こころのこえ 探偵奇談13
「病気だった。もう長くなかった。でも親もじいちゃんも俺には教えてくれなかった。ばあちゃんが言うなって、そう言ったんだって」
それは優しさなのだろうか。それとも、何か別の意図があったのだろうか。祖母がいなくなった今では、確かめようもないけれど。
「いなくなったとき、夢なんだと思った…現実じゃないんだって」
どんなに心を交わしたひとであっても、どんなにたくさんの思い出を築いたひとであっても、死は必ず訪れて、何もなかったかのように、そのひとのいない人生が始まる。今ではもう、切ない温かい思い出と、身にまとう祖母の香水の匂いだけがよりどころだ。瑞だって、この数分後に死んでしまう可能性はゼロじゃない。そういう世界を自分たちは生きている。生きているのは奇跡なのだ。
「それ以来、大事なひとはすぐそばに置いておかないと不安なんだ。じいちゃんまで、俺の知らないところでいなくなったら、耐えられないから…それで俺、こっちに…」
話しながら、もう怖くなる。祖父がいなくなるなんて、言葉にするもの恐ろしかった。
「…あ、」
口をつぐんだところで沈黙が下り、瑞は我に返る。こんなことを小さい子に話してどうするんだと、恥ずかしくなる。
「えっと、だから、うーんと、莉子ちゃんとパパとママが、一緒のおうちでまた仲良くできるように、俺頑張るから」
「…瑞、おばあちゃんに、会いたい?」
莉子がこちらに身体を向け静かに尋ねてくる。祖母の顔が浮かぶ。思い浮かぶその顔も、これから少しずつ忘れていくのだろうか。それを考えると、瑞は怖い。とても。
「うん…会いたい。話したいこと、いっぱいある。お別れお礼も言えなかったから。後悔ばっかりだ」
悲しかったね。そう呟いて、莉子が静かに視線を外した。
悲しかったね。たった一言。
その瞬間、ああ理解してもらえた、と不思議な気持ちになる。こんな小さな子でも、悲しみを共有することが出来る。瑞は何だか不思議と、救われたような気持ちになった。悲しかったね、とそれだけの言葉だったのに。
「お待たせ!あったかいの買ってきたよ」
「あ、郁ちゃんだ」
「ありがとう一之瀬」
郁がコーヒーやココアの缶を持って戻ってきた。座ってそれを飲むと、身体が少し温まった。聞けば郁は、忘れ物や着替えを取りに行くという理由で、母から莉子の家の鍵を預かってきたという。これからその家に向かうことになるのだ。ポルターガイストの起きる家へ。
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作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白