしガラスの向こうに人影などない。
「嫌だ…まただ!」
莉子が瑞の服の袖をぎゅうっと握る。
「大丈夫。風だよきっと」
「うん…」
やがてその音は収まり、家の中に静寂が戻ってくる。本当に風だったのだろうか。それとも…。
「ここで転んだ事あるの」
莉子は勝手口の床を指す。緊張気味の声は少し震えている。
「ママの料理を手伝ってたときに、突然どんってお腹をおされて」
恐怖を思い出しているのだろう。青ざめた表情。
「ほかにも…いっぱい…痛いことばっかり…怖いことばっかり…こんな家、もう嫌…帰りたい、おばあちゃんのいる家…」
「莉子ちゃん…」
かた、と小さな音。静かな部屋に、その音は大きく反響し、三人の視線が一斉に注がれる。
シンクの上に伏せてあったコップがひっくり返り、カラカラと音をたてて転がっている。誰も触っていないのに。振動もないのに。莉子の嗚咽が更に大きくなる。
「やだ、もうやだよ…!こんな家だいっきらい!」
バン!と大きな音がして、郁が悲鳴を上げる。食器棚の扉がものすごい勢いで開いたのだ。誰かが内側から力任せに開けたような、そんな勢いで。
「もうやめてよお!意地悪しないで!」
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白